旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第1話・2
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城の一室 男が…そう、現代でビルの屋上で剣を突き刺し、傀儡を呼び出した男…

名は勇護(いさご)…。

剣を抜き、その身に映る己の顔を、じっと見詰めていた。

彼の苦悩は深い。

己はどうすればいいのか?何をすべきなのか?彼はもがいていた…。


勇護「ぐぅぅぅ」

唇を強く噛み締める。

滲み、滴り落ちる血。

考えていた。

何故こうなったのか‥悪いのは誰だ‥と。

弓引いた憎魔か?それとも‥精霊を見捨て、忘れ果て、堕落の一途を辿る人間か?

そんな人間を待つ事しかせず、耐えるばかりの精霊なのか?

人間の、精霊達への仕打ちを目の当たりにして、鬱積した気持ちが彼を屈折させていた。

この数日、夢に現れるは憎魔。

憎魔は誘う‥人間どもに復讐せよと。

そして、今までひたすらに耐え忍び、罪深き人間をただ待つ事しか出来なかった王家を
滅ぼせと…。

彼は今、狂わんばかりにもがき、苦しんでいた。

冷たく光る刃に映る自分…その後ろに現れた影‥憎魔‥。

暗黒の衣に青白い肌、血のような真っ赤な唇に黄色く薄汚れ、鋭く尖った牙‥

醜悪な姿のその男は、しゃがれた声で言う。

憎魔「まだ苦しむか‥何を迷う。口惜しくは無いのか…人間どもには陵辱され、
我が一族には抑え付けられ…。このまま何もせず、何も出来ず、ただ死して逝くか…
それでよいのか?何のために生きてきた?生きておればこそ、旨い物を喰らい、贅沢が出来、
女も抱ける…人間はそれを貪って、なぜ我らは出来ぬ?なぜ我慢せねばならぬのだ!?
欲望が生きている証ならば、我らもその欲望の快楽に浸ろうぞ‥喰らいたいものを喰らい、
飲みたきものを飲み、抱きたいものは力ずくでも抱き、殺したければ殺せばいい。
すべては思いのままに…お前は何をしてきた‥何を残した?抗え‥そして剣を取り戦え。
自分を貶めた者‥我らを辱めた者ども‥そのもの達の肉を切り裂き、血を飛ばし、臓物を撒き散らせ!そして君臨するのだ‥新たな王として」

それは悪魔の囁き。

勇護を捕らえて放さない。

勇護「うわぁぁぁ!や、やめろぉ‥言うな!」

狂ったように剣を振り回す。

勇護「俺は誰も怨んじゃいない、誰も殺したくはないっ!消えろっ消えてくれぇぇぇ!」

涙を流しながら、血を吐くように叫んだ。

憎魔は薄ら笑みを浮かべて言った。

憎魔「満優はどうなる?」

ハッとなり、立ち尽くす勇護。

憎魔は生臭い息を吐きながら続ける。

憎魔「父も死に、お前も死ねば、一体誰があの娘を守る?精霊の世は滅びるのだ。
残されたあの小娘はどうなると思う?苦しみ、泣き叫び、挙句の果てに人間どもに犯され
朽ち果てていくのだ。絶望の迷宮だ‥出口などないぞ…ヒヒヒっフハハハハハ!」

