彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル6・2
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都内・線路沿いの道

都電が走る‥ガタゴトと音が散らかる中を、緋色は歩いている。

転がる音を腹立ちまぎれに蹴っ飛ばし
どこへぶつけようともない苛立ちを持て余していた。

『おい!』

後を追っていた墨彦が、緋色を呼び止める。

振り返ろうともせず、緋色は歩き続ける。

駆けてきた墨彦は

墨彦「待てよ!」

強引に緋色の足を止めた。

緋色「なんだよ」

墨彦「なんだよじゃねぇだろ! オマエがそんな風だと
紅ちゃんが辛くなっちまうだけだって、わからねぇのかっ」

緋色「だったら! そう思うんなら、お前たちが姉ちゃんから離れろよ!!」

墨彦「そんなこと‥そんなことで、紅ちゃんが喜ぶと思うのか?

お前の姉ちゃんも1人の人間じゃねえか。

お前の人形なんかじゃねぇんだぞっ」

緋色「人形ならもっと扱いやすくて、やっかいなことはねえさ!

いっそ、人形でいてくれたら‥。

俺は姉ちゃんを守りたいんだ、母さんも守りたい。

それが、父さんの後を継いで家族を守らなきゃいけない俺の使命で

願いで、望みなんだ!」

緋色は墨彦に殴りかかる。

軽く避けてガード体勢‥

墨彦「人形でいてくれたらだと? ふざけんな!!

俺は、姉をそんな風に言うお前を許さねぇ!」

力量だけなら格段に墨彦が上。

すぐにでも、緋色を地に伏せることなどたやすいだろう。

墨彦「でも俺は、オマエを殴ったりはしねェ。

俺には力がある。

その力を持った俺が、弱いお前に力を振るったら
ただの暴力になっちまう。

力は強き側へと向けろ‥弱き側にけっして振うな。

俺がいきがってたとき、俺の親父が俺に言った言葉さ!」

父‥伽黒 影太。

元・刑事で、今は風丘グループ本社の警備員。

実の父親ではないが、墨彦が尊敬している父親だ。

緋色「俺が‥弱いだと?」

怒りに任せて、緋色はパンチ。

ヒョイと墨彦は避けて背中をトンと押す。

バランスを崩して倒れる緋色。

が、跳ね起きてキック。

墨彦はまた軽くかわして、ズボンのポケットに手を入れた。

その姿はひどく挑発的に見えて、屈辱的でもあると緋色は感じる。

緋色「ふざけんな!」

殴りかかる緋色をあしらい、墨彦は緋色の足を引っかける。

ドサっ! ふたたび倒れて‥腰を痛打。

墨彦「言ったろ、オマエは弱いって。

だけどよ。腕力がオマエより強いからって俺は言ってるワケじゃねぇ。

俺だってまだまだ弱虫さ‥ついこの前まで、ろくに拳を握れなかったんだから」

ポケットの中で、ギュッと拳を握る。

墨彦「俺が犯した罪。

それを償う機会を得れたのも、誰かのために戦えるようになったのも

お前の姉ちゃんや蒼唯たちに会えたからなんだ。

紅ちゃんは強ぇぞ‥俺よりも、誰よりも強い。

心がブレねぇ。

すっげぇバカだけど、いちばん強ぇ。

紅ちゃんの心のジョブを知ってるか?

勇者だぜ。

俺は武闘家、雪永は僧侶。

檸檬ちゃんは戦士で、蒼唯は魔法使い。

桜花さんは召喚士、翠季ちゃんは賢者。

この翠季ちゃんも強い‥これまでずっと傷ついて苦しんで

それでも立ち上がってきた子だからさ。

苦しんだ分、強くなれる。

おまえは姉ちゃんを守るっていうけど、

実は姉ちゃんが今までオマエを守って来たんじゃねえのか?

