付喪堂綴り・1

□第5章・1
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山梨駅

ポテトチップスの袋に手を突っ込みながら、伝助はルナと歩いていた。

SSDの目があるので、電車内ではルナが持っている『ぬいぐるみ』のフリをして
『ぬいぐるみ』が『ぬいぐるみ』のフリをするという
ややっこしい状態の旅を経て、甲府駅から乗り継いで目的地に着いた2人。

ルナ「伝助さん、あまり目立つようなことは控えてくださいね」

伝助「わかっとるて。

目立たんように、はしゃがんように」

ルナ「似合わぬことは‥ってそれ、名曲の歌詞みたい」

伝助「心を見続ける、僕は時代遅れの男でおます」

ルナ「カッコいい♪」

仲睦まじく、パンダと天使の夫妻は歩いて行く。


その日の夜


町の塾は軒並み、しばしの休業となっていた。

が、それでも開いているところはあり‥

『さようなら』

挨拶して、塾を出ていく女子生徒。

親が車で迎えに来ると言っていたようで、国道沿いのコンビニ前で立っている。

が、なかなか来ない。

おそらく、仕事で遅くなっているのだろう。

キョロキョロと辺りを見回すが、親の姿は見えず‥

『まだかなぁ』

不安混じりに言葉を洩らす。


勝って嬉しい はないもんめ


『え?』


負けて悔しい はないちもんめ


『これって‥』

あの歌だ‥次々と女子生徒を襲っては、意識不明にさせているあの歌声。

女子生徒は思わず走った。


あの子が欲しい‥あの子じゃわからん
その子が欲しい‥その子じゃわからん


『ハァハァハァハァ』

息を切らして走り続ける。

追われるうちに、どんどん人気のない所へと‥


相談しましょ‥


『いやあぁぁぁ!』


そうしましょ‥


猛然と走ってくる『何か』は、女子生徒に襲いかかった。

『羽根よ!』

夜の闇を切り裂いて、赤・青・黄・ミ土・白・黒に輝く6枚の羽根‥
祈願大天使翼が女子生徒を邪悪な爪から守る。

しゃがみこみ、身動きできない女子生徒を守るため、ルナは駆け寄った。

伝助「ちぇすとぉぉぉ!」

このところの『エッチなだけ』キャラとは思われたくないらしく、
真面目に継・笹葉魂撃守圀景を手に、笹かまぼこを撃つ伝助。

ルナ「もう、だいじょうぶだからっ」

無事、女子生徒を保護。

ルナ「歩いていて、おかしな気が充満しているこの街を調べていましたけど‥
間に合ってよかった」

伝助の1撃を『何か』はスルリと避けて、そのまま去っていった。

伝助「逃げんな!」

後を追うとしたのだが‥

『臨兵闘者皆陣列在前‥はぁぁぁぁぁ』

九字の真言を唱えて、突如現れたその人影は

右手で結んだ刀印で伝助を急襲!

刀印‥人差し指と中指を伸ばし、残りの三指を閉じたものを刀印という。

右手の印が光り、結んだ刀印から『気』が迸って笹継とぶつかり合った。

『きさま、何者だ!』

叫んだのは若き僧。

伝助「山梨を訪れた、愉快でイケメンな観光客でおます!

オマエこそ、いきなり なにしてくれて けつかんねん!」

撥ねて、身構える伝助。

クルッと右方向へ身を回し、若き僧は錫杖を構えた。

若き僧「物の怪が観光か! オン・マリシエイ・ソワカ‥摩利支天の光を受けよ!」

仏教の守護神である天部の一柱・摩利支天の真言を唱えると
眩い光が錫杖に集まり、爆発するように伝助へと放たれた。

伝助「ほっほぉん、やるっちゅーんやなっ」

受けて立って、ササニシキ! 光を切り裂く伝助の刃。

若き僧「なっ!? 摩利支天の光を斬っただと!?」

伝助「イタタタ‥なんちゅー威力や、あの光」

痺れる手を軽く振り、伝助は若き僧の放った術に驚いているが
僧も伝助の力に驚いている様子。

若き僧「ならばもう1度! オン・マリシエイ・ソワカ!!」

光は走るが

ルナ「ルーチェ、撃ちなさい!」

羽根から放たれる光が光を粉砕し

若き「くっ!」

錫を逆さにして、刀を抜く。

『臨!』左から右へ振り抜く。

女子生徒を守るため、ルナは背中のリボンを翼に変えた‥

慈勇「て、天使!?」

驚く慈勇だったがそこへ

伝助「ルナ!」

サッと移動すると仕込み刀を笹継で受け止め、ルナを守る伝助。

ルナ「伝助さん!」

伝助「その子のこと、頼んだで!」

ルナ「はいっ」

若き僧の仕込み刀を笹継で受けたまま、伝助は木を蹴って押す。

僧はその力に押されて後退‥が、体を入れ替え

『兵! 闘! 者!』続けて縦・横・縦と斬りかかり

さらに『皆! 陣! 列! 在! 』横・縦・横・縦と連続攻撃。

若き僧「はあぁぁぁ! 前!」

気合いもろとも横一文字に振り抜く刃。

撥ねようとした伝助だったが

伝助「なんやとっ!?」

僧の放った九つの斬撃は、格子模様に集まり組み合わさって

いっきに爆発。

伝助「うわあぁぁぁぁぁ!」

立ち上る炎と煙に飲まれる伝助。

ルナ「伝助さん!」

若き僧「やった!」

手ごたえを感じ、勝利を確信した若き僧だったが‥

伝助「おぉぉのぉぉれぇぇ! うぅぅらぁぁめぇぇしぃぃやぁぁぁ!!!」

化けて出て、笹寿司!

