彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル6・6
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院内・階段付近

壁から現れる翠季。

グリンザはツァイフォンに収納されている。

ドン☆誰かとぶつかり

翠季「おっとっとっと」

思わず降りる階段へとトットッと身体が跳ねて、落ちかけた。

そんな翠季の手を強く引いたのは正徳だった。

翠季「きゃ!」思わず大きな声で悲鳴を上げようとしたが

正徳の厚く大きな手は、翠季の口を軽くふさぐ。

おかげで、悲鳴は警官隊に届いていない。

正徳「静かに、おじょうちゃん」

柔らかくも鋭い視線の老刑事‥『大村 正徳』は翠季に声をかけた。

正徳「怖がらなくていい、ちょっと聞きたいことがあるんだよ。

キミが悪いヤツではないことは、ちゃんとわかってるから」

翠季の肩の力が抜ける。

『この人は信じていい』そんな安心感があった。

正徳「というか、おじょうちゃん‥壁から出て来たけど?」

翠季「えっ!? え‥えへへへへへ」

笑ってごまかそうとしても無理だった。


病院をコッソリ抜け出て、建物横の公園へ。

正徳「キミが‥西田 遥希を病院へ運んできたそうだね」

翠季「西田さん‥ハイ、あの人とぶつかってその‥

そのまま動かなくなってしまったものですから」

正徳「そう。

でも、意識不明の原因は君とぶつかったせいじゃない。

病気が原因だったそうだね」

翠季「あの人‥」

正徳「もう命の期限が残りわずからしい。

なにが病気だ、ふざけやがって。

今まで散々罪を犯して、罪を償わないどころか

罰を免れて大往生なんて‥納得いかない、絶対に許さない」

翠季「その‥それじゃやっぱり、爆破犯‥なんですよね」

正徳「警察としては捜査も進んでいないからね。

うかつに断言できないし、

たとえそうであってもキミたち市民には教えられない‥建前はね。

私、一個人としては、アイツに間違いないと言える。

これまでにも罪を犯して、多くの命をヤツは奪ってきた。

それにはおそらく、アイツなりの深いワケもあるだろう。

その事情は汲み取らないんじゃない。

だが、人は憎んでいないが罪は激しく憎んでいる。

たとえどんなワケがあろうが、犯罪を起こしていい理由にはならない。

たとえ病気だろうがなんだろうが

償わないまま、死んでしまったら‥たとえどんな理由にしろ、

奪われた命に、そして理由もなく傷つけられた命のために

なんとしてもヤツをこの手で逮捕し、償わせないいといけない。

それが、罪を犯した者を救う唯一の手段だと私は思っているよ‥

警察官として、出来る事であり、すべきことだと。

で‥だ。

キミが何者で、なにをしているのか? なぜ国から狙われるハメになっているのか?

