novel2(BL book)

□オレの神様
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全知全能

殺戮の処女神

ジャシン様

オレはこの神を

その座から

引き摺り下ろした









小さな身体に沢山の装飾品をつけられていた。
金や銀の糸で刺繍をされた赤い衣を着せられていた。
頭には煌びやかな冠のようなものを載せられていた。
全く似合わない真っ赤な紅を塗られていた。

ここにいる全ての者が跪き祈りを捧げる生神は年の頃五つくらいの小さな少女だ。
そんな小さな子供には似つかわしくない虚ろで冷やかな神の目で祭壇の上から信者を見下ろす。
声を発さずに神官から渡された賽を振り、出た目で神官は神の言葉を紡いでいく。
嘘っぱちだ。
オレはヤツらの言葉を信じない。
本当の神の声が聞きたい。

祭が終わったどさくさで神を連れ出すのは案外簡単だった。
オレは小さな手を握り、小さな手もまたオレの手をしっかりと握って人目を避け五月の新緑眩しい森の中を歩いていく。
その手はとても温かかったが神はやはり全く声を発さなかった。
オレは神を連れて祈りと、たまに見つける人間で儀式を行いながら移動していく。
そして毎日木の実や川魚を獲って神に捧げた。
神は供物を半分だけ食べて残りの半分をオレに差し出す。
それを無礼の無いよう、神の目に触れない所でこっそり食っていたがそのうち一緒に食うようになった。

ある日いつものように川で魚を獲っていたらぴしゃり、と跳ねた水が神に当りオレは焦ったが神はにっこり笑って「冷たくて気持ちいい」と言った。
それから神はよく話すようになっていく。
だけど神が話す言葉は、声は、神のそれでは無かった。
おかしい。おかしい。
そうだ、この子供は神の器であって神ではないのだ。
これは神の器が話している言葉なんだ。
祈りが足りないから神はまだオレに声を聞かせてはくれない。
しかし、どんなに祈っても神の器が話す事は増えていくのに肝心の神の声は聞こえない。
不安はあったが、いつか聞ける時が来るだろうとオレは然程深く考えないようにした。
オレは今、神と供にあるんだから。

「お兄ちゃん、おしっこ」
明け方近くに神の器に起こされ、根城にしていた洞穴から外へ出る。
近くの茂みで小便をさせ戻ろうとした時に丁度朝日が昇り神の器を照らし出した。
オレは光に照らされたその姿に愕然とする。
そこに居たのは神でも神の器でもない、ただの小汚いガキだったからだ。
オレは無性に腹が立ち、ガキの首を掴んで力を込めた。
ギリギリと柔らかい首に食い込んでいく指。
今まで優しく面倒を見てきた男の変貌に泣き喚くかと思ったが、声を出さずにその大きな瞳をいっぱいに開き、真っ直ぐオレを見つめているだけだった。
力を込めて締め上げると、血管が切れて大きな瞳から涙のように赤い血が垂れていく。
それでも力を緩めずに高く持ち上げていくと、ガキは虚ろで冷やかな神の目でオレを見下ろしたので急に怖くなり手を離した。
どさっ、と音を立てて湿った土の上に落ちたガキはそのまま二度と動かなかった。
オレは泣いた。
泣く気なんて無かったのに涙がポロポロと落ちて止まらない。
オレはガキの身体を抱いたまま泣いて、泣いて、いい加減涙が出なくなった頃弔わなければ、という思いがたつ。
だけど弔い方なんてオレは知らないし、こんな森の中に埋める気もおきない。
仕方ないのでオレはその動かなくなった小さな身体にクナイを突き立て切り刻み、血液でぬるぬるした赤い肉を喰った。
初めはまだ噛み切る事のできた肉も、時間が経つと硬くなりツン、と鼻をつく小便のような匂いがキツく飲み込むのにとても苦労したがオレは五日かけて何とか全部喰い尽くした。

そしてオレは歩き出す。
贄を探して。
殺す為に、捧げる為に。
ガキはやっぱり神だった。
最期に見せたあの目は神の目だ。
神の声だ。
オレは聞いたんだ、本物の神の声を。
祈り、殺し、儀式を繰り返しオレはオレの中の神へ語りかける。
もう一度、アナタの声が聞きたい。
オレの中の神様。
アナタの為に殺します。
他人を。自分を。
この尽きぬ命が尽きるまで。
だからどうかもう一度、あの小さな温もりをオレに下さい。

ジャシン様。




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