彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・2
2ページ/5ページ

人格者の先輩ならば、強要などしないのだが
そうでないものに限って、先生・師と呼べと強要する。

座員といってもその人たちによって入団するケースは異なる。

1.座長の芸を学びたいと弟子入りする者

2.役者として活動したい、大成したいと決意して入る者

3. 労働・職種の一環として、劇団を選択し入る者

4. 実力・実績の有無は関わらず、解雇された等の理由で移籍してくる者

5.すでに実力・実績はあるのだが、何らかの事情により劇団を移籍する者

6.5と同じく、実力・実績があって、移籍ではなく『助っ人・手伝い』という、
劇団を一定期間の契約日数で渡り歩く者

あと細かく分類するならば、もっといろいろなケースが座員にあるのだが

いずれにしても『師・先生』と呼ぶことを強要するのは

1や2は『師・先生』と呼べと言われて当然ではあるが

3や4に関しては、あくまでも『師』ではなく、座長は経営の長でしかないワケであり

5と6に関しては、無礼・非礼、礼儀知らずも甚だしい。

座長を『先生』と呼べと強要する背景には

大衆演劇の劇団という、仕事場であり共同生活の場である小さなコミニュティーで

[権力を振るいたがる]という、いわゆる[お山の大将]気取るのは
愚かしく、悲しい人間の性というものであろうか。

座長本人の人間性に大きく関わるものではあるが、

多かれ少なかれ、閉鎖空間ともいえる大衆演劇の劇団内は
一般社会よりもなお濃く、その座長の人間性によって大きく環境が左右される。

そんな裏の面は、テレビでよくあるドラマやドキュメンタリーでは
あまり触れられていないのが現実で

『義理と人情』を看板に掲げ

『今』という時代に忘れられた古き良き世界と描かれることが多々見られるが

ドロドロと汚れた部分もあるということを忘れてはならない。

汚れた部分というのは、会社、学校‥政治はことさらで

多か少なかれ、そう言った部分はあるものだろうし、

そんな劇団ばかりではないのも本当であるが。

雪永「そうそう。

なんかさっき、タッちゃんや雲太郎、ふーちゃんが慌てた様子で走ってったけど‥

なにかあったの?」

ツネは一瞬、ギクリとした表情になった。

ツネ「い、いえ‥なんにもありませんよ」

雪永「ウソ。

ツネさん、ウソつくのヘタだもん。

舞台に立てば、スゴイ役者さんなのに
普段はからっきしの人だから」

『しまった』といった表情を覗かせて

ツネ「実は‥」

雪永「どうしたの?」

ツネ「冬馬が‥ドロン(失踪)しちまったんです」

雪永は驚きの表情を隠せず、つい大きな声で『ええ!?』と叫んでしまった。


市内・駅

ホームで電車を待っているのは『祈 冬馬(いのり とうま)』こと
『津上 博良』だった。

手にはボストンバックが一つ‥当面の着替えや、必要なものを入れているのだろう。

雪永が劇壇を無期限休業した後、博良は冬馬として

劇団の花形として、座長ともども祈想座(きそうざ)を盛り立てて来た。

そんな彼がなぜ、ドロン‥失踪という方法を選んで姿を消したのだろうか?

