旧 霊皇戦隊セイレンジャー 2

□第13話・1
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「霊皇戦隊セイレンジャー」第13話・最終話
            「明日へ」


2009年10月末日


都内

月が分厚い雲に隠れ、雨が降り出すよう‥そんな歩道を鮮血が染める‥

ジャシンが振り下ろした大鎌から、血が滴り落ちた。

信代「あ‥あぁ‥」

ジャシン「ククク‥おもしろい」

信代とジャシン‥その間に、真忍が飛び込んできていた。


それは、信代と孝太が福福を出てちょっとしてのことだった‥


店の裏側へ、台を置きに真忍がやって来る。

空の様子が重くなるのを感じ

真忍「雨‥降るのかしら」

ふと気づいたのは、

真忍「そうだ、信代さんと孝太さん‥雨に濡れたら たいへん」

傘を渡しに行くため、まだ遠くに行っていないか気を探ってみた‥

真忍「これは‥嘘‥ジャシン!」

弾けるように、
真忍は夜の街へと走り出していた


そして‥


信代「真忍さん!」

真忍は剣・花梗を鞭に変え、ジャシンを打つ。

ひらりと避けて、

ジャシン「命拾いをしたな、風の霊皇」

言葉を捨てると、暗黒の中に融けていった‥

信代「ま、真忍さん、すぐに手当てを!」

真忍の傷が気にかかり、動こうとする信代へ

真忍「私の事ならだいじょうぶです! それより皆に連絡を‥ジャシンが‥

ジャシンが生きていた!」

振り向かないまま、真忍は信代にそう言った。

信代「でも、こんなに血がっ」

真忍「だいじょうぶ‥だいじょうぶだから。

心配してくれてありがとう‥私は平気だから‥それよりも、皆に伝えて
警戒しなければ‥いつ、ジャシンが襲ってくるかわからないのだから」

信代「う、うん‥じゃあそこを動かないでね。

皆に連絡して、すぐに傷の手当をするから!」

信代は転精輪を繋ぎ、仁たちに事を知らせる‥

孝太は急いで道を引き返し、満優と凛雫とメアリー、勇護と侠真と源左衛門が

すぐに福福を飛び出て こちらへ向かっていると‥

ルナ、淑、餡子の救護チームももちろん、仁や愛理、伝助と総右衛門も福福を出た。

ごんとねん、珍平、君兵衛、缶吉は、サンパンヤンとともに心を守る役目に残る。

信代「真忍さん、今みんながこっちに‥真忍さん!?」

連絡を終え、顔を上げたときには真忍の姿はどこにも見えなかった‥

信代「真忍さん!!」

信代の悲痛な声が夜の街に吸い込まれる。

ポツリ‥ポツリ‥雨が落ちはじめた。


その後、孝太がまず最初に駆けつけた。

自分が信代をしっかり送っていればと、激しく悔やむ孝太であったが
それよりもなお、信代は動揺していた。

次に駆けつけた満優や勇護に‥侠真、凛雫、メアリーに
『ゴメンなさい』と何度も詫びた‥とっさのこととは言え、気を抜きすぎていた自分‥

何も出来ず、身動きひとつ取れないまま斬られかけたのを庇って
真忍が傷ついてしまったこと‥すべては自分の責任と、信代は自分を責めた。

愛理「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! しっかりしなさい、信代ちゃんっ」

錯乱状態と言っていいほどの信代を落ち着かせるために、愛理が信代の頬を叩く。

信代「愛理さん‥」

愛理「とりあえず真忍ちゃんを捜し出さなきゃ‥」

仁「それにジャシン‥アイツがまだ俺たちを狙ってるかも知れねえ」