どんだけ紅ちゃんが守ろうと強くなってきたか

んなもん、弟のお前がわかってやらなきゃ

いってえ誰がわかってやるってんだよ!」

『緋色、ご飯食べよ』『緋色、ケーキ焼いたよ』『緋色』『緋色』『緋色‥』

昔から、そして今も‥紅は緋色の名を呼ぶ。

名を呼んでは、気まずくて話し出せない自分に話しかけてくる。

学校でも公園でも‥家でも。

孤独を感じなかった。

父が早くに亡くなり、母も仕事で忙しい中

1度も寂しい想いを感じたことがなかったのは

紅がいつも呼んでくれていたから。

きっと‥紅はもっと寂しかったんだろう。

母は仕事‥父はおらず。

それでも弟のことを考えて、名を呼んで、笑いかける姉は‥

緋色「姉ちゃん‥」

身体が震える。

緋色「なんで‥俺は守りたかったのに‥なのに姉ちゃんに守れてたなんて‥」

墨彦「緋色‥悔しいなら強くなれよ。

心を鍛えて、次はお前が姉ちゃんを守ってやればいい。

心配すんな、それまで俺たち仲間が紅ちゃんを守る。

そうやって守って守られて、俺たちは世界中の人と繋がっていく。

それが、セクトウジャの戦いだ」

緋色「ふざけんな!」

墨彦「おい‥」

緋色「ふざけんなよ‥俺は姉ちゃんを守りたい。

世界中の人なんか関係ねぇ、俺は俺と姉ちゃんと母さんさえ守れれば

それでいいんだ‥それ以外何がある。

それが、俺が父さんに約束したことで‥それが、俺の戦いだ!」

立ち上がる緋色のパンチは威力が増している。

避けても拳圧が身体を押して、墨彦の体勢を崩す。

墨彦「なっ!?」

緋色「ふざけんな!」

蹴りは辛うじてかわしたが、威力もスピードも格段に変わっていた。

続けて放たれる左のパンチに、思わず緋色の拳を掴んでしまう墨彦。

緋色「手‥出したじねぇか」

心にドス黒いものが広がっていく。

墨彦「緋色‥?」

緋色「気安く呼ぶな!!」

右手に現れる、心の攻具・正義の刃。

しかし、刀身はすでに錆びついている。

墨彦「おまえ!? くっ!」

墨彦を突き刺さんと走る刃に、拳を放して後ろへ大きく跳ぶ。

緋色「このぉぉ!」

鋭い突き!

墨彦はクルリと回って体を入れ替え‥反射的に右ひじを緋色の背中に叩きこんでしまう。

墨彦「しまった!」

吹き飛ばされて、建物の壁に緋色はぶつかった。

墨彦「すまねぇ、怪我はねぇか!?」

駆け寄ろうした時だ‥『何をしてる!』と2人組の警官の声。

墨彦「いや、あの‥」

戸惑っている間に、錆びた正義の刃を手にしたまま走り去る緋色。

墨彦「あっ!」

追いかけようとした墨彦だったが

『オイ!』と警官が腕を掴む。

墨彦「なんにもしてねぇって」

が、崩れた壁がなにかあったことを容易に連想させる。

墨彦は緋色が怪我をしていないか心配ながらも

瞬間的に見せた力と錆びてしまった鋭い刃と‥逃げ去った体力に驚いている。

『インガさんの言ったとおり‥』

もしかして、心の攻具を具現化したばかりでなくて

心のジョブに目覚め始めているのかもしれない。

墨彦「アイツ、連れて帰らねェと」

焦ってはみても警官は墨彦の動きを抑えようとして、

もう1人は緋色を追って走っていった。

墨彦「違うって、アイツの帰りを待ってるを姉貴んところに

連れて帰ろうとしただけだって!」

『ウソをつくな、なにか悪さをしてたんだろ!』

警官にいくら言っても聞いてもらえず。

墨彦「ちっ、このままじゃ‥」

SSDの存在もある。

警察へ連れて行かれて、もしもSSDに情報がまわるようなことがあれば

自分も緋色もテロリスト・破壊脅威といわれることになり

仲間はもちろん、家族にまで‥

墨彦「ゴメン!」

そう言って警官を投げ飛ばす。

ゴミ置き場のポリバケツに顔からスッポリ入る警官。

墨彦「ゴメンな!」

頭を下げて謝り、墨彦は緋色を追う。


都内

フラフラ歩く、背が高く痩せた‥ヒョロッとした男性。

9月‥残暑も厳しいと言うのに灰色のフード付パーカーを着ている。

フードと下に被るキャップで、顔を覆った男。

大柄に似合わぬヒョロッとした体格は、男を儚げな‥

まるで、夏の終わりを告げまいと

焼けた路面に立ったまま動かない陽炎のようで。

かすかに拭く口笛は『ロンドン橋』‥

ロンドン橋落ちた

落ちた、落ちた

ロンドン橋落ちた

さぁどうしましょう

男「さぁ、どうしましょう?」

男性の背後のビルの1階の窓ガラスが突然割れて

膨れ上がった炎が轟音を発した。
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