付喪堂綴り・1

□第4章・2
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住宅街

ショットを撃つピンク、蝕は塀を走ってブルーとイエローを蹴る。

椿はピンクの射撃を剣で撥ねて、斬りかかるもメアリーは魚正で止める。

椿「猫っ」

メアリー「にゃー」

いやいや、メアリー‥‥‥。

なにか通じるものを感じたのか

ヴァーミリオンの呼びかけに、メアリーは応えた。

椿「アンタ、あの黒いの‥堕天使を引き受けてくれるかえ?」

メアリー「アンタの狙いはピンクの嬢ちゃんかい」

椿「察しがいいね」

メアリー「だけどねぇ‥アタシゃ、出来るなら命を奪うケンカはしたくないからね」

椿「おや‥それだけ威勢が良くて、腕もあるのにもったいない」

メアリー「ハン、ケンカが強くたって どーにもならないよ。

おマンマのお足も稼ぐこたぁ出来ないし、稼げだとしても

誰かを傷つけてもらう銭で、おマンマなんぞ食いたかぁないしねぇ」

椿「ハハハハ、言えてるね‥けど‥

あたしはどうしても、コイツらを許しておけないんだよ!」

ピンクに斬りかかる。

頭部を狙った剣先を、メアリーは魚正で防いで

ヴァーミリオンヘ向けられたブレードの切っ先を、

左手に装着した鉤爪の『鰤爪』で阻む。

椿「どいて、ネコ!」

メアリー「にゃー!」

ピンク「どきなさい!」

メアリー「アンタは黙ってな!」

双方の剣をいっきに撥ね上げ、メアリーは回転脚の蹴り。

ピンクを大きく吹き飛ばし、ヴァーミリオンを退かす。

椿「猫‥」

メアリー「アタシの名前はメアリーってのさ」

椿「私は‥‥ヴァーミリオン」

メアリー「出来れば、鬼の姿になる前のアンタの名前を知りたいんだけどね。

まぁ、今日はいいさね。

次に会った時、聞かせておくれな」

ピンクは立ち上がり、ブルーとイエローも態勢を整えてショットを構える。

椿「この状況で独りで戦って、次に会う機会があると思うかえ?」

メアリー「ああ、あるね」

椿「おや‥」

SSDソルジャーズを睨み、

メアリー「邪魔ぁさせない‥付喪堂はね、助けを求めてきたヤツらの願いは
なにがあっても叶えてやるのさ。

それがアタシたちの信条さね!

そんなおもちゃを振り回して、いい気になってるお前たちにゃあわからないだろうが
誰にも立ち入れないことを、守ってやりたいのさ。

誰も邪魔しちゃいけないこともあるのさ‥

アタシゃ、独りで戦ってんじゃないんだよ。

現にこうしてる今でも、若いもんが必死にコイツらの手勢を食い止めてくれている」

ビーノとずずの奮闘は、見えていなくてもわかっている。

メアリー「それに、ココん中にゃ いつも仲間がそばにいてくれんのさね」

胸をポンと叩いて、笑って見せた。

椿「いい笑顔だねぇ、姐さん」

メアリー「あたり前だよ」

椿「そうかい‥気に入ったよ。

今日のところはアイツら戦うのは後回しだ‥姐さんの助っ人をしようじゃないか」

メアリー「おやおや‥意外と聞き訳がいいんだねぇ」

椿「誰にでもってぇワケじゃないさ。

あたしが惚れた気風には、惜しみなく力を貸すし

言葉に聴く耳も持つってもんよ」

メアリー「そうかい‥礼は取り立てて言わないが、その意気はしっかりと覚えとくよ」

椿「それでじゅうぶん!」

アチャラナータを構えて、ブルーとイエローに対するヴァーミリオン。

ブルー「キサマ!」

椿「下っ端がチョロチョロしなさんな!

今日は大目に見てやるが、次に会った時にゃ命はキッチリ貰い受けるからさっ」

なぜか、椿はメアリーに親近感を持っていた。

悪そうな喋り方、啖呵を切る威勢‥椿は歴史や時代劇が好きで

そんな椿だから、メアリーの言動に惹かれるのだろうが

いちばんの理由は、メアリーが かつて抱えていた孤独や復讐心を

『かつて抱えていた』ということをわからないまま
シンパシーを感じているからなのだろう。

それは蝕も同じのようで。

蝕「どけ! 人間っ」

ヴァーミリオンを越えて、蝕はピンクを襲う。

椿「気安く人を飛び越えんなって!」

アチャラナータを走らせる。

それをゴルゴダで受け

蝕「お前も消えな!」

蹴りを放つが、ピンクの撃つショットのせいで狙いが外れる。

メアリー「飛んだ乱戦模様って感じだねぇ」

蝕「ったく、ドコにもいい男なんていないのにね!」

椿「まったく!」

ヴァーミリオンとエクリプスのキックは互いにぶつかり、大きく後退する両者。

ピンク「このっ」

ピンクはアサルトライフルに、銃火器強化ユニットのSSD-Oを取り付けて撃つ。

住宅街のコンクリート塀は、紙屑のように散っていく。

メアリー「ったく、テメエらがやりたいことなら

誰に迷惑がかかろうと、しったこっちゃないってかい!」

怒りのキックはピンクの胸へ。

すぐさまガードするが、ガードごとメアリーは蹴り倒す!

