RE! Text
□さよなら神様
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その人が泣いているところを、私はみたことがない。
親友の兄貴でボクシング部の部長でもあったその人は、いつも笑っていた。
時に仲間が危機に陥ったり、傷つけられたりして怒ることはあっても、泣いているところなんてみたことがない。いつも仲間と一緒に笑っていた。
泣いているところなんて、みたことがなかった。
「花」
十年前よりも少し低くなったあの人の声が私の名を呼ぶ。
その声を聴きたくなくて耳を塞いだ。
目の前に倒れている真っ赤なモノを見たくなくて目を閉じた。
血の臭いが漂ってくる。
「花」
十年前よりも少し低くなったあの人の声が私の名を呼ぶ。
その声を聴きたくなくて耳を塞いだ。
目の前に倒れている真っ赤なモノを見たくなくて目を閉じた。
血の臭いが漂ってくる。
「花」
また、名を呼ばれる。
一度も泣いたことがないはずの人が、たった今人を殺したばかりのひとが、泣いているように見えた。
私の好きだった笑顔は、もうどこにもなかった。
さよなら神様