付喪堂綴り・1

□第5章・2
2ページ/3ページ

伝助「ルナ、その子と おっちゃん よろしゅう!」

言うが早いか、伝助は笹寿司で鬼女へ突進。

渾身の突きで鬼女の身体を宙に浮かせて

伝助「おどれみたいな卑怯もんは、僕が絶対に許さへん!!!」

伝助の怒りで たぎる魂力は、笹継の刀身を夕日色に染めた。

伝助「笹葉紅葉☆」

滅多に出さない、伝助・必殺奥義。

魂力を注ぎ込むことにより、笹継の刀身が橙色に発光。

切れ味も強度も格段に上がり、もちろん破壊力も上がる。

そう‥まさに主役にふさわしいフィニッシュブローを撃って
自分が『主役』だとアピールするために設けた機能だっ!

伝助「じゃかあしい!」

ちょっと怒りつつ‥口で『ちゃららら、ちゃららら、ちゃららら‥』

某・ヒーローの必殺技時のBGMを奏でながら、鬼女を睨みつける。

襲いかかる鬼女。

伝助はその鬼女の下をササッと潜り抜け、立ち位置を変えて‥

振り向く鬼女の脳天から激しい1撃!

伝助「伝ちゃん・ダイナミック・クラッシュ・フラッシュ・フィニッシュ!!!」

舌を噛みそうな名を叫んで斬る。

鬼女「ぎゃあぁぁぁぁ‥‥」

オレンジ色の強烈な光に包まれて、鬼女は粉々に砕け散った。

光の粒子が舞う‥その中に、冷たくなった昌子が横たわっており、伝助は保科のもとへ。

伝助「おっちゃん‥」

笹継を鞘に納める。

保科はルナに抱かれ、ぐったりと倒れていた。

保科「す‥すまない‥」

伝助「僕とちゃう‥謝る相手がちゃうで」

初枝が保科の傍へ駆け寄った。

初枝「おじさん!」

悲痛な声だ‥

保科「初枝ちゃん‥ごめん‥」

慈勇は伝助に殴られた頬を抑えながら歩いてきて

慈勇「これは‥」

伝助「今回の騒ぎは‥1人の女の子が亡くなってしまはりはったことから
起きた騒ぎや‥そやろ、おっちゃん」

保科はコクッと頷く。

伝助「塾の前で手がかりを調べとったとき、気になる事故のニュースが目についてん」

慈勇「事故?」

伝助「去年やったな‥おっちゃん」

保科「あ、あぁ‥」

伝助「保科千代ちゃん‥当時11歳。

川で溺れてしもぉて、病院に搬送される途中で‥」

保科「千代は死んだ‥溺れてしまって。

昔の子は自然を恐れ、自然を愛し生きていた。

だから川がどんなに怖いものか、そして暮らしに大切かをよく知っている。

今の子は自然を恐れることはなく、

自然さえも人の手でどうにでも出来ると間違って教わり、生きている。

だから‥‥不用意に川へ近づき、その命を沈めてしまった。

千代は昌子が40を迎えてやっと授かった子で、私もその時40半ば。

待ちわびて待ちわびて、もうあきらめかけたときに授かり
生まれてくれた一人娘だった‥何よりも大切だった‥この命よりも‥」

涙があふれる。

『千代ぉぉぉぉ』

水面でグッタリと浮いていた千代を抱きかかえて、保科は岸へと歩いてくる‥

『いやぁぁぁぁ』

響くサイレンの音の中、その車内で鼓動が止まった娘。

青白い腕が、土色に代わっていくさまが目にこびりついて離れない。

保科「なんで‥なんで今の親は子を簡単に1人にする?