ブルーと戦うヴァーミリオン、イエローと戦う蝕‥

椿「へぇ‥やるねぇ」

蝕「つくづく、手に入れたい子猫ちゃんだったのに」

メアリー「悪いね、アタシゃウチの人にしか なびく気ないんでね」

ニヤリと笑って、そのまま屋根の上へ。

メアリー「もうそろそろか‥じいさん、想いは伝えたかい」

ピンク「逃がさない!」

メアリーへ照準を合わせるが

椿「野暮なことはよしなよっ」

アチャラナータで斬りかかり、アサルトライフルの銃身を斬りおとした。

ピンク「クッ」

ブレードを構えて、間合いを取る。

ピンクの横にブルーとイエローは立ち、ショットを構えた。

椿「この次会った時は本気で獲らせてもらうからね‥猫、じゃあね!」

メアリー「にゃあ!」

ウスサマーはイチゴに遠隔操作され、ヴァーミリオンのもとに走ってきた。

飛び乗り、去っていく。

蝕「さてと‥それじゃ私も帰ろうかな。

子猫ちゃん、気が変わるのを期待してるわよ」

メアリー「100年待ってもムダだろうよ」

蝕「あはははは」

蝕の背中の鎖が漆黒の翼へ変わり、大空へと飛び去った。

メアリー「ピンクのこまっしゃくれた女と、青と黄色の野郎ども!

アンタたちの手下ども、息はまだあるから

とっとと傷の手当てをしてやんな。

それじゃあアタシは‥ごめんなはいよ♪」

ピンクがショットを連発するが、するりと抜けて消えるメアリー。

ブルー「ピンク、もうよせ」

なおもショット撃ち続けるピンクを、イエローは

イエロー「やめろ!」

なんとか制して、戦いは終わり‥

住宅街は、大きくソルジャーズの攻撃による爪痕を残されていた。


巧の家

傷だらけの巧は、薬草をしっかり掴んだまま帰宅した。

息を切らせ、神社からずっと駆けてきた様子。

あのあと‥ワンダーZが巧の頭に手をポンと置き、微笑んでからすぐのこと。

ワンダーZの身体が光り、宙へと浮いてそのまま消えてしまった。

このまま、永遠にサヨナラなのか‥『ワンダーZ !!!』叫び、巧は走り出した。

巧「ワンダ!!!」

泣き声交じりのその声は、庭の犬小屋の中で
グッタリしているワンダを呼び戻したかのようで‥

『クゥン』か細い声で返事をした。

ワンダは何も言わない‥でも、巧の胸には確かに届いている。

ワンダーZは、ワンダとして最期を迎えたかった。

巧へ伝えたかった想いはワンダーZとして届け

届けられた、生きるための強さは‥それは、確かに巧へと受け継がれた。

2人の別れを誰にも邪魔させたくない‥

そのために、ピーノは魔法を使って
動く力さえ残っていなかったワンダーZを ここまで運ぶ。

途中、ずずの協力でなんとか連れてこられた。

そして‥物陰からそっと見守っている。

メアリー「ピーノ、ずず、ご苦労だったね」

振り返ると、そこにメアリーがいた。

身体中傷だらけになりながらも、優しい微笑を見せるメアリーに
ピーノもずずも、母を思い浮かべる。

メアリー「さ、帰ろうか」

ずず「見届けなくて、かまわねぇんですかい!?」

ピーノ「巧くん‥だいじょーぶでしゅかねぇ」

メアリー「付喪堂への依頼はちゃんと果たしたさ‥これからは、2人の大切な時間さ。

それは、アタシたちが邪魔していいもんでも、覗き見ていいもんでもないさね。

別れの時間は、静かに送らせてやんな。

なぁに、あの子なら大丈夫。

じいさん、しっかり伝えたようだからねぇ‥時を置いて、また遊びに来てやんなね」

ピーノ「はいでしゅ」

ずず「へいっ」

こうしてピーノとずずは、メアリーに退く時の大事さを教わって
仲間が‥家族が待つ付喪堂へと帰っていった。
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