旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□短編・クリスマス編
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福福・屋上 洗濯物を干し終えた仁は伝助の横に座っている。

感慨深い伝助の右手をまじまじと見ている。

伝助はそんな仁の目線に気付き

伝助「あぁ、これな。森で満優様に修繕してもろたんや‥綿詰め直して布合わせて…
大手術やったわ」

仁「そ、そうか…大変だったんだな」

伝助「まぁな‥遠い昔の話や」

しみじみとする伝助と仁。

今夜は雪が降ると天気予報されている空をしばらく眺めていたが、

仁が立ち上がりポンポンっとお尻のあたりを払いながら

仁「さ、パーティーの用意すんぞ」

と、店内へ下りていった。

福福・店内 満優は焼きあがったスポンジケーキをオーブンから取り出し、
次はデコレーション用のフルーツを切っていた。

いちごにバナナ‥缶詰の黄桃と白桃、パイナップルにさくらんぼ。

その横で信代は店内をパーティーモードに飾り付けをしている。

もう年末だし、昼時がすんでしまえば客もほとんどこないからと、
仁が信代に頼んだらしい。

信代が満優のいる厨房を覗く。

信代「満優さん、だいじょうぶ?手が欲しいときは言ってね」

満優「ええ、ありがとうございます。でも、こちらはだいじょうぶです、

源左衛門がいてくれますから。総右衛門はちゃんとしていますか?」

信代「総右衛門ちゃんならとぉってもがんばってますよ」

総右衛門は店のテーブルクロスをいつもの白いクロスから、

信代持参の赤と緑のクリスマスカラーのテーブルクロスへと代えたり、

椅子に乗って壁や入り口のガラス窓にトナカイやプレゼント型のプレートを貼る作業を
もくもくとしていた。

満優「信代さんこそ、手が足りない時は言ってくださいね」

信代「はい♪でもこっちはおっけぇですよ、心ちゃんが帰ってきたら手伝ってくれるんで」

にこやかに言うと、ひたすらに作業する総右衛門のところへ戻っていく。

一方、厨房内の源左衛門は‥いちごのパックをまな板の上に置くと、源左衛門の目が
キラッと光り、人参型の短刀が閃く。

刹那、いちごたちは綺麗な輪切りにそろえられていた。

そこへ仁が屋上より下りてくる。

仁「お、結構出来たんだ」

飾り付けを見てそう言った。すると、表から『早く、早く』と買出しに行っていた愛理の

孝太を急かす騒々しい声が聞こえて来た。

店内に入ってくる2人、孝太はお菓子やジュースが沢山入った袋7個と
成人女性並みの大きさのもみの木を抱えている。

愛理は可愛らしいリボンが掛かった綺麗な包み箱を持っている。

心へのクリスマスプレゼントらしい。

愛理「ったく、それくらいの荷物でヒーヒー、ヒーヒーだらしのない。もっとしっかり
しないと、孝太君っ」

孝太「み、み、水ぅ。み、水を‥うぉ!」

総右衛門が慌てて孝太に水を飲ませる。

一気に水を飲み干すと、そばにいた総右衛門に泣きついた。

なぐさめ、いたわる総右衛門。

仁「えーと、ジュースとお菓子の金‥」

愛理「いいって。わたしお金持ってるから」

さらっと、言ってのける。

仁「え?なんかわりぃな‥ま、今日はゴチになるか。ありがとな!」

愛理「信代ちゃん、それにしてもよくこれだけのツリー、手配できたわね。

どこもかしこも今の時期、用意できかねますって断られるのに」

信代「んーと‥まぁ、お家に置いてあったものだから」

仁「家?信代ちゃんちに?」

愛理「いい家なのね」

信代「まぁ‥それほどでもないですよ。

にしても孝太さん、よく駅前からここまで持ってこれましたね」

愛理「なんか黒塗りの大きな車だったわよ。運転してた人‥ロマンスグレーのおじい様って感じの人が

『本当はこの店まで持ってきたいのですが』なんて随分かしこまってたわ」