雪永・25歳

博良・24歳

ひとつ違いの2人はライバルであり、親友‥だと、雪永は思っていた。

しかし、博良のほうは

雪永に対して、あまりいい感情を持ち合わせていない。

ライバル‥というよりも、かなり邪魔な存在。

いっそ消えてしまえばいいのにと思い続けていたら

雪永は文字通り、舞台の最中に一座を抜けてしまった。

それからというもの、座長や副座長とともに

一座を引っ張り、舞台に立ち続けていた‥と、自身では評価していた。

だが、そんな考えは甘いと思い知らされた。

舞台に立ち、雪永の演じていた役をすべて博良が演じ

座長、副座長の前に立って演技をすると

今まで見えてこなかった景色が次々と、博良‥冬馬の慢心を撃ち砕く。

今まで演じていた役で、舞台上の座長や副座長と対峙するときと

雪永が演じていた役を演じて対峙するときとでは

冬馬という役者に掛かる重圧がまるで違う。

対峙する役者から発せられる何かしらの気迫が重圧となり

博良のチッポケな役者としての驕りを、完膚無きまでに叩きのめした。

博良「俺は‥今まで何をしてたんだろう‥」

祈 純白(いのり ましろ)‥雪永は誰が見ても、演技・踊りの天才で

その完成された芸には脱帽するが、まだ発展途上と人は言う。

『あれで‥まだ伸びる』対して博良は‥座長、副座長、若座長に次ぐ

祈想座の花形として人一倍の努力をしてきた。

天才と言われ、完成しているものと思いきやまだ伸び城がある雪永。

なら自分は、その雪永をも上回る役者になるべく

努力を惜しまず、精進に精進を重ねて

努力こそが天賦の才を越えるということを、雪永に思い知らせてやると決意を胸に

いままで精進してきた‥そのはずだった。

ロクに稽古もせず、もって生まれた才能を

恵まれた環境でただ、ひけらかしているイヤなヤツだと
雪永を決めつけていた。

親友だと慕ってくる雪永を疎ましく思い、扱い

ことあるごとに対立しては、雪永に努力の賜物を思い知らせる日を待った。

雪永はある日突然、舞台よりも大切なことがあるといって姿を消した。

これこそ、絶好の機会だと博良は胸を躍らせた。

どうせ雪永は帰ってくる‥親からもらった才能は

親が作り上げた環境でしか発揮できないものを、自身の才とうぬぼれたヤツなら

親元からは離れられないと、厳しい現実というものに叩かれ、殴られ

泣きながら帰ってくるほかはないと‥決めつけていた、思い込んでいた。

しかし、厳しい現実というものを思い知ったのは博良のほうだった。

自分は努力している‥そう慢心した時、努力で伸びる才能はストップしてしまう。

雪永が舞台上で見ていた景色、肌に心に感じていたプレッシャーは
天才でしか押し返すことはできないものだと

才能と境遇には逆らえないのだと、春義の自尊心は脆くも崩れ去り

舞台に上がることが無意味‥虚ろなものになってしまった。

彼はまだ気づいていない。

雪永も人知れず努力しているのだ。

才能あるものとて、努力なしでは土の中に埋もれたままになる。

原石は、磨かねば宝石にならない。

だが才能という原石を持ち合わせていなくても

努力という石は誰の手にも平等に渡されていて

その石をどう磨き上げるかで、人生の分岐点は大きく変わる。

境遇の違い

才能の違い

それは確かにある。

それに限らず、どうにもならないことは世界にたくさんある。

でも‥それを覆す力を秘めた石が、努力という石がある限り
未来は大きく変わる可能性がある。

そのことを、人は忘れてはいけないのだ。

博良「力の差ってヤツさ‥俺がバカだったんだ」

自分で自分をあきらめた彼は、沈痛な表情を携えて
ホームに滑り込んできた電車に身を預けた。


朽ちた教会

誰からも忘れ去られた教会‥

聖なる光はすでに失われ、建物からは死の影しか感じ取れない廃墟。

祭壇の前に、退屈そうな菫が座っていた。

小さく欠伸をして『うーん』と、上半身の伸び。

菫の前、『身廓』という空間がある。

教会の正面入口を入り、入口の間を抜けた時に目の前に開ける空間のことを指し

教会の一番奥には内陣(祭壇のある所)。

それより手前の、長椅子が並んだ通路のような部分が身廊である。

身廊の左右には柱が並び、教会の屋根を支えていて

この柱よりも外側の部分を、身廊にたいして『側廊』という。

柱には蜘蛛の巣だらけで、長椅子もボロボロ。

そこに緋色が両手を組んで枕にし、寝そべっている。

緋色が目を瞑って寝そべる近くに、不安を隠せない檸檬がいた。

なぜ、蝕の後についてここまできてしまったんだろう?

