novel2(BL book)

□童歌
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お山に雨が降りました

後から後から降ってきて

ちょろちょろ小川が出来ました







童歌






「角都・・・あれ、何だァ?」

ガキをたくさん引き連れた女がガキと一緒に変な呪文を唱えながら歩いて行く。

「・・・託児所のガキとその引率の女だろう」

「託児所・・・?あの女が産んだガキじゃねェの?」

「馬鹿か、お前は。あれは地域のガキを預かって半日程面倒をみる事で金を貰う、そういった任務だ。そんな事も知らんのか?」

「知らねェ」

角都が溜息を吐く。
今日何度目の溜息だっけ。
そんなに溜息ばかり吐かれても知らねェもんは知らねェんだから仕方ねーだろ。
大体、託児所なんてもんはジャシン教の教えに無ェし。
ガキの頃教団に居た時だって見た事も聞いた事も無かった。
それにあの呪文。

「角都ゥ・・あの呪文は何だ?」

「呪文・・?ああ、歌だ。ガキに聴かせる童歌。全く・・・ジャシン教ってのは常識を何一つ教えない所だな」

いつもだったらオレがここでキレて更に逆ギレした角都にボコられるとこなんだけど、オレはそれより『ワラベウタ』ってのが気になってしようが無かった。



お山に雨が降りました

「・・・・おやまにあめがふりました」

後から後から降ってきて

「あとから・・・あとからふってきて・・・」

ちょろちょろ小川が出来ました

「ちょろちょろおがわができました・・・」


オレはガキ達の真似をして童歌ってヤツを口ずさんでみた。
何だか嬉しくて後にいた角都を振り返る。
角都はまた溜息を吐いたけど、オレにはもう関係ない。


「お山に雨が降りました」

オレは歌を続ける。

「後から後から降ってきて」

何度も、何度も。

「ちょろちょろ小川が出来ました」


「煩いぞ、飛段!」

とうとう角都が怒った。
まァ、そりゃそうだよな。
でもさァ。

「角都ゥ!オレ・・・歌って初めて歌った!超嬉しい!」

角都は一瞬驚いたような、困ったような顔をしてそれからオレの頭をそっと撫でてくれた。
その後はオレが歌ってもあまり怒らなくなった。
イラついてる時に歌うとやっぱ怒られたけど。
それでも、最後には優しく頭を撫でてくれる。
オレはそれが凄く嬉しかった。










なァ、角都。
ここには太陽の光も空の青さも風に靡く緑も無いんだけどさァ、雨だけは土を伝わる音と染み込んで来る水で分かるんだ。


「お山に雨が降りました」

今もオレはこの歌を歌ってる。
つっても、この歌しか知らねーんだけど。

「後から後から降ってきて」

本当はさ、オレこの歌が好きっつーよりこの歌を歌うと角都が頭撫でてくれるから好きだったんだ。

「ちょろちょろ小川が出来ました」

角都のデカい手は温かくてその手で頭撫でてもらうのは歌なんかよりずっと嬉しくってさァ・・・。




角都と身体が離れてる事なんてきっと大した事じゃ無いんだ。
それでも願わずにはいられない。
この雨が降り止まぬようにと。
そしていつかこの場所が小川になれば。


流れて。

流れて。

流れて。


角都のところに帰りたい。







 

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