彩心闘記セクトウジャ・3

□レベル11・2
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都内

空を舞う戦竜。

メフィストは仮の贄として、クリムゾンの身体を乗っ取っている。

クリムゾン「離れない‥」

何度もメフィストを身体から追い出そうと試みてはいるが

悪魔は強く残り続けていた。

クリムゾン「マスター‥」


廃屋の教会

緋色は蝕を看病していた。

クリムゾンをメフィストに連れ去られながらも

何とか逃げ延びた緋色と蝕。

が、蝕は衰弱が激しく

命の危機を嫌というほど感じさせていた。

緋色「水、飲むか」

蝕は首を横に少し降る。

緋色「なんとかなんねぇのか‥」

目の前で今にも果てそうな蝕に、緋色は苛立っていた。

姉を戦いから遠ざけることもできない

クリムゾンは連れ去られ、蝕を救うこともできないでいる。

緋色「くっ!」

思わず壁を叩く。

崩れ落ちる壁‥

緋色「なんでだ‥なんで俺はなんにも守れないんだ」

ずれた心を気付けないまま、

緋色は『守る』ことから逃げられ続ける自分に苛立ちを感じていた。

蝕「だから‥ボウヤなのよ‥」

緋色の心の中の苦しみを、蝕は感じ取っていた。


風救隊本部

桐花「なんですって!?」

電話の受話器を握りしめて、桐花は思わず叫んでいた。

風丘 厳が国守軍に身柄を拘束されたとの報せが入ったのだから無理はない。

理由は『反逆罪の嫌疑』

風救隊の装備の能力が、民間のそれを逸脱しているのではないか?

能力を持ってすれば、クーデターを容易に行えるのではないか?

風救隊の存在が国を脅かすものだとの嫌疑で、厳は身柄を拘束されて
国守軍へと連れて行かれた。

桐花「どうせ柳の差し金でしょうね。

デートのお誘いなら、もっとスマートにすればいいのに‥馬鹿ね」

桐花がいる部屋へ、桔梗と牡丹が入ってくる。

桔梗「桐花さん、すまない‥私たちが付いていながら」

牡丹「ったく、あのとき桔梗が止めていなけりゃ」

桔梗「国守軍兵士を殺せばよかったと思うのか?