信代「あの人いつも忙しいから駅まででいいなんていっちゃったんだけど‥。

なんだか孝太さんに悪い事しちゃった」

バテバテの孝太を見て、少し後悔した様子の信代。

愛理「へーきよ、へーきっ。孝太君ヒョロッとしたように見えて案外ガッシリとしてる
みたいだし」

仁「見たの?」

愛理「ばーか、見るわけないでしょっ。観察眼よ、人を見る目ぐらい持ってなくちゃ
なかなか成功者にはなれませんからね」

仁「ふぅん、そんなものかぁ」

ここにきて、やっと息が落ち着いたのか、孝太が口を開く。

孝太「ぜ、ぜんぜん‥はぁ‥ぜんぜん大丈夫だから‥気にしなくていいよ、信代ちゃん」

総右衛門「孝太殿、悲しいかなそのようには見えませぬぞ」

総右衛門の言うとおりだ。へたり込んだままでだいじょうぶと言われても、到底そんな風には見えないだろう。

仁「孝太…(苦笑)。まぁ‥孝太はもう少し休んでもらってっと。さ、じゃあ始めるとすっか」

パーティー用の料理にとりかかる。

仁「姫さんうまいこと焼けた?おぉ、すっげえ綺麗に焼けてんじゃん♪」

満優「そうですか?久しぶりだったもので…お城にいた時はよく星のかけらのケーキだとか
虹の雫のムースに花の蕾のマシュマロなど作ってたのですけど」

仁「な、なんか微妙にファンタジー入ってるよね‥にしてもほんと、美味しそうに
焼けてるよ」

満優「仁さんは、果物は何がお好きですか?」

仁「うーん‥いちご‥かなぁ」

満優「いちご‥ですか…うふ♪」

仁「今、笑ったでしょ」

満優「うふふ、ごめんなさい。でも、いちごだなんて、なんだか可愛らしいなと思って。

心ちゃんは桃が好きだそうですね、それじゃあ‥いちごと桃を沢山入れておきます」

仁「お、さぁんきゅ♪」

フライパンをコンロに置き、熱し始める。

すると、屋上からやっと伝助が下りてきた。

伝助「総右衛門、源左衛門、ちょっと…満優様、すんませんけどちょっと用事が
ありまして‥出掛けてきますぅ」

と言い残すと慌てて福福を出る。総右衛門と源左衛門はその後を追った。

満優「早く帰るのですよ」

伝助「はーい」
遠くから元気のいい返事が返ってきた。

街中 あまり目立たぬように走る伝助たち。

(って、ムリな気が‥)

総右衛門「若、忙しい中いったいどちらへ?」

源左衛門「そうか‥あの子が呼んでいるのか」

伝助「そうや、また聞こえんねん、助けてっちゅう声がな」

それは5日ほど前だったか‥
総右衛門と源左衛門と連れ立ってはあちらこちらと遊びに出かけていた伝助。

一休みとばかりにとある建物の看板の上に腰掛けていると、
強烈な思念が伝助に届いた。

『さみしい‥』と少女の声が聞こえる。

キョロキョロと声の主を捜し当てると、5才くらいの女の子の姿があった。

腰掛けていた看板はギラギラと輝く物で、どうやらパチンコ店のようだ。

様子を見ていると女の子は遊びに興じていた母親らしき女性に連れられて帰っていく。

負けたのか、不機嫌な様子、女の子は待ち疲れたのか、浮かない表情だった。

以来、時折伝助に少女の声が聞こえるようになる。

信代に聞けば

『女の子の淋しさと、伝助が体験し乗り越えてきた淋しさとの気持ちが
リンクして、2人の心の波長が合ったのかも知れない‥』と。

伝助「よぉわからんけど‥」

ほっとけない伝助だった。

信代は付け加えて

『体験した気持ちは心にちゃんと残ってて、それを乗り越えた分、伝助ちゃんは強く、
優しくなれたんだよ』

とも言っていた。

伝助「よけい、わからへん…」

そして、今日また声が聞こえた。

伝助「クリスマスやっちゅーのに、なんて淋しい声しとんねん」

自分が味わったあの辛さ‥淋しさ‥哀しさ…

伝助「ぬいぐるみはお子様と綺麗なお姉さんの味方ですっ!」

声のする方へと走る3人。
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