私は承知しているし、そのことに大いに疑問も持っている」

翠季「えっ!?」

正徳「ハハハ、爆破犯を病院へ連れて来たと知って

関わり合いになるのを恐れて逃げる人間はいても

様子を見にすぐ帰ってくる人間は、ましてお嬢さんはいないと思う。

それに、キミのような女の子が爆破スイッチを

いとも簡単に破棄できるようには思えないんだよ。

ならば、ただ者でないことは容易に判断が出来る。

なんて言っても、なによりも壁から突然人が出てきたところを見ればね‥

誰でも普通じゃないってわかるよ、アハハハハ。

今、騒がせている未確認ナンタラとかの1人と察しはついた」

翠季「えへへ‥スゴイですよ」

正徳「こんな眼など、なんの役にも立たないものさ‥帰って『人』を素直に見れなくなる。

でも‥キミの仲間であろう野球帽をかぶった女の子は、

いまどき珍しく素直な目をして子だった。

キミと同じ目をしていたよ」

翠季は、それが檸檬だとわかった。

正徳「キミたちが何者かなんて構わない。

行いが正しくさえあれば、誰が誰であろうと関係はない。

悪ならば、私は逮捕するだけさ」

静かな物言いは、言葉一つ一つの重みを感じさせる。

翠季「私、遥希って人の心の世界に行ってました」

正徳「心の世界? それは‥なんだ、君が壁の中からできた‥アレかい」

ウンと頷いて

翠季「たぶん、私が遥希さんとぶつかったときには

あの人の心は身体に無かったんだと思うんです。

きっと、モンスタリアによってホイピエロイドに‥」

正徳「未確認ナンタラってことだね」

翠季「モンスタリアは人の心を暴走させます‥いえ、変態させられる心も元々
悪意に満ちたものだったりするんですけど」

正徳「因果応報‥とまでは、言いすぎかな」

翠季「心を暴走させることについては、モンスタリアが悪いと考えています。

つけこまれるような悪意を持ち続けるのか、捨て去るのかは

人が選ばなければならない問題だけど」

正徳「なるほど。

人にも非はあるが、それを利用するヤツラはもっと悪い‥か。

根は犯罪と同じ気がするよ」

翠季「人は弱く、脆く‥その弱さにつけいり、脆さを利用して

命に危害を加えるモンスタリアを、私たちは阻みたいんです」

正徳「なのになぜ、国は君たちまで包囲する?」

翠季「それは‥私たちがきっと、すぎた力を手にしているからなんでしょう。

まだまだ未熟だけれど、それでもあまりに強すぎる力を

彩心という心の闘士の力を私たちが持っているから。

でも‥私たちの力は心の力なんです。

心の力は誰にでもある‥誰もが持っている力なんです」

正徳「ほぅ‥心の力か」

翠季「ええ。

だから、心を強くすればおのずと心のモンスターであるモンスタリアは抑えられる」

正徳「目に見えないはずの心の戦いが、

君たちとその‥モンスタリアとかいうヤツラの戦いを通して

私たちの目に見えるようになっていると言うことか。

なら‥さながら、国の国守軍やSSDは‥」

人の弱い心が生み出した怪物なのだろうと、正徳は感じていた。

正徳「そうか‥私は、君の言うことを信じるし

君たちには勝利してもらいたいと願っている。

弱い者たちばかりじゃないさ、世界は。

そして弱い者たちもまた、必ず変われる強さを持っていると信じている。

だから私は、罪を犯す者たちを逮捕するのさ。

けっして感情で罰したくはない。

私たち人間が生み出し、順守する法にのっとって裁き、罰することで
犯した罪を償わせる。

たとえそれが極刑だとしても、それが法によって定められているのならば

刑として償わせるべきだと‥でなければ、人は罪を犯したと言う意識を失ってしまう。

それで被害者の心が救われるかと言えば、疑問符はつくだろう。

だが、少なくとも区切りはつくと思う。

そこから前へ進む力はあると、私は信じている。

加害者側の意識と被害者側の区切りと、

私はそれをつけるために犯罪者を許さない‥逮捕する」

翠季「それもきっと、心の戦いなんですね‥。

正徳「心の戦い。

言い換えれば、そうなのかも知れないね」

で、だ‥キミの仲間に合いたいんだが」

翠季「会いたい?」

正徳「いるだろ? 腐った警察官に付きまとわれているボウヤが。

そのボウヤに用事はないが、

私はボウヤに付きまとっているヤツを逮捕しなきゃならないんでね」

意識不明となっている遥希の携帯に、屋鋪への通話履歴が残っていた。

いつもなら完璧に消す痕跡も、突発的にホイピエロイドを生んだ遥希には
到底できる事ではなく。

正徳「アイツ、警察をナメやがって」

屋鋪への怒りが膨らみ、老体とは思えない威圧感を発していた。

翠季「あ、あの‥」

威圧感に怯えながら、翠季はやっとの思いで声をかける。

正徳「ん? あぁ、ゴメンゴメン‥いい歳をして、すまないね」

笑って見せた顔に安堵して

翠季「ちょっと連絡取りますから」

緑色のツァイフォンを手にした。


クローマパレス

宮殿内に雷鳴が走る。

広間ではクイーン・ベルメリオが怒髪天の如く荒れ狂い

死心力が宮殿内を暴れている。

壁はひび割れ、地は揺るぎ‥クローマパレスの後ろにある
異世界・天獄の入口である地獄門も、不気味に鼓動していた。

宮殿内の異変に、プリンセス・マゼンタは怯え

柱の影に身を隠す。

しかし、宮殿はさらに軋み今にも崩れんばかり。

マゼンタ「お母様!」

懸命に母と慕うベルメリオの名を呼ぶ‥

ベルメリオ「マゼンタ‥!?」

マゼンタの声が届き、ハッとなったベルメリオは正気に戻る。

ドレスの両裾を手にし、マゼンタが身を潜める柱へと小走り。

ベルメリオ「すまぬ、大事ないか? マゼンタ」

座り込み、震えていたプリンセスを抱きしめてクイーンは言った。

マゼンタ「お母様‥お母様!」

温かく抱きしめた母にすがりつく子供のように、マゼンタも強く抱き返す。

ベルメリオ「許しておくれ‥マゼンタ」

マゼンタを怖がらせてしまったことを、深く後悔して詫びる。

が、ベルメリオの胸中はかき乱されたまま。

愛するノワールが消えてしまった事実‥神によって命を断たれたかもしれない現状に
激しい怒りを見せたのも仕方のない事だろう。

マゼンタを抱きしめながら

ベルメリオ「おのれ神よ‥おまえはまた、私の愛しいものを奪うつもりか‥

許しはしない‥人間どもよ、おもちゃたちよ、闘士たちよ!

神ともども狩ってくれるわ!」

『母親』としての愛情でプリンセスを抱きしめながらも

『女性』として愛する存在を奪われた怒りを露わに

赤色の女王、クイーン・ベルメリオは恐竜戦艦・グラウザウラーを発艦させた。
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