塾に行かせる

仕事があるから

親も子も、何かと言っては離ればなれになって
自分たちの時間を過ごす‥それはそれでいい。

それが当たり前で、いつかは巣立つのが子供だから。

それでも、まだ巣の中にいる子供まで1人にするのはなぜだ。

子供を襲うヤツラがいると言うのに‥私たちによってこれだけ襲われてると言うのに
無理強いしてまで、塾へまだ通わせる親がなんでいる」

ルナ「その子の勉強のため‥将来のために塾へ通わせる。

そう言いつつ、それは親のエゴからなのかも知れません」

伝助「でも‥学ぶことは必要や。

ただ、なんも塾だけやのぉて
学ぶことは どこでも でけるけどな」

保科「子供はペットじゃない‥まして、自分の分身でもない。

ひとりの人間だ‥。

勝ち組と負け組‥人生において勝ち負けを人は安易に比べたがり、自惚れる。

富むか貧するか、子がいるかいないか。

ちっぽけなことを比べ、競う。

それが愛情だと言い訳して。

それは違う。

親は見守り、叱り、誉めてやって、ただいっしょに泣いて、笑えばいい。

ただ、信じてやればいい。

私は‥私たちは、それが叶わなかった‥」

ゴホゴホと咳き込む‥そのたびに血を吐く。

伝助「もうええ‥それ以上、喋ったらアカン」

言葉を振り切って

保科「泣きくれる私たちに、あの女は近づいてきた」

ルナ「天祈‥」

保科「自分は霊能力がある‥昌子はその言葉に惹かれた。

藁にでもすがりたい気持ちだったんだろう‥

信じる霊能者に、祈りと多額のお布施を捧げれば
死んだ娘の声が聞こえるようになると誘われ

一心不乱に祈る昌子の姿を見て‥言葉通りにしてやろうと思った。

いや、私自身もなにかにすがりたかった。

朝も昼も夜も祈り続け、毎日を過ごしていく。

そんなある日、天祈様は言った‥

子供の血液、生気をご神体に捧げれば、亡くなった実子が蘇るとだろう‥と」

慈勇「そんな!」

保科「その言葉に私たちは震えた‥恐怖でもなんでもない

ただただ、喜びで震えた。

そんなバカな話と疑うこともなく、天祈様の言葉を信じて‥」

伝助「それで、こないなことを始めたんやな」

頷く保科。

伝助「子供を襲い始めて‥けど最初はちょこっと血ぃ吸うたりして

それを天祈に持ってくだけやったんが

いつの間にか『もっと』と要求されるようになった‥そんなとこやろ?」

保科「そうです‥そのころからだ‥昌子の身体も変化しはじめて‥」

伝助「要求は どんどんエスカレートしてくる」

保科「とうとう、子供をさらって連れて来いと」

ルナ「さらった子を‥きっと食べるつもりだったんでしょう」

慈勇「悪鬼羅刹‥血に飢えた魍魎」

保科「天祈様は昌子にお告げをくだされた‥娘の友達だった子を差し出せと」

初枝の顔が強ばる。

保科「ごめんよ‥すまないと、心の底からと思っている」

初枝「おじさん‥」

強張った表情を懸命に振り払い、初枝は保科の手を握った。

保科「温かい‥私はこんな温もりを奪おうとした‥」

気が遠のいていく。

伝助「しっかりしい!」

ルナ「伝助さん、どうしよう!」

飛んで運ぶにも、傷は深く出血も酷い。

搬送中に亡くなるのは必至‥

伝助「きっと‥奥さんはどこかで‥早ぉに亡くなってもぉてたんやと思う。

大切な子を亡くした心労から来る身体の不調や病気やったんか
自分で自分を殺してしまはったんか 僕にはそこまでわからへんけど

きっと娘さんを亡くしてすぐに、亡くなりはってたんやと思う。

そこを、あの鬼に身体を乗っ取られたんや‥」

慈勇「死した者の身体を奪い、人に仇名す魔物もおります。

クッ、なんで‥なんでもっと私は早く気が付かなかったんだろう」

悔し泣きする。

慈勇「しかも、気が付かないばかりかことが明るみになっても見破れもせず

伝助さんの邪魔をして‥結果、あなたをこんな目に」

伝助、ルナ、保科へ手をつき、頭を下げて詫びる。

ルナ「責任があると言うのなら、それは私もです‥あのとき‥ぶつっかたあの時に
もっとしっかり気配を感じ取っていれば‥」

保科「いいや‥悪いのは私です。

昌子の苦しみから目を逸らし、自分も助かりたいと逃げて
昌子がそんなことになっているのも知らなかった‥私が悪い」

ルナ「いいえ、なにがあっても死んではダメ、命をあきらめてはいけません!

お願いだから、生きてください!!」

溢れ出す胸の血を手で押さえるルナ‥止血しようと魂力を送る。

保科「こんな私の目の前に、天使が空から舞い降りた。

剣を突き付け、私の過ちを正そうと舞い降りてくれた。

私はその時、自分がいかに恐ろしく愚かなことをしようとしていたかを思い知りました。

そして‥大切な娘の親友だった子を‥

私たちをいつも気遣ってくれた、優しい初枝ちゃんの命を奪おうとしていたのに
初枝ちゃんも私のために泣いてくれる‥手を握りしめてくれる。

天使の貴女も今、私のために涙を零して
その手を血に汚してまで助けようとしてくれている。

ようやく気づきました‥私は悪魔に魂を売ってしまっていた。

これ以上‥これ以上、悪魔に堕ちることなく‥私の罪滅ぼしです‥この命は‥」

伝助「アカン! 死ぬんわ なんも償いにならへんっ。

生きて償わなっ」

ルナ「救急車はまだ来ないのっ」

焦る2人‥

慈勇は立ち上がり、ゴシゴシと涙を拭いて

印を結ぶ‥両の親指を揃え、残りの指を組む『薬師如来印』

慈勇「まだ私の方力では、如来、菩薩の力を借りることは出来ないかもしれません‥

でも、だからといって あきらめたり逃げたりなんかしたくない!」

全身全霊かけて、印に力を集中させる。

慈勇「オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ‥

オン ビセイゼイ ビセイゼイ ビセイジャサンボリギャテイ ソワカ‥」

ボゥと印が光るが‥


山中

慈宝は岩の上に坐していた。

慈宝「慈勇よ‥世の中は広い。

広いようで狭く、その実とてつもなく広い。

そして天地、その先の世はもっと広い。

だが、人は誰しも広い世界へと出られる。

内なる心に広い世界を持つ人は、さらなる広き世界へと踏み出せる。

お前は今日‥その1歩を進めた‥」

慈宝もまた、薬師如来の印を結ぶ。

慈宝「ノウモ バギャバテイ バイセイジャ クロ ベイルリヤ ハラバ

アラジャヤ タタギャタヤ アラカテイ サンミャクサンボダヤ タニヤタ オン バイ

セイゼイ バイセイゼイ バイセイジャサンボリギャテイ ソワカ」

身体より解き放たれる力は宙へ舞い上がり、慈勇のもとへ飛んでいく。


慈勇「オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ‥

オン ビセイゼイ ビセイゼイ ビセイジャサンボリギャテイ ソワカ‥」


『ノウモ バギャバテイ バイセイジャ クロ ベイルリヤ ハラバ

アラジャヤ タタギャタヤ アラカテイ サンミャクサンボダヤ タニヤタ オン バイ

セイゼイ バイセイゼイ バイセイジャサンボリギャテイ ソワカ』

慈勇が結ぶ印に、慈宝の印が重なって見えた。

慈勇「お師さま!」

爆発する輝き。

光は保科の身体を包む‥
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