旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第1話・1
2ページ/5ページ

都内 ビルの屋上 怪しい人影が空間を引き裂いて現れる。

東洋の物とも、西洋の物とも思えない真の闇のような色をした鎧に身を包んだ男性らしき人影は、周囲を見回すと手にしていた剣を屋上のコンクリートに突き刺した。

眩い光と激しい火花が辺りを照らす。

謎の男「んんっ!」

気合を入れる。

周辺の、乱雑に置かれているゴミが揺らぎ始める。

謎の男「目覚めろ…そして立ち上がれ…」

不意に稲妻が走る。

それに呼応するかのように、

男の周囲がざわつき始めた。

辺りの空は、暗く、重くのしかかっている様だった。

謎の男「人間どもめ…」

怨み…そんな感情が混じった言葉を、謎の男は吐き捨てた。


都内 愛理は昼食を摂るための店を探していた。

が、昼時ともなれば何処も満員で、空腹の中探しあぐねていた。

愛理「んー…仕方ないか」

ちょうど店から何人か食事を済ませて出て行く姿を見かけた

愛理は、その店に入る事にした。少し薄汚れた感じの店‥『福福』と看板に書いてある。

愛理は今や、その世界では名高い投資家で、人も羨むセレブと呼ばれる身だ。

『世の中、金よ』が、彼女の口癖。

大学在学中から投資活動を行い、今の地位を築き上げた。

人が羨む一方で、随分と非道な事もしてきたし、彼女のせいで泣いた企業や人が
何人、何十人いるかわからない。

彼女を恨む人間は多い。

だが、彼女の過去を知る者はいない。

彼女の父親は、彼女がまだ小学生の頃に事業に失敗し、自ら命を絶った。

以来、母親は彼女を女手ひとつで育てた。

それも、平坦な道のりではなかったが‥。

亡くなった父親は多額の負債を残しており、その返済に追われる日々だった。

そうなると、今まで友人だと言っていた人間達も、人が変わった様に冷たくあしらうようになり、中には母子を責める者さえいた。

『良い時に近づく仏顔、苦しい時には閻魔顔…人ってそんなもの…』

愛理の当時の日記にはそう記されていた。

勉強が好きだった彼女は成長し、母親の手助けをしようと家事全般をこなしつつ、中学の頃には歳を誤魔化してはアルバイトに精を出し、高校・大学と、かかる費用をすべて自分で捻出してきた。

