彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル6・1
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いちごみるく

紅はケーキ作りに忙しそう。

普段は、どちらかと言えばボーっとしていたり

意味もなくニコニコしている子だったりするが

今はとてつもなく真剣な表情だ。

ホイップクリームを絞る。

紅がセクトウジャと知って以来、緋色との仲がギクシャクしている。

仲直りというか、話しすらまともにできない日々がずっと続いていて

『戦うのはやめてくれ』

話したかと思えばこれで、緋色はそう紅に告げるだけ。

弟の心配してくれる気持は痛いほどわかるし、ありがたくも思う。

だが‥戦いを放棄して、見て見ぬ振りをしていればことが解決するかと考える。

『私には戦う力がある‥守るだけの力がある』

なのに、戦おうとせず、守ろうとせず

逃げて‥ただ、傍観していることなんて出来ない。

『傷ついても、傷つけさせない』それが紅の正義。

その正義が‥緋色を傷つけるのは皮肉である。

そんな緋色に、仲直りとお詫びの気持ちを込めて
楽しくパーティーしようと紅は計画。

それに快く賛同した檸檬、雪永、墨彦、桜花、翠季。

蒼唯はまだ、ピオレータのことがショックであり
その行方を探すので手一杯といったところ。

それでも『顔は出す』と伝えてきたのは彼女なりの進歩だろう。

紅は緋色に送るイチゴショート(2段重ねのホール)

桜花は故郷の味、ちゃんぽんを作ると張り切っていて

翠季は店からジュースとお菓子を持ってくる。

墨彦はそんな翠季の手伝いで、雪永は紅の手伝い。

檸檬は、タコ焼きの具のタコやイカ焼きのイカ、チョコバナナのバナナといった
お祭り定番グルメの材料を持ってくると言っていたが‥まだ来ていない。

桜花「遅かねぇ、檸檬ちゃん」

紅の家のキッチン前に立つ桜花は、ちゃんぽんの具材の
『キャベツ』『イカ』『エビ』『かまぼこ』『豚肉』を下ごしらえ中。

翠季はテーブルの上に花を飾って、パーティーの飾りつけをしていた。

翠季「これ、お店の倉庫から持ってきちゃいました♪」

クリスマス時期用の飾りつけアイテムを紙袋にいっぱい入れて持ってきた翠季。

墨彦「まだ9月だって、言ってんのに」

桜花「よかよか♪賑やかなんは、いいことばい」

残暑の中のクリスマス‥と、いったところか。

翠季「今年のクリスマス、みんなでお祝いしたいですね」

墨彦「まだ3ヶ月も先だぜ」

翠季「3ヶ月なんて、あっという間ですよ」

桜花「そうそう♪特に25過ぎたら、時間なんて光より早く進むわよ」

言って落ち込む桜花。

翠季「わわっ! 桜花さんは若いですってばっ」

桜花を必死に慰める翠季の横で

墨彦「にしてもアイツ、まだこねぇのか」

墨彦の言うアイツとは、蒼唯のこと。

今月初め、源左衛門とメアリーを先頭に墨彦、蒼唯、ずずと山籠もりして
戦闘術の特訓に明け暮れた期間は10日間。

墨彦は特訓で得た物があり、自信をつけていた。

拳を握って‥

墨彦「アイツ、苦しいくせに強がりやがって」

音を上げることなく、源左衛門とメアリーの特訓についてこれたのはさすが。

というよりも、日程のメニューを短期間でクリアして
ピオレータ探索へサッと帰っていった蒼唯。

心のジョブを真に覚醒している墨彦でさえ、かなりの辛さだったものを‥。

蒼唯‥そして、現れたと言う謎の亡霊、ピオレータ。

多くを語ることない蒼唯に、紅も桜花も『蒼唯を信じよう』と言うので
追及することは避けたのだが

墨彦「気になるじゃねえか‥仲間なんだからよ」

話してくれるのを待つ。

そうはいっても、待つのも辛いのは誰もが知っていること。

墨彦「けっ、ややっこしいもんだよな‥心って」

桜花「なに言うとるんね。

そげんこつ言うてたら、闘士としての使命は果たせんばい」

墨彦「ああ‥わかってるけど」

心配するあまり、ついつい焦ったりして周りを見失いそうになる。

桜花「それに‥ホントに辛かとは、蒼唯ちゃんよ。

なぁんもワケわからん ばってん、顔を見たら伝わる。

辛くて重い過去ば、背負ってるんじゃ なかかな」

まわりへの気配りは‥さすが、年の功。

桜花「そうそう、亀の甲より年の功ってね‥って、なんば言いよっと!!!」

墨彦「うわっ! な、なに言ってんのはソッチのほうだろっ。

1人でコーフンして、怒鳴って‥だいじょうぶか? ピンクの姉さん」

桜花「あ‥そ、そうやったね‥ゴメン、ゴメン」

また、下ごしらえに戻る桜花。

(ふぅ‥あぶなかった)

