彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・5
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小さな戸建の家

古い建物だが、作りは頑丈。

積み重ねた年月を誇るように、堂々と立っていた。

小さいながらも中庭があり、縁側があって

そこに寝そべっているのは椿。

あの夜‥檸檬が暴行された蜜柑にショックを受けて飛びだした夜。

落としていったツァイフォンを拾ったものの、つい返しそびれて
いまだ手の中。

椿「なーんか、お知らせ来てるし」

画面に『アップデート』の通知がある。

椿「ったく、ロックぐらいかけときなさいよ。

不用心なんだから」

ぶつくさ言いながら、アップデートを開始。

イチゴ「コラ! ダメじゃナイ、人様のモノを勝手にイラッタリして」

ホームロボットのイチゴは、エプロン姿で椿を叱る。

椿「だってぇ」

『[戦心システム]アップデート完了』の文字が通知画面にある。

いったい、どんなシステムなんだろう?

科学者の娘としての好奇心が覗き、ついついツァイフォンを返しそびれさせていた。

イチゴ「ソレはヒトのモノでショ? チャンと返さないト」

椿「わかってるって」

イチゴ「わかってるナラ、スグに返してラッシャイ!」

まるで母親が子を叱るような口調で、椿を急かすイチゴ。

椿「わかったって! チョットいってきまーす!」

イチゴに叱られて、慌て外へと出ていく椿。

イチゴ「ったく、ショウガないんダカラぁ」

もしも人間であったならきっと

頬をブクッとくらませていっていることだろう。

イチゴは椿を出した後、先程までしていた掃除の続きを始める。

以前、椿とイチゴが住んでいた家は
SSDの出現によって危険であると判断したイチゴによって

そのまま放置されて現在のこの家に引っ越してきた。

椿の趣味もあって、古い家を借りたのであるが
カモフラージュには最適な建物でもある。

そう、付喪堂と同じく

一見すると築年数の経った古い家なのだが

その実、地下に広がる空間に『justice (ジャスティス)』はあった。

椿の父である『緋紗 夏生』博士が研究・開発した、特殊戦闘システム『justice』

戦闘を重ねるごとにデータを蓄積し成長するシステムであり

内臓する液体金属『ジャスティリアル』を使って

戦闘状況に応じた武器を生成・射出する。

地下空間も、ジャスティスによって作られた

あらゆるレーダー・ソナーを無効化して発見されないようにする、ステルススペースだ。

無論、ヴァーミリオンの装備はすべてこのジャスティスで生成された物で

データを得るたびに、朱の鬼・ヴァーミリオンは強くなる。

それは『戦うたびに、鬼神あるいは破壊神へと近づく』ことといえる。

『justice』の制御・管理は

イチゴの体内に隠されているプログラムでしか、行えない。

ゆえに朱紗博士は、イチゴの身柄を欲している。

そんなことを考えもしていないのか、イチゴは鼻歌交じりに掃除を続けていた。




ザックリとした表現かもしれないが、ここはどこかの海のど真ん中。

SSDや国守軍の監視の目が厳しい中では

時折遠く離れた海や無人島、あるいは空や山中に身を潜める時もある。

しかも今、付喪ライナーは緊急事態。

それは‥

伝助「仁のドあほっ! 愛理のボケっ! 孝太のアンポンタンっ! 信代ちゃんの大金持ちっ!」

信代だけ若干、怒鳴り方が違ってはいるが

伝助はそれはもう、プンプンのカンカンだ。

伝助「付喪堂が機能凍結されてる今、この付喪ライナーだけが

ご近所さんから世界の人まで守れる戦闘移動要塞やのに

どないしてくれてケツかんねんっっっ」

伝助の怒りも理解できる。

付喪ライナーはつい最近、完成したばかりのスーパーマシン。

少し無理をしただけで、どこに故障個所がでるかもわからない、

どこに不具合が生じるかわからない。

まだモーター部分が馴染んでいないうちに無理をすれば

オーバーヒートやパンクすることだって起きうることだ。

現にいま、運行システムに不具合が発生して

付喪ライナーは運休している‥海のど真ん中で。

総右衛門「ハートフィールドでの戦いは、いささか強引でございましたからのぅ」

源左衛門「あれだけの数のゾンビーたちだ、仕方がないといえばないのだが‥」

伝助「せやから、すぐにでも精霊城へ向かうことも出来ひんかったのに

オマエらだけでとっとと行きよってからに!」

仁、愛理、孝太は正座して、伝助の小言を聞かされている。

信代は、ごんとねんの接待を受けてトロピカルドリンク休憩中。

仲間たちが怒られている中、ドリンクを飲むのは抵抗感アリなのだが

ごんとねんがあまりにススメるので、チューとストローで吸ってみる。

海岸によくいるセレブちっくな光景を展開することになった信代。

愛理「なんで信代ちゃんには対応が違うのよ」

伝助「はい、そこぉ!」

熱血教師よろしく、チョークを投げて愛理の額に直撃させた伝助。

愛理「痛いわねっ!!!」

伝助「ゴショゴショ言うてるからやっ。

言いたいことがあるんなら堂々と言わんかいっ」

愛理「なんで私達が正座させられて、しかもパンダの説教聞かされて

