旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第2話・1
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福福 店内に心がやって来る。

仁の他には、愛理以外、客の姿は無い。

心「お兄ちゃん、伝助ちゃんは?」

仁「ん?そー言えば、真っ黒になってきて、屋上に上がってったから‥自分を
洗濯してんじゃね~か?」

心「ふ~ん‥お風呂に入ればいいのに」

そう言うと心は屋上へと向かった。


福福・屋上 良い天気♪。
降り注ぐ日差しですっかり乾いた伝助は、のんびりくつろいでいた。

ござを敷き、ごろごろと随分まったりした様子。

目に入ったのは洗濯して干してあるタオル。

伝助は思い出す…総右衛門‥源左衛門‥今は亡き友と、よくタオルや布切れを使っては
覆面にしたり、四隅を持って凧のようにして浮かんでみたり‥忍者ごっこを楽しんでいた。

その頃の光景が脳裏に浮かぶ…伝助は立ち上がり、

干してあったタオルを1枚取るとクルクルっと器用に巻きつけて覆面にし、

もう1枚タオルを取って、両手両足にそれぞれタオルの四隅をくくり付け、

物干し台のてっぺんにヒョイっと飛び乗ると

伝助「とぅ!」

と、ジャンプ。まるでスカイダイビングのようにゆっくり落下すると言った遊びを始めた。

心「伝助ちゃん」

食事を一緒に摂ろうと誘うため、屋上へ伝助を捜して心がやってきた。

すると、遊んでいる伝助の姿が目に入った。

心「うわぁ♪伝助ちゃん、それなーに」

伝助「ん?心ちゃんやん♪これな、忍法・ふわっとタオルの術っちゅーんや」

満面の笑顔で心を迎える。

伝助「あんな、いっちゃん大切な友達とよぉこれで遊んでてな‥」

言い終わらないうちに突然、突風が吹いた。

伝助「うぎゃああああああああああ!」

突風に煽られ、パラシュート状に結び付けていたタオルが災いしてか、
伝助は見事に吹き飛ばされていった。

心「伝助ちゃん!!」

助けようとしたのだが、一歩及ばずに、慌てて心は下へと降りて伝助を追いかける。


福福・店内 心が血相を変えて屋上から降りてくる。

心「お兄ちゃん!で、伝助ちゃんがっ!」

仁「どーした、心?」

愛理「心ちゃん、どうしたの?あの熊猫にセクハラでもされた?」

仁「なにぃ!心っ、ほんとーかっ、あんの熊猫野郎めぇぇぇ人の大切な妹をぉぉぉ!!」

心「違うって!もう、違うのっ。伝助ちゃんが飛んでっちゃったの」

そう言うと福福を飛び出、伝助が飛ばされた方向へ駆けて行った。

愛理「飛んでっちゃった…?」

仁「‥空飛ぶパンダ?」

訳がわからず、愛理と仁が不思議そうな顔をしていると、がっくりと肩を落とした孝太が
福福を訪れた。

孝太「やぁ‥仁君、愛理さん。はぁぁぁぁぁぁ」

深い溜息をつき、カウンター席へと座る。

愛理「な、なに?鬱?ねぇ、鬱?」

悪気は‥無い‥たぶん‥。

孝太「鬱の人が鬱だって言わないし、鬱だったとしたら鬱って聞いちゃだめだと思います」

愛理「なんか早口言葉みたいね」

仁「どーしたんすかっ、くっらい顔して」

