彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル6・10
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『おい!』

蜜柑の肩を、きつく掴む男の腕と怒鳴り声。

家電量販店の前は大勢の人だかりで

その中に蜜柑の姿もあり

テレビで中継されている『付喪ライナーの破壊行為』と『恐竜戦艦の破壊行為』が

国守軍・報道担当隊により映されていて

破壊脅威と果敢に戦う、ソルジャーズ、トルーパーズ、空守軍の勇士が伝えられていた。

SSDマシン・ブルー機とイエロー機の果敢な攻撃が映されて

次に、恐竜戦艦が大爆発するシーン‥

付喪ライナーの攻撃はどこにも映されておらず

『いいぞ!』『やっちまえ!』

そんな怒号に近い国民の声を聴きながら、

蜜柑は付喪ライナーこそが、恐竜戦艦と戦っていたのでは?‥

そう感じていたからこそ『違う‥なんか、違う』と呟いたのだが‥

男1「なにが違うんだ?」

そのまま強引に蜜柑は

複数の男たちと女たちによって路地へと連れ込まれた。

ゴミ置き場があって、近隣の飲食店の酒瓶や蛍光灯なども置かれているが

誰かに割られて散乱している。

蜜柑「なにすんのよっ」

男の手を何とか振りほどいたが

男2「なんだぁオマエ、その恰好は!」

蜜柑は迷彩服‥兵士のコスプレをしていたが

男たちはそれが気に入らない。

女1「国守軍のコスプレしてんの? 信じられない!

お国のために戦ってくださる人たちなのに

アンタみたいなバカがいたんじゃ

未確認と戦って、散ってしまわれた兵士の皆さんに申し訳ないわ。

ちょっと、聞いてるの!!」

男3「この、非国民!」

四方から怒鳴り散らされ、恐怖で身がすくむ蜜柑を次々と罵倒して

女2「なにかいいなさいよ!」

蜜柑の肩をおもいっきり突く。

よろけ、尻餅をついた蜜柑。

蜜柑「痛っ」

痛みでようやく声が出て、突然に自分を取り囲んで怒鳴り散らす人間たちの顔を見た。

SSDは正義、国守軍は正義。

この国が、ただ一つの正義

未確認破壊脅威と戦い、世界の国々とから国民を守る唯一無二の正義。

蜜柑「まるでカルトね!」

まるで狂信者。

蜜柑は唇を歪ませて怒鳴る人間たちにそう言った。

『何を!』『なんだとっ』『何よ!』

蜜柑が顔を見て話すのが、かえって怒りを煽る。

男1「そんな格好して、SSDに悪いと思わないのか!」

女2「そうよ! 命を懸けて守ってくれてるんですよ!」

蜜柑「なら、破壊脅威4号は?

5号も2号も、私には人間を守ってくれてるように見えるんですけど!」

女1「なっ!? 何を言ってるのよっ。

あなたこそ、おかしな宗教に入ってるんじゃないのっ」

女2「アイツらはみんな、未確認破壊脅威よっ」

男2「オマエ、アイツらの仲間か?」

男3「いや、オマエ‥どこかで見たヤツだな」

女1「そう言えばそうね」

女2「アソコじゃない? ほらほら、八百屋と魚屋の夫婦が真向いで商売してるところの娘」

男2「ああ、あの、男狂いの」

女1「いいや、バカ力のほうじゃない?」

蜜柑「柚子ネェは男狂いなんかじゃない! れもネェは、バカ力なんかじゃない!!」

立ち上がる蜜柑‥

男1「うるせえ!」

立ち上がり、一同を厳し目で睨みつけた檸檬の迫力に思わず

男の拳が蜜柑の左頬を殴った。

また倒れる蜜柑‥が、それでも怒りは衰えない。

蜜柑「柚子ネェはとっても綺麗だ! 女らしくて頭が良くて

仕事に生きがいを見つけているし、強いもに向かっていく勇気のいる仕事だよ!

れもネェは、忙しいお父さんとお母さんに変わって

いつも、美味しいご飯を作ってくれる!

いつも、優しくしてくれて、時には叱ってくれて

すごくお母さんみたいなお姉ちゃんなの!!

