彩心闘記セクトウジャ・2

□レベル7・9
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魚金

檸檬の父が営む魚屋。

母が営む八百屋・八百月と揃って、今はシャッターが閉まっている。

『さっ、行くよ』『早く早く』

魚金の裏口から、そっと入ってきたのは

紅、蒼唯、雪永、墨彦、桜花、翠季‥仲間たちに連れられた檸檬。

『わんっ』花菜が嬉しそうに鳴く。

居間にいた祖父の金天や祖母の麗子も檸檬に気付き

『お帰り』と、いつものように笑顔で出迎えた。

檸檬「ただいま‥」

母の美月、姉の柚子も檸檬の声を聞いて

居間から庭へ駆け出す‥『バカ!』安堵したような怒鳴り声で、美月は檸檬を抱きしめ

柚子も肩に優しく手を置き、微笑んだ。

檸檬「ごめんね‥ごめん」

美月は黙って頷いている。

部屋の奥から『なにやってやがる、美月も柚子も飯の支度しろ!』

父の金次の声。

『ほら‥檸檬もとっとと台所へ行って、手伝わねえか』

変わらない父の声に

檸檬「はい、とうちゃん」

ようやく、弾けるような元気な声が聞かれた。

檸檬は台所へ。

庭では、金天や麗子から『夕飯を食べて行きなさい』と紅たちは誘われていた。

一方‥台所。

美月「檸檬、醤油差の中が切れそうでねぇ。

どこに置いてるだっけ?」

普段、檸檬がすべてを仕切っている台所。

美月「母ちゃん、檸檬にまかせっきりで

なんにも知らないから‥あはははは‥って、笑ってる場合じゃないね。

ゴメンね、檸檬」

檸檬「ううん‥母ちゃんも父ちゃんも、働いてる姿が私は好き。

だから、家のことはしっかり私が守れる。

そう‥守れる‥」

美月「ありがとね‥でも、これからは檸檬の好きなことを
もっとたくさんしていきな。

いつか、檸檬が子供を持った時に

好きにしなさいって、言ってやれるようになるために」

檸檬「うん‥」

カタ‥茶碗を手に取る音が聞こえる。

振り返ると、蜜柑が立っていた。

まだ頭にも身体にも、包帯は残っている‥その下にある腫れも。

それでも、立てるようになっている。

しかし、右手は‥ぶらんと下がったまま動かない。

蜜柑「へへ‥れも姉ぇとケンカして、他の奴ともケンカしちゃったよ」

そう笑いながら

蜜柑「お腹すいた‥れも姉ぇ、お腹すいちゃった」

柚子「そうそう、お腹すいたよぉ。

早く早く」

何事もなかったように、普段と変わらぬように

家の中の時間は動き出す。

きっと、アッチの家の中も

コッチの家の中も

ソッチの家の中も

大勢の誰かの家の中でも、それぞれの大切な時間は流れている。

美月「檸檬、味噌汁注ぐから

檸檬は玉子焼きお願い」

檸檬「あっ‥う、うん」

冷蔵庫から1パック取り出して、手際よく割ってボールの中を解く。

檸檬「みんな甘目が好きだから」

砂糖を入れて、綺麗に巻いて。

紅たちはすっかり居間でくつろぎ中。

金天「こら、金次。

男が泣くな、みっともない」

金次「う、うるせぇ、誰も泣いてなんかいねぇや!」

ワイワイと賑やかな居間。

美月は味噌汁を運ぶ。

柚子は『先に食べちゃおうっと』なんて言いながら居間へ入る。

台所には檸檬と蜜柑。

檸檬「あ、あの‥蜜柑、あのね」

蜜柑「言わなくてもいいような気がするけどさ

柚子姉ぇはケジメ付けときなって言うの。

だからさ、せーのでいいんじゃない?」

檸檬「せ、せーの‥で?」

蜜柑「そうそう。

じゃ、せーの」

檸檬は慌てて、蜜柑は穏やかに

「ごめんなさい」

言った後、2人は笑った。

いただきます、ごちそうさまでした、

おはよう、おやすみ、こんにちは、こんばんわ、

そして、なにより大切なのは

ごめんなさい、ありがとう

たとえ言葉が通じなくても、どんな状況だとしても

これらの言葉は忘れるな、これらの心を忘れるな。

国が違っていても、育った環境が違っていても

世界共通で、ありがとうや ごめんなさいは通じる。

世界はそれで平和になる。

そんな風に、父ちゃんや母ちゃんに教えられたな‥

檸檬「あ‥そっか‥そうだった‥」

戦う理由は、そんな人たちを世界を

壊そうとするものから守りたかったから。

怖いけど、誰かが守らなきゃ壊されてしまうから。

だから戦った‥悪い人たちがいたからだとか、ゴチャゴチャしたのは関係ない。

檸檬「私は‥私が守りたいと思ったから‥」

頭に浮かぶ『44』の数字。

蜜柑「なにそれ? れも姉ェ、44点ってこと?」

檸檬「ちょっと、違うわよ、レベル44ってことよ」

キャッキャと笑う2人。

狂戦士化しときの『66』は消えてしまったが

戦士として覚醒した檸檬は、レベル『44』となっていた。

蜜柑「44点のれも姉ェだけど、卵焼きは100点満点だよねぇ」

左手でつまみ食い。

檸檬「つまみ食いしないのっ」

蜜柑「ほーい」

そう言って、左手で皿を持った。

檸檬「いいわよ蜜柑、私が持っていくから」

蜜柑「いいって‥リハビリ リハビリぃ♪」

檸檬「蜜柑‥」。

蜜柑「れも姉ェ‥私、泣かないよ。

右手が動かなくても、左手は動くんだから。

絵も描けるように練習するし、小説だって書いちゃうんだから。

戦争だとか暴力だとか、そんなもんが大きな顔して歩く世界を

間違ってるって叫ぶような作品、私が書くんだ!

だから、泣いてるヒマなんかないの‥だよね」

檸檬は静かに頷いた。

足でヒョイと戸を開けて、卵焼きを持った蜜柑は居間に入る。

檸檬「蜜柑‥そうだよ。

お姉ちゃんね、蜜柑の中にも戦う心を感じたよ。

おもいっきり、戦って。

私は、そんな蜜柑たちを守って戦うから」

『れーもーんちゃあぁぁん』ヒュードロドロと、地を這って檸檬に絡みつく紅は

紅「早くいっしょに食べよ」

戸の陰から首だけ出して、蒼唯・雪永・墨彦・桜花。

蒼唯「早くしろ」

雪永「お腹ペコペコで」

桜花「そうそう、先に食べてしまうばい」

翠季「残しませんからねぇ」

紅「アッ! 待ってよぉ」

紅は蒼唯たちを巻き込んで、居間へなだれ込んだ。

いっそう、賑やかになる。

檸檬「みんな‥ありがとう」

歩き始めて、ふと気が付く。

ポケットの中に、ツァイフォンが入っていた。

紅が入れたのだろう。

メタリックイエローのツァイフォン‥檸檬の力。

待ち受け画面は、付喪ライナーで撮った仲間たちとの写真だった。

『いっただきっまーーーす』

紅の大きな声が聞こえて

檸檬「さ、私も食べようっと」

戸を開けてはいると

『玉子焼き、おかわりぃ!!!』

檸檬「早っっっ!」

心優しい戦士は仲間たちのもとに戻り、優しさは強さだと知った。

成長した戦士が挑む初めの相手は‥

これからしばらく続く『おかわり』の嵐のようだ。



「彩心闘記セクトウジャ」レベル7
『戦う心、戦う理由』完
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