旧 霊皇戦隊セイレンジャー 1

□第3話・1
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信代の部屋 部屋に広がるラベンダーの香り。

甘めのミルクティーをカップに注ぎ、テーブルに置くと

ふかふかのクッションに体を預けた。

信代「ふぅ…」

信代は仕事の…街角で占う…前には必ずリラックスと精神集中をする。

ゆっくりと目を閉じる。

とたんに変わる世界…信代の可愛らしい感じの部屋が溶け、あちらこちらで囁く人々の
声や感情‥雑踏が信代の中に流れ込んでくる。

信代はさらに深く息を吐く。

天へと駆け上る一陣の風のイメージ。

声も感情も過ぎ去り、一転して訪れる静寂‥植物の吐息さえ聞こえてしまう静けさ。

その静かな空間を漂う信代。

これは、信代にとっては準備体操のようなものである。

感覚を研ぎ澄ませるために行う重要な準備。

ふいにその声は聞こえてきた。

たった1度、ともすれば聞き逃してしまうような、か細い声で

『…助けて…』と。


福福 「いっただきまーす」と仁たちの声がする。

今日のおかずは肉じゃがとタコの酢の物、豆腐の味噌汁に心が作った卵焼き。

いつもの賑やかな夕食のひと時。

心「信代姉ちゃん、今日はこないのかぁ」

つまらなそう。

仁「しかたねえじゃん、今日は仕事だろ」

心「うん‥わたしの焼いた卵焼き、食べて欲しかったなぁ」

伝助「信代ちゃんには今度作ったり♪にしてもほんま、ごっつ美味いわぁこの卵焼き」

笑顔になる心。

心「そぉお」

伝助「ほんま、甘ぉてフワトロで、めっちゃおいすぃー」    

愛理「そうそう、やっぱり卵焼きは砂糖入りの甘いのが1番よね♪あ、美味しっ」

心お手製の卵焼きをパクっと1口食べて♪な感じの愛理。

心「愛理姉ちゃん、ほんとっ♪教えてもらった通りに作ってみたんだよ」

愛理「上手よ、とっても。筋が言いのねぇ、味付けよりも卵の混ぜ方が肝心なのよ。

こう切るように混ぜなくちゃいけないんだけど、すぐにコツつかんじゃったものね。

心ちゃんならきっと腕のいい料理人になれるわ、誰かさんと違って」

チクリと仁にけんかを売る愛理。

仁「あっ!やっぱお前かっ。心に甘い卵焼き教えたの」

愛理「だってあんたが作る卵焼き、醤油しか入ってないからなんかねぇ、

辛いばっかりで美味しくないのよっ。たくっ、ありえない!」

仁「くぅぅぅ。人の可愛い妹を邪道に引きずり込みやがってぇ」

愛理「なーにが邪道よっ。醤油だけのほうがよっぽど邪道よ」

仁「うっせぇ!砂糖だけの邪道以外になんの邪道があるもんかっ!な、孝太」

愛理「いいえっ!醤油だけのほうよ!ね、孝太君」

孝太は戸惑いながら

孝太「ぼ、僕の家は‥砂糖醤油なもんで…えへ」

困ったような笑顔で、何かしらの覚悟を決めた表情でもあった。

後の騒ぎはご想像にお任せするとして…孝太の覚悟はムダにはならず、ほどよく
ボロボロのヘロヘロになったところから話を再開するとしよう。

満優「信代さんは、今夜はお仕事だそうですね」

心「そうだって。占いやってるんだって言ってたよ」

仁「黙って座ればピタリと当たるってやつ?ほんとに当たんの?」

愛理「馬っ鹿ねえ、あのこがはずわけないじゃない」

そんな会話をしているみんなの横で、ぐったりと倒れている孝太の世話を、

総右衛門が看ていた。

ファイトッ!孝太っ!!


深夜の繁華街 ビルの角に『風』と名乗って信代は座っていた。

小さい机と簡易椅子。

今夜はここで占っている‥いや、今夜はここでないといけない気がしていた。

『…助けて…』と聞こえた、か細い声の答えがみつかるような気がして‥。

そこへ、恋人同士であろうカップルが信代の前に立つ。

ある程度の話を聞き、タロットカードを並べていく。

カードが導き出した結果には、さほど悪い事柄は出ていなかった。

まぁ、それなりに良い事も表れていなかったが。

信代だけに見えているビジョン…近い将来、些細なことからケンカをしてしまい
別れを迎える2人だった。

だからと言ってペラペラと、2人にそんな事を話す気は信代に無い。

ケンカの原因は本当に些細なこと。

とっておいたプリンを食べたとか食べないとか、ともすれば子供のケンカのようなことだ。

だが、それで別れてしまうほどに、このカップルは精神的に幼かった。

別れを迎えた後、2人は失ったものの大きさに気付き、人に対しての気遣い、

パートナーや他人を思いやる事の大切さを知る。

そうして、人間として成長してゆくのである。

このように、一見不幸な出来事もその人にとれば、成長の機会なのだ。

だから信代は視えたものを必要以上に伝えない。

その人が経験する大切な瞬間を奪わないために。

別に神様気取りで言ってるのではない。

出来うるだけ、人生と言うものの邪魔をしないように気をつけている。

その人にとって、何が大事で何が危険か、

『その事を感じ、人をサポートするのが私のやるべき事。

そのために授かった私の力だもん♪』が信代の信条。

それに‥楽しい雰囲気で来た人を暗く、不安な気持ちで帰したくもなかった。

楽しい時間はできるだけ楽しいままで終わるように…そう思う信代だった。

信代「‥と出ていますね。この『恋人達』のカードが示しているので、御二人は将来
結ばれるでしょう。

『運命の輪』のカードがでていますので‥まぁ、いくつかの障害もありますが、

それは人なら誰もが経験することなのでだいじょうぶ。

大切なのは心穏やかにしていること。

風が吹き荒れていると小さな声が聞こえないのと同じ事です。

幸せは小さな声で語りかけて来るものなので、どうか聞き逃さないように。

以上です」

喜ぶカップル。

『ほんとうにこれでいいんですか?』と恐縮しながら500円玉1枚を
料金として信代に渡し、にこやかに立ち去っていく。

信代「お幸せに」

去っていくカップルの後姿に微笑みながら声をかけた。

けっして信代は嘘をついてはいない。

喧嘩別れをしたあと、互いの成長を経て数年後、2人はふたたび出逢うことになり、

結ばれる。

そのあたりまで今夜のカードは示していた。

しかし、カードにそって人は生きているのではない。

人が生きていくうえで助けになるのが占いの役目。

先々、未来がわかってしまったら人生なんてつまらないもの。

アドバイスは必要最低限に‥花が咲くのに、水をやりすぎれば枯れてしまうようなもの。

タロットカードを片付けている信代の前を、勤めを終えた知美がフラフラと歩いていた。
今日も随分飲まされた様子。信代の姿をみつけ、ふいに自分の運命を
視てもらおうと思い立ち、千鳥足で信代の前に立った。

知美「すいまれん‥いや、すいません…」

疲れと酔いで、少しろれつがまわらない様子で話しかける。

信代はカードを片付けながら呟いた。

信代「あなたがわたしを呼んだのね」

聞こえたのか、不思議そうな表情を浮かべる知美。信代が顔を上げ、知美の顔を見詰めた。

そんな知美のまわりにフッと現れてすぐ、姿を消す小さな光る珠…。

信代は光の珠を見ながら、知美に優しく微笑んだ。

信代「さ、そこに掛けてください。心配はいりません‥風はあなたを包みます…」
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