勇護「身の回りにじゅうぶん注意を払い、真忍をとにかく見つけよう」

源左衛門「ならば俺はこっちを行くっ」

メアリーと2人、源左衛門は跳ねて行った。

満優、勇護‥侠真や凛雫、愛理や信代たちも それぞれに分かれて真忍捜索へ‥

伝助は伝えまフォン・赤でサンパンヤンに

『伝助式ガッチリ守りますんにゃわセキュリティーシステム』を
最大限のレベルへ引き上げるよう指示し、総右衛門やルナたちを率いて
夜の街を真忍を捜して消えてゆく。

降りしきる雨音の中、真忍の名を呼ぶ声が聞こえていた。


都内・ビルの隙間

雨脚は時間が経つごとに強くなり‥真忍の身体を容赦なく打つ。

フラフラと足取りもままならず、それでも真忍は歩みを止めずにいる‥

雨が真忍の身体から流れる血を消し、行方をわからなくさせていた。

真忍「はぁはぁ‥とと様‥うぅぅ‥」

よろけながらも、真忍はまだ歩く。

罪を背負い‥重すぎる十字架を背負うように、真忍は1歩1歩と歩んでいた。

よろけ、鉄階段の手すりに頭を打ち
転げるように真忍は倒れる‥仰向けに倒れた真忍の身体‥

左腰から胸を通り、右肩口まで大きく斬られていた。

息も荒く、霞み始めた目で真忍は‥空から落ちてくる雨粒を見ていた。

真忍「泣かないで‥泣かないで‥」

暗い空から落ちる雨粒が、大切なものたちの涙に思える。

真忍「あに様‥とと様‥凛雫‥満優姉さま‥勇護様…

私は‥私は幸せでした‥こんなに罪で汚れた私でも、みんなは許してくれた。

何日も何日も、楽しい時をすごせて‥

今こうして、大切な方のおひとりをお守りする事が出来たんです。

これほど、嬉しいことはありませんわ‥」

苦しげに咳き込む真忍‥そのたびに、口や傷口から血があふれ出す。

真忍「これくらいで‥私の罪が消えるとも思わない‥

汚れた私の身体が、綺麗になるとは思っていない。

だけど‥だけど‥」

また咳き込む‥

『んなこたねえ‥じゅうぶん、綺麗だぜ』

雨に打たれた侠真の姿が、真忍に見えた‥

真忍「あに‥さま‥」

そばにより、真忍を抱き起こす侠真。

侠真「どこ、ほっつき歩いてんだかな‥このバカ」

真忍「ごめんなさい‥あのままいたら‥の、信代さんに迷惑がかかると思って‥」

侠真「もう喋るな‥真忍」

真忍「あに様‥凛雫を幸せにしてね‥。

満優姉さまも勇護様も‥仁さんも愛理さんも、信代さんも孝太さんも‥

伝助たちにも、幸せになってと‥伝えてください」

侠真「そんなこたぁ、自分の口から‥いや、わかったぜ。

真忍‥しっかり伝えてやる‥それに、凛雫はこの俺が必ず守るさ。

だから安心しろ」

真忍「よかったぁ‥あに様、ありがとう‥

とと様も‥インガも‥ねぇ、あに様」

侠真「なんだ」

真忍「ジャシンにも‥みんなに生きていてほしい」

侠真「おまえ‥」

真忍「それが私の願い‥精霊世界も、人間世界も、生きて支えあってほしいの。

だって‥何も出来ないまま、死ぬのは辛いわ‥誰かを泣かせてしまうのだから。

生きている間、せいいっぱい命を輝かせて‥

誰かを笑顔にして死んでいきたい。

インガも、ジャシンも‥苦しそうな顔ばかりだったのよ。

だから命を大切にして、誰かを笑顔にさせてほしい‥

出来ることなら、その機会を‥うぅぅ!」

傷の痛みに悲鳴をあげる真忍。

溢れる血はとまらなかった。

侠真「しっかりしろ、真忍」

真忍「ねぇ、あに様‥聴こえる」

か細くなる声に不安を抱き、侠真に訊ねる。

侠真「あぁ‥聴こえるぜ」