憎魔の厭らしい笑い声が勇護の頭の中でこだまする。

激しい頭の痛みが勇護を襲う。

汗が吹き出、涎がたれる…涙も止まらない。

倒れこむ…割れるように激しく痛む頭を抱え、絶叫…勇護の気が遠くなった………。

森の中

伝助「満優様、望の丘へお急ぎをっ。勇護様がお待ちでございます!」

伝助が満優の少し先を走る。

使命感により、ようやく父との別れを受け入れた満優が白夜を携えてその後を駆けて行く。

森の木々は、その小枝で満優を傷付けぬよう、己が体をゆり動かし、2人を避けていた。

望みの丘へ‥精霊達が祈りし聖地と伝えられる丘‥愛しい勇護が待つ望の丘へ…。

満優「勇護様」

まだ涙は流れる。

だが満優は立ち止まらない。

精霊のため‥人のため‥そして、父の想いに答えるため。

満優の心は鋼の如く…。

突如、丘へと急ぐ満優と伝助を破壊光線が襲った。

伝助「満優様っ!」

激しい爆発。

身を挺して満優を守る。

木々が燃え朽ちていき、悲鳴をあげている。

伝助「しゃあああああ!」

戦闘態勢をとる。

禍々しい蹄の音‥氷の刃の如きいななき。

妖かしの馬・業螺巣(ゴウラス)を駆る妖霊族の騎士、悲嘆の皇・業(カルマ)が現れた。

青地に黒という配色の甲冑を身につけ、その表情は仮面によりうかがい知れない。

長身の身尺と同等の『残哀(ざんか)』と言う名の長き剣を背負っている。

馬上のカルマが叫ぶ。

カルマ「精霊族の姫‥満優…そのお命‥貰い受ける!」

ゴウラスを駆り、背なの長剣・残哀を抜き放つと、2人目指して突進する。

満優「お前は‥精霊族の騎馬隊長‥くっ」

白夜を構える。

伝助「満優様、ここは僕にお任せを!」

満優の前に立ち、身構える伝助。

その時、カルマに向かって手裏剣が投げられた。

カルマ「誰だ!」

手裏剣を払い落とし、辺りを見廻す。

謎の影「うりゃあああ!」

空高く跳んだ影‥ひとつ‥ふたつ。

伝助「あっ!」にっこりと笑う。

謎の影達「若っ!」「伝っ」

伝助にとって、これ以上無いほどの力強く、頼もしい援軍だった。

伝助を若と呼んだ影…総右衛門(そうえもん)、50cm大の犬のぬいぐるみ。爺臭いがなかなかの切れ者。

伝助を伝と呼んだ影…源左衛門(げんざえもん)、50cm大の兎のぬいぐるみ。クールで腕利きの戦士。

2人は伝助の相棒…とゆうより、固い絆で結ばれた義兄弟だ。

総右衛門「若っ、遅れて申し訳ございません」

源左衛門「遅れてすまん」

満優を守る伝助の下へ駆けつけた。

伝助「総右衛門、源左衛門!待っとったでぇ」

2人がくれば百人力だ。

3人はそろって身構えつつ、カルマを睨みつけた。

伝助「うっし!僕が突っ込むさかいボケは‥ちゃう!援護は任せたでっ!」

カルマに飛び掛ろうとする伝助を源左衛門が黙って制止した。

伝助「ん?なんや、源左衛門。はよせな仲間がきよるかもしれへんやろ」

総右衛門「若‥源左衛門殿はこの場を任せろと…」

無言でカルマと対峙する源左衛門。

伝助「な、なんやてっ?!あかん、あかんあかん!源左衛門、何ゆーとるんやっ!
あいつはめっちゃ強い。みんなで力合わせな、勝てるかいっ」

戸惑う伝助

満優「それは無茶と言うものです。あの者は、元は精霊族王家の親衛騎馬隊を統べる者
いくらお前が強いと言っても‥」

源左衛門「我らの役目は満優様を勇護様のもとへとお連れする事…ならばその役目‥
この命、賭してでも果たすまで…伝‥満優様を頼むぞ」

源左衛門の覚悟を察し、伝助は激しく動揺した。

伝助「あかんてっ!なんでお前がこないな真似せなあかんねん!やるんやったら僕がやるっ
それに‥僕らいっつも一緒やないか!ご飯食べんのも、洗濯されるんも、寝るんのも…
なにするんでも一緒やないかいっ!満優様守るんも一緒やっ!お前だけ置いて‥死なせる
ようなマネでけるかいっ!」

