novel2(BL book)

□いらない
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角都がオレの前に蹲っている。
宿屋の畳にぽたぽたと垂れていた紅い血はいつの間にか血溜りになっていて、角都の周りを覆ってた。







いらない






「・・・・角都」

オレは小さい声で蹲ったままの角都を呼ぶ。
さっきまではそれでも唸り声の様なものを上げていたが、今は全く声を発さない。
心臓を潰した訳では無いから死んではいない筈だ。
オレは左手に角都から取ったモノを握り締めて部屋を出た。
そのまま外へ抜けると、空は朝に呑み込まれる直前のぼんやりとした灰色でオレを見下ろしている。
その灰色に促される様に昨日の事が頭を過ぎった。










角都は5000万両の賞金首を殺って機嫌が良かった。
オレを殴る事もオレが話した事に「煩い」と言う事も無くて。
換金して、もう日が暮れるからと近くの繁華街に宿を取って部屋で角都の酒に付き合ってたんだ。
角都は酒が入ったせいもあって終始御機嫌で、オレの髪を撫でたりそっとキスしてくれたりもした。
夜も更けてきて角都は街へ飲みに行く、というのでオレは部屋で寝る事にした。
角都が撫でてくれた髪を触りキスしてくれた唇の感触を反芻して目を閉じる。
本当はこの瞬間が一番辛い。
色々考えちまうからさ。
・・・・・角都はオレの事が好きでキスしてくれる訳じゃ無いんだ。
そんな事は分かってる。
今日はきっと5000万両を殺る時に執った連携が上手くいったから。
その御褒美だ。
任務を上手くやれば、バイトの手伝いを上手くやれば、人を上手く殺せば貰える御褒美。
オレは角都にとって見世物小屋で餌を貰って曲芸をする動物と同じ。
それでも。
それでもいいと思ってた。
多くを望まなければオレは角都に触れてもらえる。
近くにいる事を許される。
それで十分。
オレがウトウトしているとがちゃり、と扉の開く音が遠くで聞こえたから角都が帰って来たんだと分かった。
オレはちょっと安心してそのまま眠りに落ちてしまおうと寝返りをうった時、角都がオレの布団に入ってきたんだ。
びっくりして目を開けると角都の顔が近付いてきて、ぺろりとオレの唇を舐めてその舌はそのまま歯列をなぞって口内に進入してくる。

「ん・・ふ・・・ッ」

酔った角都にオレの舌はいとも簡単に絡め獲られ、くちゅりと水音を立てて溢れた唾液が口端から垂れていった。







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