付喪堂綴り・1

□第1章・2
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都内・アパートの1室

コトコトと、鍋が楽しそうに歌っている。

『久しぶりに 誰かと一緒に ご飯が食べれるわ』

そんな風に女性は笑い、とても嬉しそうにカレーを作っていた。

何年ぶりにカレーなど作るだろうか。

『ひとりでいると、作るよりも百円ショップでレトルト買ったほうがよくってねぇ』

誰かと食事をするということから、長年遠のいていた女性には
今日のサプライズは、とても嬉しいものだった。

話し相手がいる‥しかも孫のような年代の子。

話し込むうち、ご飯の時間が近づいて

『いっしょに食べる?』と聞くと
『ごちそうになるでしゅ』と元気よく言う。

もう一度‥手をつないで食材を買いに行き

『何が食べたい?』

『カレーライスでしゅ』

ちょっと奮発して、久しぶりにお肉を買った‥鶏肉しか手が出なかったが。

じゃが芋、たまねぎ、人参、カレールー‥必要なものを買って
台所へ立つと『ボクが、おイモしゃん剥くでしゅ♪』

とても器用な子で、包丁を持つとスイスイ‥じゃが芋の皮を剥いていく。

女性「そうだ‥だいじなことを聞くの忘れてた。

ボク、お名前はなんていうの?

おばちゃんはね、浜子っていうのよ」

男の子「浜子しゃんって いうんでしゅか♪

ボクは‥えーと‥‥‥ま、松太郎って言いましゅ」

浜子「そう‥松太郎くんね。

浜子です、よろしくね」

エプロンで手を拭き、差し出す浜子。

松太郎は、じゃが芋と包丁を置いて
手をズボンでゴシゴシ拭き、恥ずかしそうにしながら浜子の手を握る。

握手‥松太郎は、幸せそうな表情をしていた。

浜子「ごめんなさいね、ハンバーグとか から揚げだったらもっとよかったんだけど‥

おばちゃん、料理が下手でね。

でも、カレーだけは得意だったのよ」

松太郎「いいえぇ♪ ボク、カレーライス大しゅきでしゅ♪」

浜子「そうお? ならよかったわ」

浜子も、明るい表情を見せている。

玉ねぎは刻んで、飴色になるように炒める‥この手間だけで、かなり美味しく仕上がるのだと
浜子は楽しげに言う。

食卓を囲み、浜子と松太郎は食事‥その後しばらく、2人は楽しい時間を過ごし
松太郎はまた明日も遊びに来ると約束して、浜子のアパートを後にした。

浜子「アラ‥そういえば、松太郎ちゃんの家‥どこだか聞くのを忘れたわ」

幼い子だから、送っていけばよかったと気に掛ける。

もっとも、『いいでしゅよ』と言って
松太郎は聞かなかったのだが。


都内

都内でも有名な高級住宅地。

その中でも、ひときわ大きな屋敷がある。

その屋敷の門を、黒塗りの大型外国車が走り抜けていった。

玄関前で停車‥運転手がすぐに降り、後部座席のドアを開く。

中からゆっくり降りてくるのは銭好だった。

葉巻を吸いながら、悠然と車から降りる。

屋敷の中に入ろうしたその時‥ピシっ!

