付喪堂綴り・1

□第3章・2
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都内

死心力が渦巻く磯貝邸に、伝助とルナ、源左衛門とメアリーが集まっていた。

メアリー「ここだね、うちの子たぶらかしている女狐がいるのは」

伝助「いつのまに、そないな話が出来上がって しもぉとんねん。

ちゃうやろ、ピーノに相談したお姉さんが いはるところや」

メアリー「相談もたぶらかすも、いっしょだよっ」

伝助「いやいや、ちゃうやろ」

源左衛門「落着け、メアリー」

メアリー「だって、おまえさんっ」

ルナ「メアリーさん‥私もメアリーさんに賛成なんです」

メアリー「おや」

伝助「ルナぁ」

源左衛門は笑っている。

ルナ「でも‥ピーノが望む幸せが、かなずしも私たちの幸せとは限りません。

それでも、私たちに出来ることは
あの子の幸せを願って、叶えるために生きるのみです。

結果、あの子が傷ついたとしても
私たちは持てるすべての力で癒し、諭し、また歩かせるだけです」

メアリー「それが親なんだよねぇ‥ったく、ワリにあわないよ」

伝助「まぁまぁ、そないヤイヤイ言いないな。

あとでメザシをアテに、10杯でもやろうやないか」

メアリー「それを言うなら1杯だろ。

ショテから飲む気マンマンじゃないか」

クスッと笑うメアリー。

源左衛門「親という者は、ワリにあわないと決まっているものさ‥メアリー。

だが、誰よりも幸せでもある」

メアリー「あいよ、おまえさん」

そんな会話をしながら、4人は磯貝邸に近づいた。

メアリー「厄介な匂いがプンプンしてるねぇ」

ルナ「ピーノは‥いったい、何に巻き込まれたんでしょうか?」

『バカなボウヤがどうしたって?』

源左衛門「気をつけろ!」

突然発せられた謎の声にと潜む殺気に、跳ねて間合いを取る源左衛門。

メアリーはルナを連れて飛び避け、源左衛門に続いた。

伝助は、愛・伝えまフォン-赤を開いて
継・笹葉魂撃守圀景を取り出し、柄の部分がようやく実体化したところを握り
刀身が粒子のままの状態で、猛然と斬りかかっていた。

伝助「ちぇすとぉぉぉ!」

伝助の気合いに応じ、刃は完全に実体化。

ガシンッ!!

影は短槍を握り、笹葉の刃を受け止める。

伝助「誰じゃい、ワレは!?」

笹葉と短槍がぶつかり合う火花で、影の姿が浮かび上がった。

ルナ「蝕(エクリプス)!」

姉と名乗る堕天使‥蝕-エクリプス-。

蝕「あーら、誰かもわからないのに、いきなり斬りかかってくるなんて
凶暴なパンダね、アンタ」

伝助「そーか、お前がルナのゆーてたエクリプスっちゃーヤツか‥

おどれの殺気は、まともなヤツが放つもんや ないんでな!」

蝕「うふふふふ、可愛い子!」

短槍・ゴルゴダで笹葉を押し返し、鋭い突きを連続で撃ってきた。

伝助「んなもん!」

ヒョイと避ける伝助の背後から、円盤のソドムが襲う。

源左衛門「させん!」

続けて球体のゴモラ。

メアリー「そうは問屋が卸さないってね!」

それぞれ、人参聖刀・八百宗と鮪魔剣・魚正を手に
伝助を襲う物体を押しとどめる。

蝕「あははは、ウサギとネコに守られたパンダか。

可愛いわね!」

ルナ「エクリプス!」

ルナは回転飛び蹴りを放ちながら、蝕へと向かってくる。

蝕「待ってたよ、ルナ!」

受けるエクリプスもまた、連続の蹴りで迎え撃った。

ぶつかりあう、キック!

ルナ「くっ!」

後方へ飛びずさり、低い姿勢で身構える。

蝕「私のもとへ、帰ってくる決心はついたの? ルナ」

ルナ「それにはまず、事を順序立てて話すことがが、先でしょう!