信代ちゃんだけトロピカルジュース接待受けてんのよっ」

伝助「決まっとるやないかい、

風丘グループはんは、付喪堂に資金提供してくれはっとるからや」

愛理「んなこと、堂々と口にするんじゃないわよ!」

伝助「うるさいボケ! 世の中、銭や! 銭コがモノ言う世の中やっ」

愛理「それが、いちばんファンタジーな存在の己がいうセリフかぁぁぁ!」

伝助「ならお前が払ぉてくれんのかぁぁぁ!」

愛理と伝助、懐かしの乱闘タイムに突入。

仁「なぁ信代ちゃん、風丘グループって付喪堂にどんくらい資金提供してんの?」

信代「うーん‥お父様からとくに聞かされてはいないんだけど‥

国家予算、軽く超える程度とか聞いたような」

孝太「仁くん、聞かないほうがいい‥聞くと社会の迷路に入り込んでしまうよ」

仁「う、うん‥そうだな」

それ以上突っ込んだ話は避けて、前を見ると乱闘タイムも落ち着いた様子。

愛理「がるるっ」

伝助「しゃあぁぁぁ」

ピーノ「おにいしゃんと愛理しゃん、往年の沖縄名物・コブラvsマングースみたいでしゅ」

ルナ「うふふ、そうね。

ケンカするのが楽しみみたいなもんだから、2人とも」

ずず「そ、そうなんですか」

『伝助、お小言は無しにしなさい』

と、満優の声がした。

伝助「とにかく、愛理たちはよぉやった! 感動したっ」

態度をガラリと変える伝助は、嬉しさ10000倍といったところか。

振り返り

伝助「満優さまぁぁぁ!」

連結部分のドアが開いて

満優、勇護、侠真、真忍、凛雫、カルマが客車に入ってくる。

そのあとにジャシンとインガ。

満優が入ってきたとたんに、跳び抱きついて甘える伝助。

総右衛門は薄っすらと涙ぐみ、源左衛門も晴々とした笑顔を見せていた。

もちろん、淑もルナもピーノもずずも

珍平、餡子、君兵衛、缶吉も大喜び。

ごん&ねんも、侠真や凛雫の周りを飛び跳ね

メアリーは真忍の傍でピッタリと寄り添っている。

伝助「おかえりなさい、満優さま‥おかえりなさい!!!」

満優「苦労かけましたね、伝助、みんな」

愛理「姫ちゃん!」

満優に抱きつく愛理。

信代は真忍に抱きつき

孝太は凛雫と、仁は侠真と握手をする。

勇護「いや、その‥」

誰も来ないと思いきや

仁・愛理・孝太・信代「お帰り、黒担当!!!」

一斉に全員が抱きつく。

愛理「ちょっと! アンタが寝ている間に後輩の黒担当がいるようになったのよっ」

仁「そうそう、墨彦ってヤツでな

ちょっと気が強くて、可愛い後輩なんだぜ」

仲間に囲まれ、とても嬉しそうな勇護。

満優「よかったですわね、勇護さま」

侠真「ハハハ、持つべきものは友だな」

そう言って、跳ねた源左衛門とハイタッチ。

メアリーもまた、真忍を労わっている。

仁「でも、喜んでばかりもいられねぇ。

今の状況は最悪だぜ」

伝助は満優の腕からスッと降りて

伝助「せや。

霊皇はまだ完全に力を取り戻してへん。

彩心はさらに最悪な状態で、レベルアップだけは順調に進んどるけども‥」

仁たちから聞いた檸檬や緋色のことを思い浮かべ

伝助「檸檬ちゃんと紅ちゃんの弟、緋色が悪に堕ちてもぉた。

弱い心から堕ちてしもぉたんやけど、その弱さを僕は否定せぇへん」

満優に出会う前、自身も怒りと悲しみに任せて放火しようとした過去があるから‥

伝助「人は誰しも弱いんどす。

弱いから強くなろう、強くありたいと進むんでおます。

はじめっから強い人なんて おりしまへん。

『弱い』から少しずつ『強く』なるんどす‥強ぉなった霊皇のみなさんは

今、弱いから強くへ変わろうとしている彩心を
生暖ぉ見守ってください」

愛理「温かくねっ」

伝助「僕らは彩心をガッチリサポートします。

せやけど、色呪王国モンスタリアだけやのぉて

SSDと国守軍、蝕」

ジャシン「それに‥インキュバスとサッキュバスという夢魔2人が現れた」

仁「アイツら、いったい何者なんだ?」

ジャシン「私も詳しい所までは知らない。

だが、天獄の住人だということ

そして私や想真さまに怨・魂力を与え、妖霊に変え

ハートフィールドの出現とモンスタリアの誕生にも大きく関わっている、

それがヤツラだ」

愛理「じゃあなに? 私達の戦いや後輩君たちの戦いの黒幕‥張本人ってこと?」

ジャシン「それがヤツラなのか、まだ背後に何者かがいるのかはわからん‥だが」

インガ「天獄の住人が、地獄門をくぐって戦いを仕掛けてきた。

それが問題よ」

信代「確かに‥」

孝太「あの木のバケモノとか、黒い影とか、ウジャウジャいるんですかね‥」

愛理「それ以上のヤツがいるかもね」

孝太「ひぃぃぃ」

信代にしがみつく孝太。

黒い影の攻撃に、手ひとつも返せず負傷した傷痕を

源左衛門は触れた。

源左衛門「アイツらが立ちふさがるのか‥だが!」

侠真「そうさ、俺たち霊将がいる。

もちろん、霊皇もその後輩たちもいる、伝助たちもいる」

真忍「想いを合わせ、心をひとつに」

凛雫「さすれば、悪を退ける力となりましょう」

満優「命のために、愛のために剣を、弓を」

仁「命を守ることが俺たちの戦い。

俺たちは俺たちの戦い方で、悪を退ける」

愛理「ドンッと一発、かましてやろうじゃない!」
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