侠真の瞳から、涙が溢れている。

真忍「ねぇ‥どうしよう‥また、とと様を泣かせてしまう‥苦しませてしまう。

とと様‥帰れない私を、許してくださいますでしょうか‥

最期まで、親孝行できなかった私‥あに様まで泣かせてしまって‥

泣かないで‥泣かないで、あに様‥お願い」

侠真「へへ、泣いてなんかいるか‥こいつぁ雨に濡れてるせいだ」

真忍「ほんとう?」

侠真「ああ、ほんとだ‥それに、親父には ちゃあんと伝えておくさ。

親父の事をいつも気にかけていた‥こんな俺とは違って、親孝行な妹だったって」

真忍「あに様‥大好き。

あに様‥優しい‥もう泣かないでね。

みんなにも、泣かないでねって‥」

咳き込み、息も絶え絶えになる。

ヒュー、ヒューと異音が混じり‥真忍の身体は冷たくなり始めた。

侠真「ああ、伝えるぜ‥真忍、寒かねえか」

真忍「ううん‥なんでだろう‥暖かいの‥すごく暖かい。

斬られて‥これが私への罰なのだろうけど‥神様も、あに様と同じで お優しいわ。

こんな私に、大切なときを与えてくださり

あに様に見守られて‥暖かい思いまでさせてくださるなんて‥

私には、もったいないほど‥」

侠真「真忍、あっちへついたら‥しっかり礼を言うんだぞ」

そう呟く侠真の胸は、張り裂けるよりもなお痛い。

真忍「はい‥。あにさま‥あにさま‥」

侠真「真忍‥真忍‥真忍!」

真忍「あにさま‥ありがとう‥」

雨に濡れながら、真忍は静かに瞳を閉じた。

侠真「真忍‥真忍ぉぉぉ!!」

真忍の身体は刹那、花びらとなって天へと散っていく。

慟哭‥兄の嘆きは深く辛く‥散る花びらを押しとめたいように‥雨の如く降り注いだ。


暗闇の中、どこをどう行けばわからずに不安がる真忍。

胸の辺りが仄かに光る‥取り出すと、カルマが持っていた指輪だった。

真忍「これは」

遠くから、ひづめの音が聞こえてくる。

真忍が見つめる視線の先に、ゴウラスに乗ったカルマが現れた。

真忍「カルマ」

真忍の表情から不安か消え、走り近づいていった。

ゴウラスは嬉しそうに真忍へ顔を擦り付ける。

真忍「うふふふ、くすぐったい」

カルマ「真忍様‥近衛騎馬隊隊長カルマ。

真忍様をお迎えに参りました」

真忍「ありがとう、カルマ‥あなたにこうして迎えに来てもらうのは2度めね。

カルマ、私の事は真忍って呼んでください。

もう私と あなたは王族や近衛騎士じゃない‥これからは2人一緒でしょ‥ねっ」

カルマは笑顔を見せる。

カルマ「わかりました‥ならば真忍‥さ、手を」

真忍の手を取り、ゴウラスの背中へ‥

真忍は、カルマの身体に手を廻し

しっかりと抱きついた。

カルマ「真忍、手を放すなよ」

真忍「はい。どこまでも一緒に‥」

ギュッと力を入れると

真忍「あったかい‥」

カルマ「さぁ‥行こう」

真忍「はい。そうだ‥私‥お礼を言わなければいない方がおられますの‥

でも‥そのお方の御前(みまえ)に、私はいけると思う? ムリかな‥」

カルマ「いいや‥いけるとも‥このカルマとゴウラスが、必ずそのお方の下へと
真忍を連れて行く。

もう誰も邪魔はしない‥その方が待つ、光の道を走っていこう」

ヒヒンと元気よく、ゴウラスも返事をする。

ゴウラスの背中に乗ったカルマと真忍‥2人は、闇の中の向こうに広がる
眩い世界へと消えていった。
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