付喪堂綴り・1

□第7章・1
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ピーノ「おにいしゃん、出て行っちゃったでしゅ」

ルナは床にぺたんと座り、両手で顔を覆って泣いていた。

メアリー「よしよし」

優しく頭をなで

メアリー「ま、夫婦ってもんは多かれ少なかれ
こんな日は あるもんさね」

ぶつかるのは仲のいい証拠‥メアリーたちはルナを慰めた。


都内

伝助が付喪ライナーを飛び出して1,2時間。

公園‥12月末の公園は寒い。

雪もちらつくと予報されている。

Zzz‥Zzz‥どこからかイビキが聞こえる。

Zzz‥Zzz‥どうやら、土管風の遊具の中からだ。

中には木の板が引かれていて、座ったりできるようになっている。

そこに‥1人の少年が寝ていた。


都内

ルナはみんなから『気分転換でもしておいで』と

付喪ライナーを停車して、街に降ろしてもらった。

どこに行くともないのだが、街をウロウロ。

クレープを食べたりしてみる。

ルナ「あっ、美味しい‥ねえねえ。伝助さん」

一口食べる? そういいかけて、伝助は隣にいないことに気が付いて‥

グス‥鼻を少し赤くしたルナがいた。


公園

Zzz‥Zzz‥Zzz‥Zzz‥Zzz‥Zzz‥Zzz‥Zzz‥はっくしょん!!!

飛び起きた少年。

年齢は‥16,7といったところだろうか。

『寒っ』

身体をさすりながら、土管風遊具から出てきた。

『ふぁ‥寝てもた‥お腹空いたな』

グゥと鳴るお腹をさすりながら、少年は頭をかいた。

『なぁ、総右衛門、源左衛門、キツネうどんでも食べに行かへん?』

ふと、気が付く。

お腹‥頭‥何かがおかしい。

頭を触ると‥耳がない。

『み、みみみ、耳がないっ』

いや、無いのではなかった。

場所が違う‥パンダのように頭の上でなく、人と同じく横についていた。

そう、人の耳が人の耳の位置にある。

さすったお腹も腹筋が鍛えられていて
いつものように綿の感触はなく。

急いで公衆トイレの中へ。

手洗い場の鏡を見ると

伝助「なんじゃこりゃあぁぁぁ!!!」

往年の名作刑事ドラマであった、殉職シーンのように叫んでみる。

日ごろから『イケメンパンダ』と自称していたが
なるほど‥かなりの美少年である。

髪型は少し長髪で、豊かに実った稲穂色。

目元スッキリ、精悍さと気品にあふれた顔立ち。

鍛えられた肉体だがスリムな体型。

白色のシャツに黒色のデニム、デニムと同色のスニーカー。

少年と青年の間‥キラキラとした、青春期を思わせる年頃のよう。

そんな容姿の‥伝助がそこに立っていた。

伝助「う、嘘や―――んっっっ」

驚きは計り知れない。


都内

ルナは街中のベンチに座って、少しボーっとしていた。

いつも仲間たちと一緒にいて、そうでなければ伝助といて。
だから急に1人になっても、なにをしていのか‥

ルナ「困ったな」

何をしよう? 何をしたい?