前回の戦いの後、福福でちょっとした団結式と言うか、親睦会‥食事会と言うかお互いの事を知るために集まって‥

ぶっちゃけ、パァーっとドンチャン騒ぎを催したのだが、そのときに年齢の話しになり、

満優を除くと上から順に孝太→仁→愛理→信代になると判明。

一応、年上なので孝太には気を使う仁。孝太にせよ、仁にせよ、お構いなしの愛理。

孝太「いや仁君、気を使わなくていいよ。普通に話してください‥はぁぁぁ」

仁「あ、そうお。はぁ~良かった、窮屈だっだんだよな。んにしても、どーしたどーした、溜息ばっかついちまってよぉ」

厨房を出、孝太の横に腰掛ける。愛理も側へとやってきた。

孝太「あの‥僕…はぁぁぁ‥」

愛理「たくっ、ふにふにふにふにしてんじゃないわよっ、ハッキリいいなさいっ」

孝太「は、はい。僕‥警察…辞めました」

とたんに、愛理はわくわくした顔で孝太の顔を見詰めた。


孝太の回想 妖霊族・魔フォウズが襲来した日、

孝太は戦いに専念するため警官を辞職すると言った。

しかし警官も立派な仕事。辞めちゃいけないと満優や仁に説得されて思いとどまった。

ただ、その時の信代の言いにくそうな表情が気にはなったのだが…。

とりあえず、何事もなかったように職務を続け、警官と霊皇としての戦い、両立をしなければと思い出した矢先のことだ。

五日前の事である。

その日、あるスーパーマーケットから万引き犯を捕まえたので来てくれと交番に通報が
あった。

急いでそのスーパーへ向かうと、事務所ではいわゆる万引きGメンと呼ばれる
中年女性と店長らしき30代の男性が鬼と見紛うばかりの形相で、

まるで人を見下すかのような態度で1人の老婆を責めていた。

この老婆が捕まった万引き犯らしい。

万引きGメンと店長がかもしだす圧迫感からか威圧感のせいなのか、老婆がとても小さく見える。

体の線がとても弱々しく、細い。

立ちふさがるように立っている万引きGメンが詰め寄る。

万引きGメン「だからね、たとえ見切り品のちくわでも、缶詰一個だって盗めば犯罪!
万引きは盗み!窃盗!!あんた犯罪者なんだよ!」

激しい叱責に老婆は只々頭を下げている。

店長「あのねぇ、おたくさっきから泣いて頭ばっかりぺこぺこ、ぺこぺこ下げてる
けどさぁ、盗んだことに変わりは無いんだからねっ。ホントに困るんだよねぇ‥泣きたいのはこっちだって。商売でやってんだからさぁ、一個盗られりゃそんだけ
損失出るんだよっ、取り返すのにまた何個売らなきゃいけないか‥
考えろよ!いい歳してさっ」

机を挟んだ老婆の対面側の椅子に座っており、老婆に怒鳴るとふんぞり返った。

老婆「すいません‥ほんとうにすいません…。お願いですから娘だけには」
このスーパーの近所で1人暮らしをしているこの老婆には娘が1人いた。

娘には子供も1人‥老婆には孫になる子がいる。娘や孫も老婆のアパートから少し遠い
アパートに暮らしているが、
最近の事、娘は夫の浮気が原因で離婚をしたばかりで、慰謝料や養育費などの問題が
山積みとなり疲れ果てていた。

加えて夫は何かと慰謝料減額を求めて裁判沙汰、それに生活のために弁当屋のパートと
清掃のパートを掛け持ちしており、そんな娘には心配はかけれない孫も最近めっきりと
笑顔が減ってしまった。