『キャバクラ、死体洗い、ドッグフードの試食…色々やってきたけど、ウリはやってない…体は汚してないからね』

それが母親に対しての自慢だった。

大学に入った頃には稼いだ金を元手に投資活動を始める。

そうして儲けた金で父の借金を完済。

しかし、そんな暮らしをおくるうちに、彼女の身には随分と余計な、目に見えぬ鎧が幾重にもまとわりついていた。

お金に執着するあまり、母親とも衝突するようになり、今では疎遠になってしまった。

『かあさんを助けたかっただけなのに…』

そこから始まった彼女のがんばりは、目的を失っても今はもう止まれない。

『仲直りがしたい』

愛理のせつない思いは、心の中でくすぶったまま、強がりと言う名の布で覆われている。

だから、こういう薄汚れた、いわゆる庶民的な店には随分と足が遠のいていた。

『昔を思い出す…』

母は、彼女の誕生日にだけ、お祝いだからと近所の食堂に夕飯を食べに連れて行ってくれた。

『その店もこんな感じに煙草のヤニや調理の油で汚れていたっけ…』

そんな過去のせいでもあるし、どうせ食べに入るなら人がなかなか入れないような
高級店に入ってやる‥勝気な性格がそうさせてしまった所もある。

でも、何故だか今日はこの店に入りたくなった。

無論、空腹のせいかもしれないし、ちょうど席が空いた様子だったからかもしれない。

でも…彼女の凝り固まった心の中に、ほんの少しだけ当時を懐かしむ‥彼女の本質が、
心安らげる場所を求めていたのかもしれない。

福福の暖簾をくぐる。

『いらっしゃい!』

と、店の主人らしき青年が明るく声をかける。

『店主にしちゃ若いな‥私とそう変わらないはず』

と、思いながら店内を見渡す。

案の定、客の煙草のヤニや煙に油、こぼした調味料などで薄汚れている。

でも、何処がほっとする…。

一番奥の席に腰掛ける。

母と行く食堂ではいつも一番奥の席だった…借金取りや知り合い達に見つかれば直ぐに『飯食う金があるなら一円でも返せ』と言われるから…。

同い年くらいの店主にサバ味噌定食を注文する。

母と暮らしていた頃の得意料理だった。これを作ると、母親が随分喜んでくれた…

『フっ‥』さっきから妙に懐かしむ自分に気付き、愛理は苦笑いを浮かべた。


福福 仁は今、サバ味噌を作っている。先ほど、店に入ってきた女性が注文した物だ。

すると、「ただいまぁ」っと、仁の妹の心が外出から帰ってきた。

厨房から仁の「おかえり」の声が聞こえる。

今日は通っている小学校の行事による代替え休日らしい。

まじめな心は、今まで図書館で勉強をしていた。

肩まである髪に、兄が買ってくれたお気に入りのパンダの絵のヘアピン、淡い色使いのジャンバースカートにピンクの手提げ鞄を持っている。

その鞄をレジ台の脇に置くと、すぐに仁の手伝いを始める。

コップに冷水を注ぐと、店の奥に座っている女性客に持っていく。

心「どうぞ」

そう言いながらコップをテーブルに置く。

愛理「あっ、ありがとう」

と心の姿を見て、

愛理「偉いわね、お手伝い?」

心「はい。お兄ちゃんの料理、美味しいですよ」

愛理「そう。中の人、お兄さんなんだ」

心「はい、私のおにいちゃんです」

そんな話をしていると愛理の携帯が鳴る。

心は軽くお辞儀をすると、カウンターへと向かう。

愛理は咳かすに鳴り響く携帯を手に取りディスプレイを見ると、「丸山」と表示されていた。

先ほど、愛理にイラつかれていたあの男だ。

愛理「もしもし!?なにっ!」

さっそく怒鳴る。

電話の向こうから

丸山「あ!水里さん、先ほどの場所のすぐ脇の駐車場に車を止めてございますので。
お食事が済まれましたらご連絡ください。それと…」

言いにくそうである。

愛理「なにっ、さっさと言って」

丸山「は、はい!戸田商事様から改めて融資のご相談が‥」

愛理「戸田ぁ?」

丸山「はい‥杉並の…」

愛理「杉並…戸田…あぁ、つぶれかけの会社の。じいさんが経営してるね」

丸山「はい、そうです。昨日、断られはいたしましたですが、改めて、話だけでも聞いてもらいたいとの事ですが」

愛理「あぁ、ダメダメ!あんな古臭い経営方針の会社に投資なんか出来る訳ないでしょ!
みすみす金をドブに捨てるようなもんじゃない!ああいう会社は消えていくしかないの、
生き残る力がないものは、とっとと逝っちゃった方がマシなのよ」

丸山「しかし…」

愛理「あんたは運転手!別に仕事に口出ししてくれって契約したっけ!?私の言う通りに伝えてればいいのっ。じゃあね!」

と、あたふたする丸山の声がまだ聞こえている携帯を切る。

融資を受けられず自殺した父と、友達だ、無二の親友と思ってると口では言いながら
助ける手など差し伸べなかった人間の顔や姿を思い出し、金の非情さ、父の甘さと弱さに怒りがこみ上げる…

その反面、冷たくなった哀れな父の姿と

『今のあんたがしてるのは、お父ちゃんを追い詰めた人たちがしてるのとおんなじだよ!』

と涙ながらに愛理を叱る母の顔が思い出されて、チクっと胸が痛む…。

非情と情愛と…その間で愛理は彷徨い続けている。

そうこうしていると、郷愁をさそうサバ味噌の香りが漂い、心が「どうぞ」とサバ味噌定食を運んできた。

愛理は箸入れに入っている業務用の丸みを帯びた塗箸を手に取り、サバを一口運ぶ。

愛理「美味し」

思わず呟く。

サバの身のしまり具合といい、味噌との相性といい、骨まで柔らかく食べられて、これほど完璧に仕上がっているサバ味噌なんて自分が作るサバ味噌以外では初めてだ。

喜ぶ顔見たさに必死で覚えたあのレシピ…あれ以上に美味しいのを初めて食べた。

なにより、優しい雰囲気に包まれた味だった。

心「そうでしょ」

美味しいと聞いた心は嬉しそうに笑った。

そして、今あいた隣のテーブルを片付けに向かう。店もようやく一段落した頃‥。

仁「心、お腹すいたろ」

心が大好きなオムライスをカウンターに置く。

心「あ!オムライス!」

まだ少し心には高いカウンター席に腰掛けると、美味しそうにオムライスを頬張った。

その後ろを食べ終えた愛理が通る。

レジの前に立ち、伝票を置く。

仁はレジへと向かい、料金を受け取る。

愛理は携帯をかけながら、「じゃあね」と心に微笑んだ。

心は手を振る。愛理が立ち去った後、仁はその席を片付けに行った。

片付けながら、

仁「心、今の人知ってるのか?」

テーブルの上の食器は残さず食べたあと、綺麗に重ねられていた。

それを見て仁の顔が少しほころんだ。

心「ううん、知らない人。でも綺麗な人だったね」

なんて言いながら、またオムライスパクリ。

仁「ふうん、そーなんだ」

と返事をしながら愛理の座っていた席のテーブルを布巾で拭いた。

仁「ん?」

ふと見ると、何かが落ちている。

拾ってみるとそれは口紅だった。

仁「さっきのあの人…」

愛理が落とした物だった。

高価な感じがする口紅。

時計を見ると、ちょうど客足も途絶える時間帯だ。

仁「まだ遠くに行ってないよな」

そう言うと

仁「心、ちょっと店番頼むな!」

と前掛けを外し、愛理の後を追った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