そうしているうちにドアチャイムの音が聞こえて

翠季「あ! 檸檬さんが来たのかも」

と、キッチンを出ていく翠季。

店では雪永が檸檬を出迎えていたのだが‥

雪永「どうしたの!? 檸檬ちゃんっ」

鼻を真っ赤にして、涙をポロポロ‥

ショックの様子を隠せないまま、檸檬が店の中に入ってきた。

檸檬「みんな‥ごめん」

持ってくると約束していた『タコ』『イカ』『バナナ』‥

手元にない理由を、檸檬は嗚咽交じりにやっとのことで話した。

雪永「そうなんだ‥」

翠季「檸檬さんはぜんぜん悪くないんだから、泣かないでください」

自分のハンカチを檸檬に手渡した翠季は慰める。

桜花も墨彦も来ており

桜花「そげん泣くこと なかばい。

イカは大目に持ってきとるし、タコは無いならないで

冷蔵庫の中見て、あるもの入れてバラエティータコ焼きでよかよかぁ♪」

墨彦「バナナなら、紅ちゃんのとこにもあるんじゃねえか?」

すると、バナナにイチゴ‥メロン、マンゴーとたくさんフルーツを抱えた紅が

紅「こーんなにあるからだいじょうぶだよ、檸檬ちゃんっ」

笑顔で言った。

檸檬「でも‥持ってくるからって約束したのに‥」

紅「破りたくて破ったんじゃないんだし、気にしなくたっていーよっ」

桜花「そうそう、悪いのは盗んでったヤツなんやけん」

『まぁ、うかつに置いたままにした不注意も悪いがな』

墨彦「でた、いらんこと言い」

蒼唯が店の中に入ってくる。

翠季「蒼唯さんっ」

雪永「相変わらずですねぇ」

グサッとくる物言いは性格だろう‥雪永は苦笑い。

蒼唯「不注意は悪い‥それが戦場になればなおさら」

桜花「確かにそうやね‥ちょっとしたことで、大ピンチになることもあるっちゃある」

翠季「桜花さんっ」

桜花「えっ!? わわ、ごめん檸檬ちゃん」

また鼻をグシュグシュしはじめている檸檬に慌てて声をかける。

蒼唯「気にするな‥タコとイカはもってきた」

檸檬が持ってくるはずだったタコとイカとは別のタコとイカ。

檸檬「それ‥なんで?」

蒼唯「多ければ多いほど、大勢で食べれるからな‥買っていきなさいって‥

桐花さんが言うんで、買ってきただけだ」

翠季「おおっ♪さすがは桐花さん」

前回の戦いの後、翠季をはじめとしてセクトウジャや付喪堂は桐花に会っていた。

桜花「さすがねぇ」

墨彦「バックアップは万全‥ってところか?」

蒼唯「私は桐花さんの指示通りに‥」

雪永「でも、聞くことはなかったはずですよ。

それでも、買ってきてくれたってことですよね」

蒼唯「ふんっ」

照れ隠しか、少し顔を横に向ける蒼唯に『あおいぃぃちゃあーーーーんっ』と

紅は強く抱きついた。

蒼唯「ええい、うっとおしい!」

紅「あーおーいちゃーーーん」

ウネウネウネウネ、ニョロニョロニョロニョロ。

気持ち悪がる蒼唯と、伝助の動きに似た紅のじゃれ合いのおかげで
沈んでいた檸檬の表情も明るくなる。

ウネウネとまとわりつく紅をそのままに、蒼唯は檸檬の肩をポンと叩いて
家の中へと入っていった。

檸檬「私も手伝わなきゃ」

檸檬もついていく。

雪永「材料もそろったし、あとは主役だけですね。

あ、紅ちゃん、ケーキはどーなの?」

『あと10分焼けば、かんせーい』と、蒼唯に巻きつく紅からの返事。

そんな紅の姿を見て

桜花「紅ちゃんって‥紅じゃなくて蛇みたいね」

『紅』と『蛇』‥かけた桜花のオヤジギャグ的発言に、翠季は大ウケしていて
墨彦は凍り付いている。

雪永「ちょ、墨彦ったら」

そうこうしていると、店のドアが開いて緋色が入ってきた。

ここ数日、家に着替えに帰ってきてはどこかへ出かける。

友達の家に泊まったり、ネットカフェに泊まったりしているようだ。

雪永「あ‥お邪魔してます」

桜花「お帰りなさーい」

翠季「お邪魔してます」

チラッと雪永や桜花、翠季の顔を見る緋色。

しかし、言葉は無しのまま。

墨彦「おい、無視すんなよ」

イラッとする墨彦がそう言っても知らん顔で、家へと入る。

緋色は‥ついこの前、姉とセクトウジャについて話をした。

話しというよりも『問い詰めた』といったほうが正解か。

そのときに蒼唯たち仲間のことや付喪堂のことを詳しく聞く。

もちろん、伝助たちのことはいきなりすぎて最初

信じられないと言ったのだが、報道で扱われる『未確認破壊脅威』の4号が
姉の説明と一致していて‥それはつまり、姉も破壊脅威の1員だということで。

『なんで姉ちゃんが!?』

緋色は激昂して、姉を責めたり怒鳴ったりしてしまう。

すべては、姉を危険な目に遭わせたくないとの一心からなのだが
姉には姉の考えがあり、意志というものがあるワケで。

けっして、1人の人間を家族と言えども
自分の意のままに出来るはずもない‥出来たとしても、してはならない。

『個』を大切にしてこその『和』であり、『和』失くして『個』なしということを
緋色は見失っていた。
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