付喪堂綴り・1

□第1章・1
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都内

付喪堂からそう離れていないビル‥3階に『銭好ローン』はある。

社長は『銭好 幸男(ぜによし ゆきお)』68歳になる男。

今日も金を借りるため、大勢の人たちが待っていた。

手続きのための書類を書いている者もいれば

深刻な表情で社員と話している者もいる。

奥にある小さな部屋に通された者は、土下座をしながら何か頼み込んでいる‥

返済期日の延長か、はたまた借金の申し込んでいるのか。

一応、正規の金利で営業している銭好ローンだが
裏では法律スレスレ‥ときにはボーダーラインを軽く飛び出て
かなり儲けているが、うまく隠している。

そこはそれ‥『持ちつ持たれつ』の言葉があるように、権力と仲良しで。

会社の資金繰りに困って訪れる人や、カードでショッピングのしすぎて駆け込んでくる人

ギャンブルに金をつぎ込む人たちがやってきて

『商売繁盛や』と、銭好 幸男は大笑い。

この男、金に汚く情けは薄く‥何百人から『殺してやる』『死んでしまえ』『鬼、悪魔』と
罵られてきたかわからない。

今日も数人、抗議に来ているが‥実はみな、銭好から借金している。

銭好「うるさい人たちやなぁ。

前々からゆーてますやろ?

金がものいう世の中や‥悔しかったら銭もってこい」

反論する男たちに、

銭好「ワテはなぁんも法律に触れることしておりまへんでぇ。

なんやったら、弁護士立てて出るとこ出まひょか?

それでスッキリさせれるんやったら
ナンボでも出てやりますわ。

せやかて言うときまっせ‥ええか、借りたら返す‥これ人間の常識でんがな。

返さんとって、クソ偉そうに文句言われてもなぁ」

『そ、そんなことばっかり‥ア、アンタ、いつかアンタの命が』

銭好「銭に殺されるんやったら本望やっ」

そう言い放って、人をまた踏みにじる。

彼の通った後には、流された涙で出来た水たまりしか残っていなかった。

銭好「ゴチャゴャ抜かしとるけどや、借金するヤツラが悪いんとちゃうか。

買い物、買い物ゆーて、バッグに洋服、指輪にハイヒール‥どんだけ買ぉても
女どもは満足せぇへん。

男どもは酒にギャンブル‥女のケツばっかり追いかけまわして
ご機嫌とっては、乳ぃ触らしてもらうために大金つぎ込みよるやろ?

そりゃ金がいくらあっても足りひんわな。

ガキはガキで、親に食わせてもろとんのに
我がが ひとりで大きゅうなった顔しくさりやがって
口から出んのは不平不満の大行列や。

あーあ、アホらし」

反論するが‥

銭好「はぁ? 国がなんとかしてくれるてか?

アカンアカン、お国なんかアテにしとったらあきまへんで あんさんたち。

取るもんは ぎょうさん取りはるけども、それで誰の懐膨らませとるんか
わかりますかいな。

年金、税金‥誰かさんたちが上前ハネて、ええ小遣いでんがな。

せやゆーて、誰かさんたちを怨むのもスジ違いや。

アンタらが選んだ人たちなんやさかいに。

金に負けた おまはんらが悪い、力のないおまはんらが悪いんや。

ええか、世の中銭や!