私たちは風救隊だ。

風のように吹き、命を守る隊‥その私たちが命を奪う理由など
なにがあっても見つけてはならない。

それに、それこそ反逆罪を背負わされてしまうだろう」

牡丹「そんなこと言ったって、厳が連れて行かれりゃ

事は変わりゃあしないよ!」

桐花「牡丹、やめなさい。

桔梗の判断は正しいわ‥仕方がなかったことよ」

牡丹「だって!」

桐花「牡丹の気持ちはわかる。

だけど、力押しだけじゃどうにもならないことがあるのよ」

牡丹「もう! まどろっこしいねぇ」

桔梗「桐花さん、牡丹の気持ちもわからないではない‥

というよりも、私もおなじ気持ちだといえる」

桐花「ええ、よくわかってる。

ヤツらが何か仕掛けてくるとは思っていたけど

こうも早く動いてくるとは思わなかったわ‥大きなミスよ」

桐花はどうやって厳を奪還するか‥手立てを考えはじめていた。

桔梗「牡丹、とにかく桐花さんに任せよう」

牡丹「だね‥それからが、あたしたちの出番ってことね」

2人は部屋を出て、隊員たちのところへと向かう。

桐花「国守軍に連行されたけれどきっと、厳さんはSSDベースにいる。

アイツは私が来るのを待ってる‥柳は私を」

このところの社会の変化は桐花も承知している。

SSDが焦っていることもじゅうぶんに。

桐花「焦ったほうが負けるのよ‥恋も戦いもね」

小さなトランクケースを取り出し、桐花は愛用していた拳銃‥

S&W MK22 Mod0を抜いて構えた。

特殊部隊向け暗殺用拳銃で別名は『ハッシュパピー』として知られる。

桐花「甘くて熱い口づけをあなたに送るわ‥私の最後のプレゼントよ、忠正」

視線鋭く、銃を構える桐花。


風救隊本部・医務室

まだ紅は眠っている。


心配気に見つめている蒼唯、檸檬、雪永、墨彦、桜花、翠季、菫。

檸檬「よく眠ってるね」

墨彦「なぁ‥こんな時になんだけど

もしかして紅ちゃん、このまま目を覚まさなかったり‥なんてことないよな」

蒼唯はスッと立って墨彦のそばへ行き、黙ったままゲンコツで
頭をポカスカと殴る。

墨彦「アイテテテテ、アイテテテテ、ゴ、ゴメン!」

雪永「墨彦、静かにして」

翠季「そうですよ、墨彦さん」

蒼唯は黙認して、墨彦を叱る2人。

菫「武闘家くんって、彩心の中じゃけっこう微妙な立場なんだねー」

桜花「みんなの人気もんやけんね」

墨彦「人気があるのかないのか‥」

仲間たちのいつもの声を紅は

深い眠りの中で耳にしている‥


『おーい』

んん‥あと5分だけ

『おーいってばぁ』

ごめん‥あともうチョットだけ

『ご飯だよー』

Zzz‥Zzz‥Zzz‥

『今日の朝ご飯は、ステーキだよー』

重っ!

お母さん、朝からステーキって‥

『おはよう、紅ちゃん』

あれ? ここは‥


それは白いフワフワした空間。


『どうお、ゆっくり寝れた? キミ、最近すっごく疲れてたからねぇ』

私‥死んじゃったの?

『なんでやねーん』


いきなりツッコミで、軽くチョップを受ける紅。

その相手は楽代だった。


『心も身体も疲れてたから、少しゆっくりしなきゃと思ってね』

あ! そーだった、私‥

『思いだした? 紅ちゃんはメフィストと戦って‥』

負けちゃったんだ‥

『まぁね、アイツ強いし』

あの‥あなたは‥誰?

『私? そーだなぁ‥ま、今のところは通りすがりの風ってことにしといて』

通りの須賀さんチの香さん?

『ずいぶん豪快な聞き間違え するんだね‥違うよ、風‥私は風』

たいへん、熱は? お医者さん行かなくちゃ!!

『もーいいから!』


ふたたびツッコミのチョップを受けて紅が頭を抱え込んでいると


『紅ちゃんの仲間たちが心配してるから、もう帰ったほうがいいよ』

蒼唯ちゃんたちが?

『そう‥いい、紅ちゃん。

弟くんを助けるために、君はいっぱーい悩んで苦しんで

そしてこの前の戦いで、勇者として覚悟がいることを学んだ‥だよね』

はい‥

『戦いは、必ずしもハッピーエンドで終わるワケじゃない。

いいえ、戦えば願っていない結果が起きてしまう』

だからってこのまま緋色をほっておいたって‥

いずれ、とんでも。ないことになっちゃう。

多くの人たちを傷つけることになっちゃうよ‥今の緋色の心なら。

『そうだね‥そうなっちゃうね。

もし、ほんとにそうなってしまうなら紅ちゃんは‥覚悟をしてる?』

覚悟‥

『弟くんのことだけじゃない

これからの戦い、もっともっと厳しい選択を迫られるかも知れない。

辛いこと、苦しいこと、抱えきれないほどあっても‥それでも前に進む? 進める?』

私は‥

『赤色の女王 クイーン・ベルメリオ、インキュバス、サッキュバス、

そしてメフィスト‥それからまだまだ、いっぱいいるんだよ‥紅ちゃんたちを倒し

世界を壊そうとしている者たちは。

もしも、紅ちゃんたちに襲い掛かってくるヤツらの中に

どうしようもなく戦うしかなかった子たちがいたら、どうする?