ここにいちゃいけないと思いながらも

思いのほか優しくしてくれる蝕の態度に檸檬は、どことなく甘えてしまったと思っていた。

外に出れば みな口々に『SSD万歳』『国守軍万歳』と怒鳴り
誰もが殺気立っている。

こんなヤツラに妹は深く、一生抱えてしまう傷を負わされた。

自分もまた、こんなヤツラのために命を懸けて戦ってきたのかと思うと‥

檸檬「怖くて外になんか出れないよ‥」

足を抱えて、顔を伏せる。

どれくらい日にちは経ったのだろう?

3日? 5日?‥いや、7日だろうか?

檸檬「蜜柑‥だいじょうぶかな‥」

命に別状はないと、病院で聞いたが

それでも包帯だらけの蜜柑の姿はショック過ぎた。

垣間見える顔は赤やら青、黒が混じり合い腫れている。

深く切れて、もう動くことのない腕。

檸檬「蜜柑‥」

涙がまた流れ落ちる。

もう何日も何日も涙は出るが、涸れることはないのだろうか?

人の涙は‥永遠に流れ続けるのだろうか?

菫「泣くのがイヤなら忘れちゃえ」

ハッと顔を上げると、ピオレータ‥菫が

ニコニコ笑って、檸檬に話しかけていた。

菫「泣くほど辛いことなら、忘れちゃえばいいのよ。

守りたもの、大切にしたい者、そんなのがあるから辛くなる。

だったら、捨てちゃえばいいじゃない。

それか‥この手で壊すか‥ね♪」

無邪気な笑顔は深い闇のよう。

菫「ねえねえ、なにかして遊ぼうよぉ。

退屈ったらないよぉ‥あーあ、アナタじゃなくてぇ

蒼唯が来てくれたらよかったのにぃ」

両腰のホルスターに納めた、大型の2丁拳銃を指でなぞりながら

菫「遊びたいなぁ」

クスクスと笑みをこぼしながら、先程とはガラリと違う冷たい視線で檸檬を見た。

菫「アナタは邪魔なのよ‥蝕はなんでアナタなんか連れてきたんだろ?

あ‥そぉだ、いいこと考―えたっ♪

蝕もいないことだしぃ、このまま待ってるのも退屈だしぃ

アナタ、私と戦いましょ♪」

そう一方的に言うと、すぐに2丁拳銃を抜いて見せる。

檸檬は慌てて身構えるが‥

ツァイフォンが無い以上、マモーブを着ることも武器も手にすることも出来ない。

菫「うふふふ、なにして遊ぼうか?」

表情が変わって、表に出てきたのは牡丹。

牡丹「オマエ、撃たれるのが好きか? それとも刺されるのか?

殴り殺されるのも悪くないぞ」

狂気をともに連れた笑顔を見せて、牡丹は今にも檸檬に跳びかかりそう。

蝕「なにやってるの。

こんなところでバタバタしたら、すぐに‥天井も壁も崩れて落ちてくるわよ」

ピオレータ・牡丹の行動‥衝動を抑えるように、姿を見せた堕天使。

蝕の登場に緋色は目を開け、起き上がる。

緋色「堕天使‥」

蝕「はぁいボウヤ、ご機嫌いかが? 夕べは楽しかったわ‥今夜もキミの熱いの、

タップリと頂戴ね」

檸檬「え? ええっ!? ひ、緋色くん、そんな関係になっちゃったの!?!」

緋色「う、うっせぇな‥そんなんじゃねえよ。

血を抜き取られてるだけさ。

お前もややっこしい言い方すんな!」

エクリプスに向かって怒鳴る。

蝕「あははははは。

照れちゃって可愛いのね‥なんなら、アッチの方も面倒見てあげてもいいわよ。

私を満足させれる自信があるのなら‥の、話しだけど」

緋色「ふんっ」

興味なしといった表情で、緋色はボロボロの長椅子にまた横になる。

蝕「ふふ、期待しないで待ってるわ」

赤い舌は挑発的にチロリと唇を舐め、

銃を構えるピオレータの前に立って動きを封じる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