銭さえあったら、なんぼでも欲しいもんは手に入る。

偉そうにふんぞり返ってるヤツラでも、みーんな頭を下げるんや‥それが銭の力や。

銭は利用するもんでっせ‥

おまはんたちみたいに、銭に利用される人間は
いつまでたっても負け犬のままでおりゃあ ええんや、この あほんだら!」

反論する気力さえ奪われ

銭好「おーい、こん人ら お帰りやて。丁重にお見送りしたり」

従業員に促されて、すごすごと帰っていく人たち‥みな、一様にうなだれていた。

銭好「どいつもこいつも口ばっかりやのぅ。

しょーもなっ」

そう笑って、冷めた茶をいっきに飲んだ。

ビルの窓の外から、銭好を睨みつける鋭い眼光があることなど知らず‥


付喪堂

ルナがお昼ご飯のために、コンビニ弁当を買ってきていた。

伝助「僕のハンバーグっ♪」

ルナは、ハンバーグ弁当とペットボトルの麦茶を伝助に渡す。

総右衛門はざるそばとおにぎりと緑茶、源左衛門はツナサラダと卵サンド+コーヒー牛乳。

淑はトンカツ弁当とウーロン茶で、
メアリーはスパゲッティサラダとハムサンド+ブラックコーヒー。

ルナはポテトサラダと野菜サンド+ミルクティー。

それぞれ楽しいランチの最中。

伝助「仁のこさえたハンバーグが、やっぱり美味しいなぁ」

弁当を食べながらポツリ。

ルナ「仁さん、いつでも来ていいと言ってましたよ。

そんなに寂しがったらダメでしょ」

ナデナデしながら伝助に言って聞かせる。

総右衛門「ようやく戦いも終わり、傷ついた身体もよくなっておられますからの‥

それにしても、危うい戦いでござりました」

天獄・地獄門での戦いを振り返る。

源左衛門「ん‥危うかったが、力を合わせて乗り越えることができた。

それがなによりだ」

メアリー「で、ここを開けたんだから‥終わりよければすべて良しっていうじゃないか」

淑「そうでございますわね。街も復興が進んでおりますし
満優さんと勇護さんも幸せにおなりで、信代さんと孝太さんも‥」

ルナ「仁さんと愛理さんも、お似合いのカップルですよね」

メアリー「真忍さまもカルマも‥インガもジャシンも、楽しそうだし」

伝助「ホンマや♪世の中、真ん丸ぅにが、いちばんや」

笑顔の一同。

『伝助さぁ』と、玄関から珍平の声が聞こえた。

伝助「ほいな。入っといでぇ」

ちょっと声を張って言うと

珍平、缶吉、君兵衛、餡子がやってくる。

珍平「伝助さぁ、引っ越し祝いに焼酎ば持ってきたけん」

一升瓶が2本、贈答用に包まれている。

缶吉「俺は美味しい牡蠣を持ってきたさけぇ、食べんさいや」

伝助「おぅ、おおきにな♪」

餡子「わだすは、きりたんぽ鍋の材料さ持ってきただよ。

食べてけろ」

君兵衛「俺は、冷凍もん じゃっちゅうても
まっこと美味しいカツオをよぉ、持ってきたちゃ」

伝助「おおきに、おおきに♪

そない、気ぃ使わんでも よかったのに」

総右衛門「みなの部屋も、2階に用意しておりまするで
片づけられるが よろしいぞ」

餡子「んだな」

缶吉「ほぅでぇ、ごんとねんは?」

淑「侠真さんと凛雫さんの、お手伝いをしていると聞きましたけど
もう終わったそうですし‥今日、こちらへ来られると
お聞きしてますわよ」

君兵衛「まぁた、道草でも食ってるんじゃろうのぅ」
珍平「そいにしても、引っ越しの手伝いば出来んで
申し訳なかったばい、許してたもんせ」

ルナ「いえいえ、そう謝らないでください。

信代さんのお家の‥」

源左衛門「そうだ、信代の家のグループで
『風の子便』とか言う、運送会社が引っ越しサービスもやってるそうでな」

メアリー「荷造りから運搬まで、お任せあれってさ。
なんて言ったかね‥そうそう、北風のようにピュルルーンっと運びますってのが、
会社のモットーだってさ」

伝助「北風てっ! どうせやったら春風とか南風とか
暖かそうな名前にしたら ええのにな」

ルナ「ホントですね♪」

淑「まぁ信代さんのお家らしくて、いいような気もしますけど」

と、笑うルナと淑。

伝助「ほしたら、今晩はお祝いのパーティーやっ。

牡蠣&きりんたぽ鍋で、焼酎飲もうやないか♪」

『おー』楽しい声が、付喪堂にあふれていた。
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