彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル6・1
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商店街

魚屋・魚金と八百屋・八百月。

向かい同士に建っている店の主人は、檸檬の父と母。

父の『「吉黄 金次(きっこう きんじ)』は44歳。

魚屋『魚金(うおきん)』を経営しており

曽祖父の代からの家業で、何よりも買いに来た客に美味しい魚を食べてもらうのが喜び。

檸檬曰く、『やくざ映画の主役みたいな顔』なのだが、気の良い好人物だ。

母の『吉黄 美月(きっこう みつき)』も44歳。

旧姓は黄幸(こうさい)といった。

魚金と同じ商店街で、黄幸家の家業の八百屋『八百月(やおつき)』を継いでいる。

一人っ子だったために、嫁いでも実家の家業を捨てれないとの思いがあって、
夫とは別々に商いを続けている。

そのため、家事が思うように出来ず夫や子供には悪いと思っているが、
そんな美月を夫の金次は全面的に応援。

子供である檸檬も炊事・洗濯・掃除に裁縫と
家事全般をこなしてがっちりとサポートしている。

金次とともに、ゆくゆくは魚金と八百月の合併をと考えてはいるのだが

ご近所のことや仕事付合いのことを考えると、合併するのは困難な様子。

美月の年齢は40代半ばだが、見た目30代前半のモデルか女優にしか見えない容姿で
近所でも評判のラブラブ夫婦。

その美貌とは裏腹に、ガッツリと下町風の肝っ玉母さんだったりする。

檸檬「とうちゃん、イカもらってくね」

金次「おぅ! タコも持ってけっ」

イカとタコを買い物かごに入れて

檸檬「かあちゃん、バナナもらってくねー」

美月「こらっ、商売もんに手ぇだすんじゃないよ!」

叱っているような口調だが、笑って許している。

檸檬「ごっめーん」

バナナを二房、かごに入れて檸檬は紅の家へと向かう。

柚子「ずいぶん楽しそうね、あの子」

美月に声をかけたのは長女の『吉黄 柚子(きっこう ゆず)』24歳。

檸檬の姉で出版社勤務。

母譲りの美貌のため、モテまくりで男性を惑わす困ったちゃん。

家事はからっきしダメだが、彼氏には不自由していないと豪語する。

美月「おや、もう終わったのかい?」

柚子「仕事? じょーだん、今夜は遅くなりそうなのよ。

だから、外に出たついでに着替えを取りにねぇ」

美月「そうかい。

帰りは気を付けるんだよ」

柚子「はーい。

そうだ、近藤くんに送ってもらおっかな‥

いや、田原くんがいいかも‥でもなぁ‥野村くんもいいな」

ぶつくさ言いながら、部屋へと入っていく。

金次「近藤くん、田原くん、野村くん‥3人も彼氏がいるのか、アイツ‥」

美月「3人だけならいいんだけどねぇ‥」

金次「ま、まさかほかにも?」

美月「ハッキリ聞いちゃいないけど、
世の中には知らないほうがいいこともあるからねぇ」

金次はゴクリと音を立てて、唾を飲みこむ。

金次「そ、そんなにか」

冷や汗、ダラダラ。

美月「あのね‥どうしても知りたい?」

金次「お、おぅ‥む、むむ、むむむ娘のことだからよ‥知っておかないと」

美月「そこまで言うんなら、私が知ってることは教えてあげるけどね‥」

やや、静寂の間‥

美月「ご飯・映画・ドライブ・送り迎え‥

事細かにジャンル分けしてトータル‥そうねぇ‥3ケタは、いるみたいよ‥あの子」

金次「さ、さん‥けた‥」

金次は『3ケタ』の言葉に『酸欠』になりながら、

今日の目玉商品のマグロに思わず、泣きついた。


家の中

柚子は自分の部屋がある2階へと向かう途中
檸檬に代わって、最近ご飯を作ることが多くなった

母方の祖母である『黄幸 麗子(こうさい れいこ)』に

柚子「おばあちゃん、今夜はなぁに?」

と、尋ねた。

割烹着姿の麗子は、振り向くことなく包丁とまな板のデュエットを心地よく響かせながら

麗子「お昼はまだ暑いからね、そうめんにしたよ。

夜はかぼちゃの煮つけと鮭フライ、それと豚汁だよ」

柚子「私のぶん、とっといてね♪ おばあちゃんの煮つけも豚汁も大好き」

麗子「はいはい、ちゃあんと置いておくからね」

柚子「さんきゅー」

トトンと階段を軽やかに昇って、2階の部屋に。

ガサゴソ‥ドタバタしている柚子。

『あぁぁ! うっさーーーーい!』怒鳴って、ガラッと向かいのふすまを開けたのは

吉黄家の三女『吉黄 蜜柑(きっこう みかん)』18歳。

柚子、檸檬の妹で、作家を目指して勉強中。

コスプレ趣味のため、今日はミリタリーなコーディネートで決めていた。

柚子「アンタ‥どこの部隊よ」

蜜柑「ちっちっ、わかってないなぁ、ゆず姉ェは。

ホラ、最近テレビによく映ってるさぁ」

柚子「あ、SSDね」

蜜柑「そうそう。

ホラ、ここのワッペンがSSDのグッズでね。

国守軍基地の売店で、すっごい人気なんだよ」