これはきっと、弟くんとの戦いに必要な心だと思うんだ。

ね、紅ちゃん‥君ならどうする?』

あのね、風さん‥私の答えは出てるんだ。

その答えはもう出てる‥

『だね、君は強い子だもんね。

勇者だけが使える雷の魔法も使えるようになったし、君はもう立派な勇者だよ』

ありがとう

『最後にひとつだけ‥紅ちゃん‥勇者‥キミのその覚悟に愛はある?』

‥‥‥もちろん!


檸檬「あっ‥」

紅の瞼が、かすかに動く。

仲間たちはいっせいに紅の周りを囲み

『紅っ』『紅ちゃん』次々に名前を呼んだ。

紅「うぅぅ‥んんんん‥」

蒼唯「紅っ」

雪永「紅ちゃん!」

紅「あ‥朝からステーキ‥」

蒼唯「ん?」

菫「ずいぶん胃に重たげな朝食ね」

雪永「サーロインでもヒレでも、いっそТボーンでも食べさせてあげるから!」

紅「違う、重たいからヤだっっっ」

ガバっと飛び起きた紅。

雪永「紅ちゃん!」

思わず紅に抱き付いた。

蒼唯「紅!」

翠季「紅さーーーん」

桜花「紅ちゃんっ」

墨彦「紅ちゃん」

檸檬「紅ちゃあぁぁん」

菫「べーにちゃん!」

雪永の上からみんなも抱き着いて、ベッドは嬉しそうに軋んでいる。

蒼唯「というか雪永っ」

病衣の下は、下着もなにも着けていない紅。

メフィストにすべての衣服を散らされて、裸のままだったのだが‥

薄い病衣、ダイレクトに紅の身体を雪永は感じて

雪永「うわっ、うわぁぁぁぁぁ! ごめんなさーーーい!」

桜花「ちょ、医務室でそげん大きな声えば出したらイカンてっ」

蒼唯「なにをやってる、早く離れろっ」

まるで姉のようにカンカンな蒼唯。

横で冷静に、さきほど買ってきていた下着を用意する菫。

檸檬「とりあえず男子は外に出て。

紅ちゃん、着替えだから」

蒼唯「まったく、姿が女子だと思って油断していたら

かなりのどスケベかもしれないぞ、雪永は」

翠季「あははは、まさかここにきて雪永さんの評価がそんなに下がるなんてですね」

桜花「そうばい、一寸先は闇やね」

菫「なんかコワーイ」

などと話しながら、とりあえず下着をつける紅だった。

心電図や脳波などの危機は取り外され、点滴はまだ打ってる最中。

外に出ていた雪永と墨彦も部屋に戻って

(若干、蒼唯の視線は厳しめで)

みな紅を囲んで話を始める。

蒼唯「それにしてもよかった‥一時はどうなるかと思ったぞ」

檸檬「にしてもホント不思議‥傷ひとつないなんて」

檸檬の言うように、紅の身体には傷一つない。

紅「助けてくれたんだ‥」

雪永「助けてくれた? 誰がなの」

紅「うん‥白い衣を着た、綺麗な女の子‥そう、信代先輩に似てた」

蒼唯「信代先輩に?」

檸檬「そうなんだ‥誰なんだろ?」

雪永「それも気にはなるけど紅ちゃん。

なんで緋色くんを助けに行くなら、行くって僕たちに言ってくれないの?」

墨彦「そうそう。

俺たちにひと言も無く、なんで緋色を取り戻しに行ったんだよ」

桜花「水臭かぁ、紅ちゃん。

ウチたちにも、出来ることはきっとあるんよ‥仲間やなかね」

翠季「1人より2人、2人より3人‥」

菫「私たちって、私もいれて8人! 何だってできるよ、みんなでなら」

紅「うん‥そうだよね‥ゴメン、私‥焦っちゃって。

それに、怖かったんだ‥緋色がもしもみんなを傷つけたらって考えると。

その逆も考えたよ‥みんなに緋色が倒されちゃったらどうしようって‥

私のそんな気持ちが、緋色をあんなふうにさせちゃったのかもしれないとか考えた」
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