泣いた…子供のように泣いていた。

総右衛門「若…行きますぞ…これ以上の長居は危険です。さ、早く」

伝助の手を取り、丘を目指して進もうとする。

その手を振りほどく伝助。

伝助「いややっ!!お前平気なんか?!あいつ残して平気なんかっ!」

総右衛門「ここで死んでもいいのですかっ。若の役目はなんでございますっ!」

泣きじゃくる伝助を一喝。

総右衛門「生まれる時は別々でも、死ぬときは一緒とまで誓った我ら…なれど、その誓いよりも果たさねばならぬ大義がありまする…」

ハっとして、ゆっくり満優の方を見る伝助。弓を構えて、カルマを牽制している。

伝助の可愛い拳が、ドンっと渇いた大地を1度だけ殴った。

伝助「源左衛門っ!」

伝助の脳裏に様々な思い出が浮かぶ。

憧れのフランス人形に振られて落ち込む伝助を慰める源左衛門。

野良犬の集団と喧嘩した時には、真っ先に助けに来てくれた源左衛門。

総右衛門が踊るどじょうすくいにはしゃぐ伝助を嬉しそうに見る源左衛門。

数々の思い出が浮かんでは消えていく…

カルマに対峙する源左衛門の背中に向かって叫ぶ。

伝助「源左衛門っ…うっ‥うぐ‥ふぇ‥‥ほな、あとは任せたでぇ」

その声を‥涙をこらえた伝助の声を聞き、源左衛門は黙って左手を天に突き上げた。

振り返りはせずに…

満優「伝助、総右衛門。いけません、源左衛門、やめるのです」

伝助「満優様、行きまひょ」

総右衛門「ささ、満優様」

カルマ「どうやら話し合いはすんだようだな‥フン‥人形風情が足止めのつもりか‥
わたしも随分舐められたものだな」

カルマの言葉を尻目に、源左衛門をひとり残していく事を嫌がる満優は

伝助と総右衛門に手を引かれて森の中へと消えていく。

馬上のカルマは残哀を振り抜いた。

鋭い剣気が源左衛門の頬をかすめ、後ろの岩を砕く。だが、源左衛門は身じろぎもしない。

ただ黙ってカルマを見据えていた。

カルマ「なるほど‥さすがは満優姫のそばづき役。少しは出来るようだな…
名はなんと言った?」

源左衛門「…我が名は‥源左衛門っ!参るっ!!」

鋭く、速く‥手にした人参型の短刀でカルマへと切り込んでいく。

カルマ「行け、ゴウラス」

激突する両者。

丘へ向かう道 満優の手を引き、伝助と総右衛門は懸命に走っていた。

満優「伝助、私はよいのです。早く源左衛門を助けにゆきなさい‥総右衛門、お前も」

2人は黙ったまま…。


満優「お前達を犠牲にしてまで逃げたくはありません。私も霊皇ですっ、戦う術は心得ています。肉親以上に絆を結んだお前達を死なせてまで逃げ延びて、なんの意味があると言うのです。大切な者を救えずして何が霊皇か、何が姫だというのですっ」

しかし、2人は無言のまま。

直後、源左衛門とカルマが戦う場所で激しい炎が立ち上がり、凄まじい爆音が轟いた。

満優「源左衛門‥源左衛門っ」

ゴウラスにまたがり、満優たちの行方を捜すカルマの姿が木々の隙間から見える。

立ち上がった炎は森の木々たちを焼いていく。

満優「総右衛門‥伝助…」

悲痛な面持ち。

伝助たちの絆の深さ、信頼しあう心は誰よりも満優が一番知っている。

だからこそ余計に辛い。

総右衛門「立派な御最後!」

涙を隠す。

伝助「源左衛門…おおきに…」

消え入りそうな声で呟いた。

ひたすら駆ける。

歩を合わせる様に源左衛門との思い出が心の中を駆け巡っていく。

そんな悲しみなど関係なしに、妖霊族の追撃は容赦なかった。

満優・伝助・総右衛門を猛烈なスピードで追いかける影。

黒と赤の色使いの忍び装束‥妖しげな美しさを携えた容姿の女。

妖霊族の忍、憤怒の皇・因果(インガ)。あっという間に3人を追い越す。

インガ「足が遅いんだよ!」

そう言うと、鎖鉄球の付いた短剣『怒淋(どりん)』を構える。

両刃の短剣の柄尻から伸びた鎖に、小さめの鉄球が付いた物だ。

今にも襲いかからんばかり。

総右衛門「満優様‥若…おさらばでございますっ!」

覚悟を決めた‥勇壮な表情。

伝助「総右衛門…華ぁ‥咲かしやぁ」

涙は止まらない…でも、精一杯の笑顔を見せた。

伝助が欲しがる柿の実を採るため、一所懸命木登りする総右衛門。

伝助のいたずらで、墨汁を頭からかぶり、真っ黒になって怒る総右衛門。

源左衛門と日頃の疲れを労い酌み交わす杯。


満優「お前まで‥いけませんっ、もう誰も…」

言葉にならない…

総右衛門「参るっ!」

インガ「来なっ、犬っころ!」

スピードを上げ、インガに突っ込んで行く…とたんに雷鳴のような轟きとともに

燃え盛る炎。

伝助「総右衛門…よぉやった」

駆け抜ける伝助と満優。2人が去った後、炎の中からインガが歩いて来る。

インガ「チっ‥見失ったか」

後ろ腰にある鞘に怒淋を収めると、何処かヘ飛び去る。

2人は走る‥ひたすら走る…望の丘へ…。

辛く哀しい現実が待ち受けているとも知らずに……。
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