若き僧「なっ!?」

伝助の突きをかろうじて仕込み刀で受けたものの、刀は粉々に砕け

自身は後ろへ転がり倒れた。

伝助「南無‥」

右手に刃を携えて、片手拝みのパンダ。

ルナ「もう、伝助さんったら!」

若き僧「う‥うぅ‥」

伝助「安心せぇ、加減して撃ってやったさかい
しばらく寝んねしとけば治る。

で、おどれは何もんや?」

若き僧「も、物の怪に名乗る名前など持ち合わせておらん!」

伝助の目が、きらりん☆

伝助「さよけ、そやったら名乗りたくなるようにしたろやないかっ」

笹継を構えて歩み出る。

若き僧「くっ、耳を削いでも指を切り落とされても
私は絶対にお前に屈しはしない!」

伝助「ひゃーはっはっはっはっはっ、ひゃーはっはっはっはっはっ」

刀身をペロペロ舐めて、人相(熊猫相)悪く大笑い。

僧が覚悟を決めてキッと目を閉じたその時

こーちょこちょこちょこちょこちょ!

こーちょこちょこちょこちょこちょ!!

こーちょこちょこちょこちょこちょ!!!

くすぐられて、若き僧は悶絶っ。

『や、やめろ!』『ひ、ひぃぃぃぃ』『にょ、にょわわわわわわ』

ジタバタすること20秒ちょっと‥伝助の超絶こちょこちょテクニックにより

若き僧「わ、私の名前は慈勇! 慈勇(じゆう)と申すっ」

伝助「やっとゲロりおったな」

ふふんとドヤ顔。

伝助「にしても、僕のこちょこちょに20秒以上耐えたんや。

おどれ、ホメてやるで」

刀を収めて

伝助「で、なんで僕らを襲ぉたんや? あの子を襲ったヤツの仲間か?」

慈勇「仲間? ふざけるなっ、お前こそ この土地でいたいけな少女たちを襲い続ける
物の怪であろうが!」

こーちょこちょこちょこちょこちょ!!!!!

慈勇「ぎゃあぁぁぁぁ、やめてぇぇぇ」

伝助「誰がド変態な物の怪じゃっ」

慈勇「じゅうぶん物の怪だっ! それにド変態とは言っていないっ!!」

こーちょこちょこちょこちょこちょ!!!!!!!

慈勇「あろなはくかとなやりよらりま!!!!」

もはや、なんといってるかわからないほどの悶絶っぷり。

ルナ「伝助さん、もうよした方がいいですよ」

ルナにとめられ、ようやくストップ。

慈勇はぐったりしている。

ルナ「慈勇‥さんとおっしゃいましたわね。

それは、あなたの誤解です。

私たちは、その物の怪とやらが起こす事件を
解決しに来た者たちです」

そういって、ぐったりしている慈勇へ名刺を手渡す。

受け取り、見ると

慈勇「不可思議萬請負業‥付喪堂‥ルナ?」

伝助「そうや、僕は付喪堂の伝助、こっちは僕の愛しのハニー‥愛妻のルナや」

慈勇「ならば‥そうか、お前たちは付喪神か」

伝助「まぁそういうこっちゃな」

ルナ「私たちは、おなじ付喪神や『不思議』なものたちや
その『不思議』なものたちによって悩んだり苦しんだりしている人たちを
お助けするのが仕事の者です」

慈勇「では、お師さまが言っていた精霊のざわめきも

近頃頻繁に起きている人の心の歪み、軋み、揺らめきも

みんなお前たちの仕業‥」

伝助「なんでやねんっ」

ツッコミ代わりの‥こーちょこちょこちょこちょこちょ!!!!!!!!

慈勇「うやにのなそはつっ!!! ご、ごめんなさいっ」

とうとう謝る。

伝助「わかったらええんや、わかったら」

振り返り、恐怖に震えていた女子生徒へ

久々の『可愛さアピールダンス』を見せる。

伝助「泣かんでええし、もう怖がらんでええよ、お嬢ちゃん」

その薄気味悪いダンスに女子生徒は『可愛い♪』

世の中、何が可愛いかわからないものである‥

『ザっ』誰かが近づく音。

老僧「ほほぅ‥付喪神か」

伝助「ん? おじいちゃんは誰どす?」

老僧「拙僧の名は慈宝(じほう)と申す‥そなたは、ちと風変りな付喪神じゃのぅ」

伝助「誰しもが、世界に1人といいまして、特別な存在どす」

慈宝「ふははははは、確かに」

老僧・慈宝は、すっかり伝助を気に入った様子。

慈宝「これ、慈勇よ。

まだまだ、未熟よのぅ」

慈勇「お師さまっ」

何とか起き上がり、正座。

慈宝「さて‥ひとまず その子を家に帰し‥それからゆるりと話をしよう。

いかがかな?」

伝助「よろしゅうおす♪」

そのあと、慈勇とルナは女子生徒を迎えに来て

いないことに慌てて捜していた親許へと返し

すぐに引き返して‥伝助、ルナ、慈宝、慈勇と
なぜかファミレスに入った。
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