そんな姉ちゃんたちをバカにすんなっ!!!」

1度手が出てしまった人間は抑えが利かなくなって‥

女1「生意気な子ねっ」

女2「誰に文句言ってんのよ!」

男に続いて、蜜柑を蹴る。

蜜柑「謝れ! お姉ちゃんたちに謝れっ!!」

なおも立ち上がり、姉をバカにしたヤツラに詫びさせようとする蜜柑だったが

火がついたような感情の暴走を起こす者たちは

立ち上がろうとする蜜柑の顔を蹴り踏み、ついにまたがって座り叩くもの

拳を叩きつける者、さらに蹴る者と暴力の渦に溺れていく‥

そして、誰かが建物の壁にかけていた木材を持った。

覆いかぶさる男をやっとの思いで払いのけ

意識も朦朧となりながら立ち上がろうとした蜜柑の頭部を

木材を持った女は殴った。

衝撃で木材は折れ‥女は木材を落とす。

蜜柑の顔に、頭から吹き出る血が流れ落ちるのもかまわずに

振り返り、女の腕や襟を掴もうとする蜜柑。

男1「こ、この!」

蜜柑の後ろ襟を掴んで、力の限り突き飛ばした。

その先に、割れたガラスが散乱していたのを知っていたのに‥男はかまわずに投げて

『ぎゃあぁぁぁ』

右腕を抑え、蜜柑の悲鳴が辺りを飲みこんだ。



泣きじゃくり、話しにならない母の代わりに祖母は経緯を話した。

麗子「今、金天さんと金次くん、柚子が警察へ行ってるよ‥

相手は最近、あのあたりを見まわっている自警団だそうだ。

未確認ナンタラってぇヤツが現れないか、お国の役に立つんだといきがって

意気地なしどもが徒党を組んだってことさ。

だから、歯止めが効かなくなる‥こんな娘を、何もここまでしなくたって‥

この子が、なにをしたって言うのさ!」

ガマンしきれなくなったのだろう、麗子も涙を落とす。

檸檬「蜜柑‥」

包帯だらけの顔を覗き見る。

麗子「命は助かるってぇ、お医者様の話しだ。

だけど‥‥刺された右手のね‥腕って言うのか、その神経が切れちまってて‥」

檸檬「ウソ‥それってなに? もう動かせないってこと? だ、だって蜜柑は‥」

作家を目指して勉強していた‥漫画家になるのか、小説家になるのか

どちらになるのか『決めかねてんのよ』と言いながら

毎日、絵や文章を書いていた蜜柑。

『れもネェなんて、どっか行っちゃえ!』

『アンタこそ、帰ってくんな!』

檸檬「ヤダ‥わたし、なんてヒドイ事言っちゃったんだろう。

わたしがあんなこと言わなかったら‥蜜柑は‥」

『バカ!』と互いにぶつけた言葉は跳ね返って

蜜柑に重傷を負わせ、これから長く続く人生から右手を奪い

檸檬に取り返しのつかないことをしたという後悔を激しく投げかけた。

まだ、自分が怪我をした方がいい

自分の右腕が動かなくなる方がマシだ

なんで‥なんで、あんなに頑張っていた蜜柑が‥。

檸檬「わたし‥蜜柑がそんな目に遭っていたころ‥」

気付いて愕然となる。

蜜柑が暴行されていたとき檸檬は

彩りの闘士・彩心して戦っていた。

多くの人を傷つけた人間の心を救い、みかんをここまで傷つけた者たちがいる世界を

自身も傷つきながら戦い、守っていた。

檸檬「うわ‥ああ‥んん‥んぐ‥」

麗子「檸檬?」

涙を拭きながら、ようやく冷静さを取り戻した祖母が

檸檬の様子に気づいて声をかける。

涙なんか出ない。

人は‥本当に悲しいとき、絶望した時、涙なんか流れないんだと知った。

檸檬「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ただ叫び、怒りを発し

美月「檸檬!?」

麗子「檸檬っ」

母や祖母が檸檬を抱きしめようとするのを振りほどき

その声で何事かと駆け付けた看護師たちを突き飛ばし

檸檬は街へと飛び出した。

あたりはすっかり暗くなっている‥

夜の町をフラフラとさ迷う檸檬のツァイフォンが鳴る。

『ピーノ』と表示されているが

手にしたものの表示も見ず、力なくある檸檬の手から

ツァイフォンはスルリと零れ落ちた。

拾うことなく、去っていく檸檬。

夜風が冷たくなる頃、ツァイフォンを拾う手‥それは椿の手だった。

椿「これって‥」

セクトウジャのものだと気づき、辺りを見たが

檸檬の姿は夜の町に飲みこまれ、もうわからない。


まだ、試練は続く。

心の闘士が『心』を守るために乗り越えなくてはならない試練は

これからが本当の試練なのだ。

みんなで心が壊れないように考えられる世界を実現するためには

困難は付きまとう。

願いが大きければ大きいほど、壁も高くなる。


この壁を乗り越えられるのか‥

それとも、木端微塵に砕けてしまうのか?

今はまだ、誰にもわからない。



「彩心闘記セクトウジャ」レベル6
『壊れる心』完‥レベル7へ続く
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