付喪堂綴り・1

□短編・クリスマス編・2
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現在 雪はやみそうになかった。

日も暮れ始めた街並み‥暗くなるにつれてクリスマスツリーの飾りは

輝きを増していく。



幸子が何処かへ向かって歩いていると、10歳くらいの女の子が泣きながら

曲がり角を幸子のほうへとやってきた。



女の子「あの‥」



幸子に声をかける。



幸子はビクッとした様子だったが、立ち止まって女の子のほうを見た。



幸子「何‥」



それはまるで、冷え切った冬の水のような声。



女の子「私、財布を落としちゃって‥いっしょに探してもらえませんか」



鼻を真っ赤にし、泣きはらした女の子の目を見る幸子。



幸子「‥何色なの‥」



女の子「え‥あっ、ピンクです」



小さく息を吐く幸子‥その息は白くなり、すぐに消える。



無言で歩道のすみっこや隙間など、見始める幸子。



隣へとやってくる女の子。



幸子「いくつ?‥」



女の子「え」



幸子「歳‥いくつなの?」



女の子「あ、10歳です」



幸子「そう‥」



この子が10歳‥そうか‥10歳か。



あの時、産んでいれば‥それでもまだ6歳か‥



一緒に暮らし始めてから2年‥あの時は2人が食べてくのだけで精一杯で‥。



ゴメンね‥何度も謝ったなぁ‥。



私が出来たかもって話したとき、彼は‥やったぁ‥て、言ってくれてたんだけど‥



それからは彼、無理して夜遅くまで働いて、



お互い居眠りしながらご飯食べるような生活‥長くは続けられないもの‥。



話し合って、2人して泣き明かした夜は何日続いただろう。



幸子「ね‥正照」



女の子は悲しそうな顔で幸子を見詰めていた。



幸子「何か買うつもりだったの」



頷く女の子。



幸子「なにを?」



女の子「お姉ちゃんのクリスマスプレゼント‥」



幸子「そう‥」



姉妹か‥お姉ちゃんにプレゼント‥そんな家庭を作れると思っていたのになぁ。



時計台の鐘が遠くから聞こえ、時を告げる‥ハッとする幸子。



幸子「ゴメン‥私、もう行かなきゃ」



幸子「誰か拾ってるかも知れないから交番に‥そうだ」



そう言って幸子はバックから財布を取り出す。



もう何年も使っていてずいぶんとくたびれた財布。



幸子「5、6千円は入ってるから、これでお姉ちゃんに買ってあげて」



女の子の胸辺りに財布を押し付け、歩き出す。



女の子「あの‥」



幸子「いいから‥もう必要ないから‥」



立ち去る‥女の子は‥泣き出しそうな顔をして幸子の背中を見ていた。



その女の子の後ろ‥事の成り行きを見守るかのように少女が立っていた。



この子も悲しそうな顔をしている。



パンダと犬とウサギの影は、少女に寄り添っていた。
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