Real or Virtual

□Opening
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【Real or Virtual】


 ぱちりと目を覚ました時、僕は何故か見知らぬ森の中にいた。

「…………………………え?」

 地面に寝転がった体勢のまま左を見て、右を見て、最後に上を見て。
 生い茂る木々。 
 青く、広く、どこまでも澄んだ空。
 祖父母の住む田舎より遥かに清らかな空気。

「………………どこ?」

 口から零れた当然の疑問。それに答えを返す人も、相槌を打つ人もおらず、静かに僕の声は森に溶けていく。
 夢――ではない。
 まぎれもなくこれは現実だと、照りつける日の光や生温く頬を撫でる風、僕の身体を支える柔らかな草の感触が物語っている。
 うーん……それにしても寝心地よさそうだよな、ここ。
 夢とか現実とか放ってこのまま寝てしまいた――

「――いやいや寝てる場合じゃないし」

 鬱蒼とした森の中、一人ボケツッコミのセルフ漫才を繰り広げる僕。
 うっわー、なんかもう虚しすぎて死にそう!

「ぐー」
「だから寝てる場合じゃ……って、え?」

 ついツッコミ入れたけど、今のは僕のいびきじゃない、よね?
 名残惜しさを振り切りながら立ち上がり、注意深く周囲を見渡す。
 そして――見つけた!
 すぐ目の前に生えた大きな木の上の、大きな枝に寄りかかり、すぴすぴ気持よさそうに寝ている人の姿を!

「あっ、あの!」
「ぐー」
「すいません!」
「ぐー」
「もしもーし!」
「ぐー…………ぐ?」

 ようやく僕の声が耳に届いたのか、寝ていた人――肩まで髪を伸ばした男の人は薄く目を開けて。

「……ぐー」
「寝直さないでくださいっ!」
「ぐ……チッ、んーだようるっせえな」

 さも不快だとばかりに頭を掻き、僕を睨みつける彼。
 ていうか……怖っ!
 ただでさえヤンキーぽくて威圧されるのに、こちらを見やる目の生気のなさが更に怖っ!

「なんだテメー。誰だテメー。俺に用でもあんのか? ああ?」
「………………」

 怖っ!
 改めて怖っ!

「あの、えっとですね? 道……じゃなくてその、ここがどこなのか、その、教えてほしくて……ですね」
「ああん?」
「ごっごごごごめんなさいっ!」
「……何に謝ってやがんだテメー」

 男の人は「ふんっ」と鼻を鳴らした後、危なげなく木の枝から飛び降りた。

「んー。ちょいとばっか寝足りねーけど……ま、いいや」
「……あの?」
「なんとなくだがテメーの様子でわかった。《ここ》が《どこ》なのかも知らないなんざ、普通はありえねーしな。……ついてこいよ、ビギナー。知りたいこと、知りたくないこと、全部教えてやる」

 言うが早いか男の人は背を向け、さくさくと迷いなく歩き出し始める。
 何もわからず、何も知らない僕には、彼についていく以外の選択肢なんて――他に、なかった。


to be continued.

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