何かが破裂した音が聞こえたかと思うと、2階ベランダに置かれていた鳥の彫刻が落下してきた。

危うく、銭好にあたりかけたのだが
間一髪で被害を免れる‥

銭好「な、なんや!? いったい なんの騒ぎやっ」

使用人「申し訳ございません! お怪我はございませんか、旦那様っ」

心配していたが

銭好「じゃかぁしい! 手入れも掃除もキチっとできひんのかっ。

もぅええ、明日からオマエなんぞ来んでえぇわ、ドアホ!」

そう毒づいて、屋敷の中へと入っていった。

使用人「だ、旦那様ぁぁ」

顔色を変えて、慌てふためきながら銭好のあとを追っていく。

『チッ‥』舌打ちをしながら、その光景を睨みつけている目があった‥。


付喪堂・食堂

休憩室の隣には、食堂が設けられている。

各部屋にもキッチンはあるのだが、自然とみんなが集まって食事をするので
食堂の大型キッチンが大活躍である。

ルナ、淑、ごん、餡子と、料理を作っていた。

その前のテーブルに、伝助と源左衛門、メアリー、総右衛門が座り
周りの席には珍平たちが座っていた。

源左衛門「‥と、言うわけでな‥」

どうやら、ずずのことを伝助に話し終えたところのようだ。

伝助「そうか‥旅がらすの青い鳥・ずず。

オカンを捜して旅を続けてんのかいな」

源左衛門「あぁ‥もう、ずいぶんになる」

総右衛門「確かな行方もつかめぬまま、旅を続けるのは辛ぅござりまするの‥

若、何とかして差し上げませぬか?」

伝助「そうやな、1人やったら でけへんことかて

みんなの力を合わせたら、でけんことはないさかいに。

よっしゃ、付喪堂の初仕事や! ずずの手伝いをしようやないか!」

源左衛門「そうか‥伝助、ありがとう」

メアリー「あたしからも礼を言うよ」

伝助「そんなん気にせんで ええがな♪

みんなの力になる‥それが付喪堂や!」

珍平「そうと決まれば、まずは母上どんの捜索からですたい」

君兵衛「そうですのぅ‥けんど、手がかりもなんもなしで
顔も知らん人を捜すっちゅうがは、雲を掴むような話ぜよ」

缶吉「源左衛門さん、なにか思い当たるフシゃあないかいのぅ?」

源左衛門「ん‥」

考え込んでいる。

伝助「なんか ちっちゃなことでも ええねん。

とっかかりがあったら、そっからスーイスイと行けるかも知れへんで」

源左衛門「ん、そう思うのだが‥先程話したことが すべてでな‥」

メアリー「あっ!」

伝助「なんや、メアリー? なんぞ思いあたるところがあるんか?」

メアリー「いや、母親捜しに関係はないかも知れないんだけど‥」

伝助「どないなことでも ええ。話てんか」

メアリー「あのボウヤがね、部屋を出ていく前に聞いたのさ」

伝助「何を聞いたんや?」

源左衛門「そういえば聞いていたな‥」

メアリー「もう少し街の中心に行ったところに、
銭好ローンってアコギなやり方の金貸しがいてさ‥ソイツのことを
ボウヤが聞いたのが、ちょっと ひっかかててねぇ」

源左衛門「銭好のことを聞いていたが、何か関係があるのか‥

たしか、ごんたちと出会った焼き鳥屋に行く前
イヤなことがあってムシャクシャしていたと言っていた。

それと銭好のことと、何か関係があるのかも知れん」

伝助は少し考えていた‥

総右衛門「では、明日から何班かに分かれて動くことにいたしましょう。

若とルナ殿、源左衛門殿とメアリー殿は、ずず殿の動向に注意していただき

それがしと淑は母上殿の行く先の調査・探索を、

ごん、ねん、珍平殿たちには、ずず殿のご兄弟の探索をお願いするのはいかがでしょうか?

ん‥若?」

考えごとをしていた伝助は、総右衛門に呼ばれて

伝助「あ‥すまんすまん、ちょっと考えごとしてた。

総右衛門の言う通りで ええんやけど、

その前にちょっと調べておったほうが ええんとちゃうやろかって‥」

言いながら、食堂から制御室へと移動‥源左衛門、メアリー、総右衛門も後についていく。


制御室

メインコンピューターを操作する伝助‥マルチモニターにデータが現れる。

伝助「ふむふむ‥範囲はこうで‥反応はなんでもええ、些細なことでも拾うように‥と」

カタカタとキーボードを叩き、検索事項を入力している。

伝助「ん? これかなぁ‥」

源左衛門「どうかしたのか?」

伝助「そうやな‥銭好ローンて、駅から少し入ったところの路地を抜けた通りにあるんやろ?」

メアリー「ああ、そうらしいけど」

伝助「あの辺いったいに、ちょっと前からミョーな未確認次元反応が出てるんや‥

最近ちょくちょく見かけるさかい、気には なってたんやけど‥

ずずと関係あるんかも知れへんな」

総右衛門「未確認の次元反応‥アンノウンゾーンにござりまするか‥」

天獄を思い出し、一同はゴクリと唾を飲んだ。

伝助「源左衛門、きゃろっとは30%の出力やったら
なんとか使用に持ちこたえられると思う‥メアリーの ふいっしゅも おんなじや。

出来るだけ、僕とルナでフォローするさかい
用心してかからなアカンで」

源左衛門「んっ」

メアリー「やれやれ‥やっと、ひと暴れできるかも知れないってのに
ロクに使えやしないなんてねぇ‥まぁ、しょうがないか」

総右衛門「若‥それがしと淑も、緊急時には ほねっこブースターで駆けつけまする」

伝助「頼むで。

ほやな‥缶吉と餡子には、制御室でセンサーの管理と
『伝助式・ガッチリ守りますんにゃわセキュリティーシステム』での
遠隔支援を頼んどかなな‥珍平、君兵衛、ごんとねんに、ずずの兄弟捜しは任せて」

源左衛門「万事に対応できるように‥皆に伝えておこう」

伝助「なんや、未確認次元も関係しとるかもやから
くれぐれも気ぃつけなアカンな」

総右衛門「御意っ」

すると

淑「あなた、伝助さん、源左衛門さん、メアリーさん。

お食事の用意が出来ましたわよ」

淑が制御室へとやってきた。

伝助「ほいな♪ほなとりあえず、ご飯食べよか。

みんなともう一度 よぉ話して、でけたら今晩から見張るん始めよや ないか」

互いに頷き、まずは腹ごしらえに食堂へと移動した。
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