ルナ「えへへへ‥困っちゃうな‥」

なにげない毎日が、本当の幸せだと
ルナは改めて感じていた。


公園

土管風遊具の上に腰かけて、伝助は空を眺めている。

ある程度落ち着いて、自分に今起きている現象について考えてみた。

伝助「原因は‥」

やっぱりこれしかないだろう‥心水晶。

昨夜遅くまで調査していた心水晶の
なにかしらの影響で、伝助の身体が変化してしまった。

伝助「生心力を ぎょーさん秘めとる水晶やったさかい
これくらい起きても納得するけどな」

でも‥驚いた。

伝助「まさか人間の姿になってまうやなんて‥」

頬をつねると痛い。

伝助「困ったな‥みんなにどう言うてええんかわからへん。

突然こうなりましてんって言うても、混乱してまうやろし」

とりあえず、状況が落ち着くまでは
しばらくは付喪ライナーに戻れないと考える。

伝助「一時的なもんやろうから、しばらく様子見やな」

それまで、どこかで過ごさなければならない。

伝助「さて‥どこに行ったらええやろか?」

考え込みながら歩き出す。

街をブラブラと歩きながら

仁の食堂『福福』

桐花と菫のアンティークショップ『エテルネル・ドゥ・クルール』

思いついてはみたものの、仁たちも驚くだろうし

桐花から任された菫の店は今、休業中。

となれば‥

伝助「やっぱり、ココしかないな」

立っていたのは紅の母の店『いちごミルク』の前。

伝助「紅ちゃんやったら、なんも気にしぃひんと
家に置いてくれるやろ」

店の中へと入っていく。

紅「いらっしゃいませー♪」

母の茜はクリスマスの繁忙期を終えて、今日は一休み。

代わりに紅が店番を務めるのは毎年恒例だった。

それと、24日に病院の小児病棟へケーキを届けること‥それは毎年欠かさない。

伝助はショーケースの中に並べられているケーキの中から

伝助「イチゴのショートケーキ1個」

紅「喜んでーーー♪」

伝助「居酒屋かっっっ」

ボケとツッコミ絶妙さはさすが、剣の師匠と弟子だけのことはある。

少し意味を間違って、社会勉強というかパティシエール修行のために
いろんなアルバイトをしてきた紅。

いつぞや働いた、居酒屋バイトのクセが出てるのだろう。

しかし、紅とはいえいくらなんでも

いきなり『泊めて』と言われてハイとは言わない‥

伝助「ケーキ1個と‥ついでに今夜、家に泊めてくれへん」

紅「喜んでーーー♪」

伝助「居酒屋かっっっ」

紅と伝助は、爆笑した後ハイタッチ。

紅、恐るべし。

伝助「ほんまにOKなんやろか? 助かったんは助かったけど

これはこれで問題やな」

あまりにガードが無さすぎな紅に、ちょっだけ心配になる。

伝助「なんぼ勇者ゆーても、これは意味がちゃうでな」

不安を抱きつケーキを食べ終え

伝助「家に上がってもよろしい?」

紅「どーぞ」

伝助「おおきに」

入っていくと、キッチンに茜が立っていた。

伝助「しつれいしまーす」

茜が振り返り

茜「おや? 紅の友達かい?」

伝助「まぁ‥そんな感じどす」

茜「そう、そこ座って」

伝助「はーい」

テーブルの前の椅子に座ると、茜は丼にご飯をよそい

ドーンと伝助の前に置く。

茜「ご飯、食べな」

とりあえず、お腹いっぱいになってもらうのが茜の[もてなし流儀]

伝助「いただきまーす♪」

茜はジャガイモの味噌汁と、から揚げをレンジでチン。

あと、お漬物や梅干し、海苔の佃煮などを並べてくれる。

伝助「あのー、紅ちゃんには話しましたんやけど

今晩、泊めてもらえませんやろか?」

茜「ああ、かまわないよ。

そうだねぇ‥お店の手伝いしてくれたら、1番でも2番でも泊まっていきな。

ちょうどバカ息子の部屋が空いてるから、そこ使いな」

伝助「おおきに」

茜「店はね、もうちょっと今年ので営業も終わりだから
すぐに休みに入るんだけど。

そんな感じだから仕事って言っても、ヒマな店番と、あとは掃除くらいだね。

頼んどくよ。

さ、ご飯は うんと炊いてるから たくさん食べるんだよ」

伝助「遠慮のぉ いただきまーす」

茜はそういって、店のほうへ戻っていく。

伝助「紅ちゃんのガードの無さすぎは、お母ぁはんに似たんやろな」

茜のアッケラカンとした対応に、伝助は苦笑い。

交代するように紅はキッチンへやってくる。

紅「お腹空いたー」

座って、紅もご飯。

食事休憩のようだ。
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