柚子「わざわざ買いにいったの?」

蜜柑「まぁね」

柚子「アンタもヒマねぇ」

蜜柑「いーじゃない。

これもいわゆる『経験』ってヤツよ。

経験が豊富になればなるほど、書く作品にもいい影響が出たり厚みが増すってね」

柚子「人が言ったことをそのまま言うんじゃないよ」

蜜柑「はーい」

『経験』が大切と蜜柑にアドバイスしたのは、出版社に勤める柚子だった。

柚子「まぁね、別に小説やコミック専門ってワケじゃないけどね。

一応、出版業界に籍を置いてますから」

蜜柑「で、最近は なに追っかけてんの?」

柚子「ダぁメ、たとえ身内と言えども仕事の内容は明かせなぁい」

蜜柑「あーケチぃ! いーじゃん、ちょっとだけ教えてよぉ」

柚子「あーもう、うるさいのはどっちかしらねぇ」

蜜柑「うっさいって言ってゴメン! すみません! 平にご容赦!」

手を合わせて詫びては頼みこむ。

柚子「もう!」

着替えを無造作に詰めた紙袋を抱え

柚子「大物アイドルKと人気若手俳優Aの熱愛」

蜜柑「ゴシップかぁ」

柚子「それは隠れ蓑でねぇ」

『うーん』といった表情だった蜜柑が、その一言で興味津々な顔に。

柚子「今ね、フリーのジャーナリストと組んでね

追っかけてるネタがあるのよ」

蜜柑「なになに?」

柚子「ぜったい、誰にも言っちゃダメよ」

蜜柑「うんうん♪」

柚子「謎のテロリスト集団‥未確認破壊脅威4号と5号とは?

そして2号の存在。

アンタがファンのSSDも追っかけてるわよ」

蜜柑「ヤダ、別にファンなんかじゃないよ」

柚子「なんかね、そのジャーナリストがね2号や4号と会ったことがあるっぽいのよね」

蜜柑「うっそ!?」

柚子「最初、2号や4号を糾弾する記事を書いていたらさぁ

『アイツらは、世界を守ってくれたんだぞ!』って

編集室に怒鳴り込んできたのよ。

名張 明ってヤツなんだけどね‥あまり多くを語ろうとはしないけど
何か知ってるはずよ。

だから、組んでればおのずと何か掴めると思うんだ」

柚子もワクワクしていると言った様子。

蜜柑「ゆず姉ぇの新しい彼氏?」

蜜柑「ゴシップ、アンタも好きじゃない。

でも残念でした、タイプじゃないし彼は妻子持ちよ。

娘がいるんだって‥結婚したのは最近なのに、もう子持ちってねぇ。

でも、なんだか幸せオーラ出しまくりって感じ」

蜜柑「うらやましいんだぁ」

柚子「チョットだけね」

笑いあう2人は、手を振って別れた。

『行ってきまーす』と元気に家を出る柚子。

少し歩くと、愛犬の『花菜(かな)』の散歩中だった

父方の祖父『吉黄 金天(きっこう かねたか)』65歳。
に、出くわした。

柚子「あ、おじいちゃん」

金天「おぉ、柚子♪今から仕事かい?」

柚子「うん。

あっ、そう言えばまた檸檬のヤツ

どっか行っちゃったみただけど‥おじいちゃん、何か知ってる?」

金天「はて? どこに行ったものやら。

まぁ、若いうちはイロイロ経験したほうがいいからなぁ」

柚子「うふ、私もそう思う。

でないとあの子、ますます『おふくろさん化』しちゃうから」

そう笑って、柚子は会社へと歩を進めた。

家族はまだ、檸檬が命を懸けて世界を守っていることなど知る由もない。

国の権力によって敵とされ、死ぬ目にも遭ってなお戦う檸檬‥

その心を恐怖が蝕んでいることなど、察しようがなかった。


都内

紅のいる『いちごみるく』に急いでいる檸檬。

歩道橋を昇ろうとしたとき、重い荷物を抱えた老婆の姿を見た。

檸檬はすぐさま駆け寄って、老婆に声をかける。

そして、荷物を持って手を取ろうとするのだが‥自身の荷物を持っていては無理。

檸檬「うーん‥」

荷物を階段の隅に置いて、老婆の手を取ると
その老婆の荷物を持って歩道橋を渡った。

『ありがとうございます』厚く礼を言う老婆に笑顔で応えて
檸檬は自分の荷物を取りに行った‥

檸檬「あれ? 私の‥」

どこを探してもない。

檸檬「えぇ?」

歩道橋前のたばこ店の人間に声をかけ

『あの‥そこに置いてあったかご、見ませんでしたか?』と尋ねたら

『ああ‥それならさっき、おばちゃんが持っていったよ』と答えた。

檸檬が置いたことを知っていて‥誰かが持ち去るのを黙って見ていたこの人間も
悪くないかと言えば‥そうでない。

もちろん、持ち去った人間はなお悪い。

檸檬「あーあ‥」

檸檬はガックリと気落ちして、紅の家へと足を向けた。


都内

ビルの隙間を翔る光球。

それを追って走るは、黒色の吸血鬼‥地を蹴って壁を走り、跳ぶ。

ノワール「追複曲 (カノン) !」

魔剣・クローズから放たれる斬撃。

光球に激突‥地上へ落下していく球。

ノワール「逃がしはしない、神よ!」

追撃するノワールを迎え撃つ強力な光。

ノワールの肩を射抜いて、かなりのダメージを与えた。
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