変わらない日常。
…だと思っていたのに、今日は違った。
ある事がきっかけで出逢った男と、偶然にも再会して。
(掃除屋の仕事でこの街に来たって言ってたけど、)
「相変わらずその子にライバル視されてるんだ?あはは、っ!」
公園のベンチに隣同士で、腰掛けて。
掃除屋の仕事であった出来事とか、日常の下らない話とか、他愛の無い会話をする。
「姫っち意味分かって言ってんのかなー、」
「まーまー、その子にとってそれだけトレインの相棒さんが大切な存在だって事さ!」
「ふーん、何かよく分っかんねーなー。」
「トレインは楽観的だからねー、」
あははと、また笑って。
こんな他愛のない話をする時間は、とても幸せで。
彼は掃除屋で、すぐまた他の場所へと行くから、貴重で大切な時間なんだ。
「あーあっ!私もお姫様みたいになりたいなぁっ!」
「…は?何で?」
「お姫様って女の子の憧れなんだよー?それにさぁ、」
「それに、?」
首を傾げて、此方をきょとんとして見つめるトレイン。
その姿は、
あの伝説の黒猫とは到底思えない。
「トレインの身近にお姫様が居るんでしょー?もう、その子になりたい位だよっ!」
「何で姫っちに?」
騎士に守られるお姫様。
例え、王子様がそこに居ないとしても、大事に、大切にされている訳で。
「……だってさ、愛されてるじゃない、そのスヴェンて人にもトレインにも、さ。」
何だか、気付いたらしんみりモードになってしまった。
(…あー、私何か今日、変だなァ、)
こんなつもりでは無かったのだけれど。
「大事にされるって、凄く、幸せな事でしょ?」
「…!」
「ふふっ、トレインに愛されてるその子が羨ましくて妬いてるのかもね、?」
驚いている彼をよそに、悪戯に笑って、
冗談ぽく、でも、それが本当なのだと伝わればいいと微かに期待を込めて。
そう言ってみた。
「っ、何バカな事言ってんだよ、!」
「あはっ、顔赤くしちゃって、可愛いなァ、!」
「気のせいだろ、っ!」
微かに赤らんだ彼の頬。
顔を逸らして、必死にごまかす彼を見て、何だか嬉しくなる。
「ふふっ、」
「っ、…あのさァ、何に悩んでるかとか、よく分かんねーけどよ、」
「?」
頭を掻いて、少し言葉を選んでいる様だった。
彼なりに、
考えてくれているのだろうか。
「笑え。」
「……は?」
何時もの笑顔を私に向けて。
少しの間の後、突然発せられた言葉は、たったの三文字で。
「…あー、いや、だから、その、っ!」
照れくさそうにまた頭を掻いて。
一つ息を吐いて、静かに言い放った。
「笑った顔が一番似合ってるんだからよ、!」
「っ…!」
「お前には笑ってて欲しい。」
「トレ、イ…ン、」
「そんで、また戻って来た時に、おかえりって笑顔で言ってくれ。」
嗚呼、何で久しぶりに逢って、こんな事を言うんだ。
泣きそうになるじゃないか。
よりによってこんな時に、彼はずるい。
「俺、いつもお前が笑顔でおかえりって言ってくれると嬉しいんだ。何つーか、」
「っ、」
「安心するっていうか、俺の居場所はちゃんとあるんだ、って思えるからよ、」
「ふ、っバカじゃないの?」
「それは何時もの事だっ、!」
ニカッと。
爽やかな笑みを浮かべる彼とは対照的に泣きそうな私。
(…もう、ヤだ、トレインてばすぐ人の心察するんだから……。)
――…でも、ありがとう。
心配してくれてるって事はよく分かったから。
「ほらっ、もう行きなさい!来てるわよ、トレインのお連れさんが、」
涙を堪える。
スッとベンチから立ち上がって、
無理矢理彼を立たせ、彼の仲間が居る方向へと背を押してやる。
彼の仲間は一度も見た事が無かったけれど、
以前彼が言っていた連れの特徴を思い出したから、すぐに分かった。
「Σうおっ!マジだ、」
「行ってらっしゃい、!」
「…でも、」
振り返って渋る彼。
(…全く、世話の焼ける、)
「私なら大丈夫よ、」
「!…そっか、」
一瞬目を見開いたけど、すぐに微笑んで彼は背を向けた。
その大きな背中に、声を掛ける。
「また来てよ、ちゃんと笑顔で帰りを待っててあげるから。」
「おうっ!」
彼は振り返らずに、手を上げた。
その背中が去っていくまで、ずっと見つめていた。
(…次に逢った時は、)
「面と向かって、ありがとう、って言いたいな、」
くすりと笑みを零して。
静かに、
ただ、心地良く吹く風を感じていた。
気まぐれな猫の騎士
(私と貴方の中に、)
(『サヨナラ』なんて言葉は、)
(どこにも存在しない。)
end.
黒猫、トレイン夢。
離れて暮らしていてもお互いを想う気持ちは変わらない、みたいな事が伝われば良いなーと思います(*´∀`*)
似非トレインですみませっ…(´`;)