訳も話さず、力でねじ伏せようとするあなたに

誰が組するものですか!!」

蝕「あぁら、頭が固いのは私とそっくり‥うふふふ」

メアリー「テメェがルナの言っていた、仮面の女かい!」

蝕「アンタが、淋しがり屋の小猫ちゃんね」

エクリプスはニヤリと笑い、ゴルゴダを突き出した。

メアリー「ほざいてな!」

短槍を避け、メアリーは跳ねて2段蹴り。

左手で触は蹴りを叩き落とし、右手でメアリーの喉元を鷲掴んだ。

メアリー「ぐっ!」

今に握りつぶさんばかり‥

源左衛門「メアリーっ」

助けんと源左衛門が、拳を撃つ体勢を見せるが
ソドムとゴモラが源左衛門を阻む。

ルナ「羽根よ!」

ルナは愛・伝えまフォン-桃から祈願大天使翼を取り出し
ソドムとゴモラを追い払った。

源左衛門は機を逃さず

源左衛門「その手を放してもらおうか!」

撃ち出す拳は『兎の牙』

一点に力を集中させ、繰り出される拳が蝕を叩く!

蝕はそのパンチをゴルゴダの柄で防ぎ

蝕「お前と子猫ちゃん、それにあのパンダの義弟から始末しておかないと‥

やっかいなことになるだろうね」

イラつく気持ちを乗せて、短槍の穂先が源左衛門へ走る。

ガキン! ゴルゴダとぶつかる人参聖刀・八百宗。

蝕「はぁい♪お強―い、兎さん。

できることなら、アナタとはお友達になりたいんだけど」

ウインクをしながら、蝕は艶やかに微笑む。

源左衛門「友と呼びたいのなら、友と呼んでもらえる行いをしてから言え!」

蝕「そんなにパンダを襲ったことが許せない? ウフフフ、義弟は幸せ者ねぇ

強い兎さんに慕われて」

源左衛門「お前がルナの姉というのは、本当のことか!?」

短槍を撥ね、斬り込む源左衛門。

ヒラリと刃をかわし

蝕「本当だったらどうするの? 私とも仲よくしてくれるかしら」

左手で取り出す銃・メギド‥源左衛門の眉間にピタリと狙いを絞り、引き金を引く。

メアリー「ふざけんじゃないよ!」

発射された光弾を、鮪魔剣・魚正で弾くメアリー。

メアリー「ウチの人にちょっかい出すのは、よしとくれ!」

剣を構えて、睨みつける。

蝕「アハハハ、子猫ちゃんの焼きもち‥可愛いわ♪

ゴメン、ゴメン‥アンタにはもったいないくらいの、いい男だったから、つい‥ね」

メアリー「あたしが子猫なら、テメェはドロボウ猫だね!」

蹴りを撃つメアリー。

先程絞められた首がまだ痛み、痛みの分だけ怒りがこみ上げる。

蝕「大切な大切な、兎ちゃんを取られたくなかったら

首に鈴でもつけておくといい、アハハハハ」

笑いながらメギドを乱れ撃ち。

メアリー「チッ!」

軽やかに避けて、敵の隙をうかがう。

源左衛門「メアリー!」

声をかける夫に

メアリー「あいよ!」

応え、息を合わせて走る2人。

側転から跳躍、空中で互いを押して方向転換。

めまぐるしく動く2人に、メギドの照準も右往左往。

メアリー「隙が出来た!」

すかさず叩きこむ、鰹鞭。

蝕「ぐっ!」

左手を痛烈に打たれ、たまらずメギドを落としてしまった。

源左衛門は全身に力をみなぎらせ、宙で回転しながらの蹴りを蝕へと放つ。

蝕「ええい!」

ゴルゴダの柄でキックを受け止める‥が、右手だけでは防ぎきれない。

腹部にダメージを負いながら、蝕は短槍を振り回した。

メアリー「槍なら侠真のダンナのほうが、1枚も2枚も上手さね!」

今は城ごと封印され、眠っている精霊族の霊将『侠真』の名を口にする。

蝕「そう‥けど、封印されてちゃ何を言っても おんなじよ!」

蹴りを繰り出し、メアリーとの間合いを取る。

しかし、側面から急角度に飛びこんでくる源左衛門!

