付喪堂綴り・1

□第8章・2
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都内

蝕「目が覚めた?」

気を失ったままだった撫子が目を開ける。

撫子「ここは」

例の格闘カジノの控室。

といっても、突然に警察の捜査が入り摘発されたようで
辺りは荒らされ散らかり放題。

死に絶えた空間の様である。

蝕「さて、初戦がアレじゃ先が思いやられるわね。

それとも‥エキシビジョンだったからとでも言って逃げちゃう?」

撫子「逃げないウホ。

私は弱かった‥まだまだ弱い。

だったら鍛えて鍛えて、鍛え抜くまでウホ。

私は世界最強になる!‥ウホっ」

蝕「そう、だったらそうすればいい。

そのためには‥この力を受け入れるといいわ」

撫子「それは‥?」

蝕「悪魔の力‥」

蝕の手から浮かび上がる、鈍く光るエネルギー球。

蝕「私もかつて、あの子たちに負けたのよ。

それは、私が独りだったから。

だから今度こそ‥あの子たちに勝つの。

私とアナタと‥ね。

これから忙しくなるわ。

最終戦争はもうすぐだから」

堕天使は微笑む。


付喪堂

蝕の暗躍に警戒しつつも、いつもと同じように明るい時間を過ごす伝助たち。

それぞれの武装の強化や再調整、それに自身の力も上げるべく精進を怠らない。

それぞれに想い、次なる戦いに備えていた。

伝助、缶吉、ごんとねん、そしてペンはラボにこもって今日も作業中。

源左衛門の武装を伝助の指示通りにペンがメンテナンス、再調整。

すでに伝助はこの武装の強化は終えたようで、次に総右衛門のものにとりかかっている。

ペン「アイツ‥次、会ぉたときは‥」

撫子のひたむきな瞳に悪意は感じられなかった。

だが堕天使と組んで襲ってくる撫子へ、ペンは闘志を燃やす。

そして

ペン「オマエは‥そん胸に、どげな想いを抱えとんじゃ」

撫子の瞳の輝きが、ペンの胸をチクリと刺した。


珍平は今、猛特訓中。

付喪堂にも入口がある異空間の精心(ガイア)‥

精霊世界と人の心の世界・ハートフィールドが融合して生まれた新世界への入口を通り
激しい特訓を重ねている。

足りない力は鍛えて身につける。

それでも足りないことはあるだろう。

だったらさらに鍛えると、珍平は想う。

たゆまぬ前進こそが、自身の力になると信じて。

訓練用のハンマーを手に、珍平は鍛えていた。

結「珍平さーん♪」

伝助が整備中の自分のライドを急きょ、走れるように整えてくれたものに乗って
結がやってくる。

結「えへ、スゴイですよね、コレ。

伝助さんが乗ってけって貸してくれたんですよ。

すぐに私専用のも作ってくれるんですってぇ♪嬉しいな、えへっ」

楽しく嬉し気に喋り、降車した結の手にピクニックバスケット。

結「お昼にしません? ワタシ、いっぱい おにぎり握ってきました♪」

笑顔の結に帰れとは言えず、たしかにお腹も空いていたし

珍平「お、おう」

返事をして座る。

結「はい、コッチが明太子です。
コッチはおかか」

とても美味しそうなおにぎり。

珍平「おまん、ホントにおにぎりが得意なんじゃな」

結「はい♪以前、勤めていたところがお弁当屋さんで」

勤めていたというか、買われて置かれていたのが弁当屋。

だが経営していた夫婦は加齢による体力低下が理由で店の存続が不可能になり
結果、土地を売却して息子夫婦と同居することを選択。

店は売りに出されて、引っ越しするにはするが
二世帯住宅が完成するまでは息子夫婦と手狭な暮らしが待っていて

そうなるとあまり荷物ももっていけなく
結はそのまま残されて‥

結「これからは1人で生きていかなきゃいけないって決心したんですけどね。

なんかあれよあれよって感じで」

珍平「野良犬たちの用心棒になったんか」

結「はい‥もうビックリでした」

珍平「しかしアイツらもそそかっしいの。

おまんが女の子じゃち、なんでわからんかったんかな」

結「クマ‥ですからかね?」

怪力だけども、小柄でかなり可愛いのだが。

珍平「結と間違えたという、伝説とまで言われたクマがおるそうじゃな。

もしそれが今後、現れたなら」

蝕が見つけ出し仲間にするとしたら?

それとも付喪堂が捜しだしてスカウトするか。

結「あっ! 妹さん‥餡子さん? こちらの世界におられるんでしたよね」

珍平「そうじゃ、えっと‥アッチ。

アッチのほうに山があるじゃろ。

その山越えて森を抜けると精霊城がある。

そこで満優さまのお傍について働いちょる」

結「だったらこれから、ライドに乗って会いに行きません?」

珍平「なんじゃ? いや、ワシはまだ特訓中じゃし

この前別れてもう会いに行くじゃ、なんかの‥」

結「なに言ってるんですかぁ。

お兄さんが妹に会いに行くのにこの前だとか早い遅い関係ないですっ。

理由だっていらないし、恥ずかしいとかもノンノンですよ」

ササっとお弁当片づけて、ライドの後ろへ積んで

結「ホラ、行きますよ!」

言われるがままに自分のライドに乗る珍平。

結「会いたいときには会いに行けばいいんです」

結はもう、ともに過ごした弁当屋の夫妻とは会えないのだから‥。

寂しい気持ちはわかっていて、だからこそ珍平に妹とあってほしいと思う。

2台のライドは走りだし‥山越え、森抜け、城が見えてきて


精霊城・門前

君兵衛「おーい、餡子ぉぉ。

アレアレ、向こうから来るんは兄さぁじゃないがか?」

餡子「あんれ? ホントだ、あんちゃんだ!! おーい、あんちゃあぁぁん♪」


結「ホラぁ、珍平さん。

手を振ってるパンダさんがいますよ」

珍平「アレが妹の餡子たい。

となりにおるライオンが君兵衛、餡子のダンナたい」

結「じゃ、スピードあげましょう!」

2台のライドは軽快に進む。

珍平「結」

結「はい?」

珍平「なんていうか‥ありがとうの」

結「えへへ♪どーいたしまして」



会いたい人がいる。

家族、恋人、友人‥大切な誰かたちがいる。


暮らしていれば、いろんな事情があって会えないことが多いけれど

ホントは‥本当は‥

会おうと思えば会いに行けばいいんだと‥


チョットね、考えてみたりする。


あなたの想いを素直に叫んでみて。
生きているんだもの。


『会いたいと思う大切な誰かがいる』

こんなに幸せなことはないんですから。


「不可思議萬請負業 付喪堂綴り」第8章
『男どすこい純情歌』完
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