2.5
□プロローグ
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※名前変換なしです
息が吹き返したような感覚が身体の中を駆け巡った
『―』
暗闇の中に一筋の光が差したように見えた
もうすぐだ
「……!」
今しがた、宮の下で何かが動いたような、しかし邪悪なものではなくとにかく何かが疼く感じがした
「あのお方が」
「時期ですか…」
「はい、そのようで」
「皆に知らせなければいけませんね」
にこりと笑うサーシャにセージは、静かに微笑んだ
「召集を掛けましょう」
久方ぶりの召集に全員が速やかに集結することが出来た。扉が閉まったことを最後にサーシャは静かに立ち上がった
「今回の召集は他でもありません。皆に知らせなければならないことがあります」
全員の表情がぎゅっと引き締まったのがサーシャに伝わってきた。
そして、そのサーシャの言葉に口を開いたのはシジフォスだ。召集が掛かるということは何か良からぬことがあったと考えられる。指揮を執る立場にある彼は状況を把握しようとした
「何かあったのですか」
「あぁ、いえ。悪い報せではないのです。その、」
「?」
言いづらそうに口ごもるサーシャを見るにどうやら大して危機的状況にある訳ではなさそうだ。こんなサーシャの姿を見るのは久方ぶりだった
「アテナよ、これは私から話す方がよろしいでしょう」
「あ、お師匠」
セージがサーシャの肩に手を置く。頼みます、と一言だけ言うと代わりにセージが前に出てきた。
密かにぼそっとセージを呼んだマニゴルドを一睨みしてから向き直った
「代々、我々はずっと守っているお方がいる」
「セージ様たちが?」
「そうだ。さあ、皆こちらに」
その言葉を放つと宮の奥に歩みを進め始めたセージとサーシャに皆が狼狽えた。我々がそこに行ってもいいのか分からなかったのだ。
未だ整列したままの黄金聖闘士たちに、列を乱してもいいからこちらに来るようにとセージに促されてしまった
奥は壁だ。だがセージが何でもなかい壁を思い切り押し込むと、隠し扉のようなものが現れた。地下に通じているようで肌寒い風が送り込まれる
「この宮に何故このような場所が…」
「そのお方は我々にとって欠かすことのできぬ存在。決して敵の手に渡らぬようにと言われたお方だからだ」
地下への長い長い階段を延々と下りていく。頼りになるのは松明に点けられる火だけだ
「セージ様、そのお方とは一体…」
「…魔術と詩に優れたダーナ神族の母であり、生命の源の母神と呼ばれている」
長い螺旋の階段に少しうんざりし始めた頃、松明が急に途絶えた。地下に辿り着いたのだ
「これは…!」
そこは草木が生え、奥にはかなりの大きさ木であろう根が見えた。火も何もない筈のこの空間は不思議と翡翠色にぼんやり明るい。
さすがの聖闘士たちもざわつかずにはいられなかった。森林のように緑豊かな地がここに存在しているのだ
セージとサーシャはそこからさらに奥に足を進めていった
「そのお方は魂の巡りを見守られる大事なお方だ。魂が正しく巡らなければ世はより濃い闇に包まれる」
大木の根元に徐々に近付いていく。緑の中を進んでいくと何か、何かが、そこに在った
今度はサーシャが口を開く
「そして、今日まで眠りに就いていたのは力を蓄えるため。しかし眠っている間も尚微力ながら力を使い続けているのです」
「魂の巡りを調節するのは大変な仕事だということだ」
そして、遂に根元に来たときにはそこに何が在るのか明瞭になった
「このお方、ダナ様は直に目覚める」
女性だ
白く、どこまでも白い長髪を艶やかに散らせ、大木の根元に横たわる四肢は無駄のない陶器のよう美しい。誰もが息を呑んだ
サーシャですら自ずと感嘆の声を漏らす
「話は聞いていましたがここまで美しいなんて…」
『――…』
「目が覚めます」
皆が反射的に身を構えている中、サーシャはその白い彼女の傍に膝を着いて手を取る。白い睫毛が微かに揺れた
「ダナ様」
その色とは反する夜の闇を表す黒の瞳がサーシャの声と共に開かれた
『ぁ』
「目が覚めましたか?」
『…私、起きられたのね…』
「ええ」
『よかった…』
正に寝起きの声という感じで発せられた声は姿相応に美しいものだった
セージが進んでダナのもう片方の手を取る。その手はひどく冷たかった
「ダナ様、身体に異状などは見られますか?」
『あぁ、いえ…大丈夫。でも暫く身体を動かしていなかったから起き上がれないみたい』
苦笑いしながらセージが持っている方の手をぎゅっと握った。身体に力を入れて起き上がる素振りを見せるが無理だった。
サーシャが無理をなさらないで、と肩をやんわり押さえる
「シジフォス、ダナ様をお願いしても?」
「は、…は!」
『あ…、ごめんなさいね』
シジフォスはダナの上半身の背中に腕を入れて起き上がらせると、次は膝裏に手を添え持ち上げた。すると驚くほど軽々と全身が持ち上がってしまった。何もないかのように、何も感じられない
『力持ちね』
「いえ…」
貴女様が軽すぎますとは言えず、またあの長い螺旋階段を上り始めるのであった
『以前と同じね…』
「え?」
『以前目が覚めたときも、その当時のアテナが手を取ってくれていたの』
目が覚めて最初に見るのは必ずアテナなのかしらね、と少し笑いながら言っていた
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