蝕「なっ!?」

源左衛門「我が拳は、悪を潰すために有り!」

牙を突き立てんと、拳を突き出す。

まともに喰らってはいけない‥感じ取っている蝕は
咄嗟に円盤・ソドムを盾にした。

漆黒の翼を広げて、暗闇の羽を飛ばすエクリプス。

無数の羽根が、源左衛門とメアリーを襲ったが

伝助「羽根ペンって、書きやすいーーーん!?」

こちらが『なぜ今っ』と問いたいようなことを叫びながら
守りの太刀『笹薮』を放って攻め入る伝助。

伝助とルナを阻んでいたソドムとゴモラの陣形が崩れ
ルナとともに源左衛門たちのもとへと、駆け付けることが出来た。

ルナ「メアリーさんっ」

伝助「源左衛門、おまっとぅさん」

蝕のもとへ集まる、ソドムとゴモラ。

対する祈願大天使翼。

蝕「フフフフ、ルナ」

伝助「僕もおりまっせ!」

笹継の切っ先を蝕に向けて、伝助は意気込む。

源左衛門「伝助、用心しろよ‥アイツ、できる」

伝助「ああ、わかってる。

ただモンやなさそうやけど‥オマエ、付喪神やな!」

蝕「へぇ‥わかるんだ」

伝助「同じ付喪はん同士やから、わかるわいっ」

源左衛門「モンスタリアのホイピエロイドでも
ノワールのようなモンスターでもないと言うことか」

メアリー「付喪神‥じゃあ、ルナの姉貴っていうのも
まんざら嘘でもなさそうだね」

ルナ「あなたは‥私の姉だというのは、本当のことなんですか?」

蝕「アンタは私のことを覚えていないだろうけど
アンタが作られているとき、私はまだアンタの傍にいたんだよ」

ルナ「私の‥」

今は、教会より譲り受けて
付喪堂の深層部に管理保管されているルナの本体。

それを作った彫刻家が、この蝕も彫ったということなのであろう。

蝕「月光の天使‥ルナ。

人を信じられるほどに、幸せな暮らししかおくってこなかった私の可愛い妹」

ぎらつく瞳に、憎しみと殺気、そして悲しみが滲む。

伝助「源左衛門、メアリー‥なんやコイツの様子、イヤな予感がする。

早ぅ、ピーノのサポートに行ってくれへんか」

源左衛門「しかし‥」

メアリー「コイツ、厄介な相手だよ」

伝助「厄介なんは承知の助や‥

せやけど、僕とルナで乗り越えなアカン壁なんかも知れへん」

伝助は継・笹葉魂撃守圀景を握りしめ、ずいっとエクリプスの前に立ちふさがった。

ルナも祈願大天使翼‥6枚の羽根を従えて、伝助に続く。

源左衛門「わかった‥メアリー、行くぞ」

メアリー「でも、おまえさん」

源左衛門「誰しも、乗り越えなければならないことがある。

困難であろうとも、辛苦であろうとも‥俺たちに出来ることは、出来うる限り支え
見守り、立ち向かう友を信じること」

メアリー「ここは、信じること‥ってかい?」

源左衛門「ああ‥メアリー、ピーノに危険が迫っているようだ。

行くぞ!」

メアリー「あいよっ」

源左衛門は跳ねる‥

メアリー「ルナ、今日の晩飯‥楽しみにしてるからね」

ルナ「‥‥はい♪」

その言葉に絆を感じ、蝕はイラつく。

メアリーも源左衛門の後を追い、飛び跳ねて去っていった。
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