お世辞にも良い夫、父親とは言えない男だったので、別れや
会えない悲しさではないだろう…理由とすれば寂しさか…。

少しでも紛らわせてやりたいと、あちらこちらと痛む体をおして顔を出しに行く日々。

一瞬でも笑顔になってくれる孫がとても愛おしくおもう。

テレビのヒーロー物が大好きな孫のため、何かおもちゃでもと思いデパートのおもちゃ売り場に行ったものの、あまりに高額な商品に驚く。

年金生活の乏しい暮らしではとても手が出なかった。

そして、その帰り道に寄ったスーパーマーケット…。

店長「だからっ!知らせない訳にはいかないって言ってんだよっ!」

興奮しているのか、声を荒げ机を叩いた。

怯える老婆。
そこへ孝太が姿を見せる。

万引きGメン「あ、お巡りさん。こっちこっち」

どこか楽しげに、ニヤつきながら孝太を事務所へ呼び入れた。

孝太「えーと、通報を受けて来ましたけど‥こちらの人ですか?」

衰弱と泣きはらした老婆の顔を見て、孝太の顔がこわばる。

万引きGメン「ええっ、私がね、私が捕まえたんです!」

嬉々とした声と顔で、まるで獲物を捕まえて自慢するハンターのように言った。

店長「あー、今この婆さんの娘さんも呼んでますから。時期来るでしょう」

孝太は、椅子に座りうなだれた様子の老婆のそばにより、腰をかがめて目線を
合わせるような位置で、優しく問いかけた。

孝太「おばあちゃん、どうして万引きなんかしたの?何盗ったの?」

万引きGメン「あぁ、これです!手提げバックの中に中に入れたんです、私が一部始終見てました!」

板チョコ1枚とヒーローキャラクター130円の指人形。それを見せる。

孝太「あの‥本人から聞きますので‥」

チっと舌打ちする万引きGメン。

孝太「これ、おばあちゃんが欲しかった‥訳じゃないよね」

老婆の表情が曇る。

孝太「誰かにあげるつもりだったんだね?」

ただ、ひたすら優しく話しかけた。

そんな孝太に老婆はやっと口を開く。

老婆「孫に‥孫にあげたかったんです‥おもちゃもなくて、お菓子も食べれなくて…孫が不憫で‥私に買ってあげれる余裕があればいいんですけどそれさえままならずで…すいませんでした‥つい手が伸びてしまって‥申し訳ありませんでした、許してください…」

また老婆の瞳から涙が溢れる。

店長「孫だかなんだか知らないけどさぁ!だったら金払って買いなさいよっ。金も無いくせに孫に土産なんて虫のいい話しがあるかよ!」

万引きGメン「そうですよ!いい年をして、盗みは良くない事だってお判りにならないのっ
盗った物貰ったってお孫さんは喜ばないってどうしてわからないのかしら」

孝太は先ほどから店長と万引きGメンにイラついていた。

そんな所へ老婆の娘が慌てた様子で駆けつけて来た。

娘「お母さん!どうしたの?!どうしてこんな事したの!」

事務所へ入るなり、老婆を叱りつけた。

老婆「あぁ‥光子…ごめんね‥茂にあげたくてつい…」

光子「だからって万引きなんか‥」

老婆「うぅ…今苦しくて、茂が欲しがってたおもちゃも買えなくて‥ふと見かけた人形につい手が…ごめん‥あの子の喜ぶ顔が見たくて‥ごめん‥ごめんねえ…」

孝太「あの‥娘さんですか?」

光子「あっ、は、はい。私は娘の野川 光子、母の野川 昌子です。

母がご迷惑をお掛けして、すみませんでした」

40代半ばといったところの光子は深々と頭を下げた。

苦労のせいか、もう少し年齢がいった感じに見える。

店長「警察に言う前に私らに言う事があるんじゃないの!」

光子「あ、どうもすみませんでした。母がとんだ事を‥すみません」

必死に頭を下げる。

孝太「お孫さんにあげたくてと‥」

光子「はい…六歳になる子供がおりまして‥その子を喜ばそうと思ってこんな事をしたんだと思います…すみません」

店長「フン、喜ばそうなんて勝手な。人の物盗んでおいてよく言うねぇ」

万引きGメン「そうそう。今回は私がね!私が見つけたから良かったものの、

そうじゃなければお孫さんに盗んだ物をあげてたんでしょう。それじゃお孫さんの教育上よろしくないんじゃありません?盗みは悪い事ですから」

光子「それはなんと言っていいか…本当にすみませんでした」

親子が必死に頭を下げる。

店長「ま、うちとしては警察に来てもらったことだし、あとは任せるとして」

ニヤつく店長。

万引きGメン「お婆さん、もうこんな真似しないようように。娘さんもしっかりしないと。
ちゃんとお母さんを躾けるように‥ねえ」

店長と目を合わし、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる2人。

孝太「うるさい‥」

そう呟いた。
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