novel2(BL book)

□いらない
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そしてそのままギリギリと渾身の力を込める。
張り詰めた皮膚にぶちぶちと歯が刺さってゆく感触。
口の中に広がる角都の精液と血液の味。
オレは吐き気を堪えて出来るだけそれを飲み込んだ。
それでも人肌の温かさを持つ生臭いそれは口から溢れて零れてゆく。
角都は悲鳴にもならない様な叫び声を上げ、オレを引き剥がそうと髪を毟り、背中に爪を立て指を食い込ませて肉や骨と一緒に後へ引く。
そんな事をしても無駄だ。
オレは今幸せなんだから。
パリパリと軟骨が砕ける音。
上から何度も殴られ、背中は更に大きく抉られた。
なァ、オレが全てを食い千切る前に。






角都、オレを殺して。







だけど願いは虚しく。
最後はぶちっ、という簡単な音と共に角都のソレはオレの口の中に残される。
オレは喉が詰まり、息が出来ずにのた打ち回りながら角都のソレを吐き出した。
力が抜けていき、ただ身体が欲するままに息をする。
オレは食い千切ったソレを左手に持ち立ち上がった。
角都はその場に蹲り、血溜りの中で唸り声の様なものを上げている。
オレはその姿を黙って見つめていた。
そのうちに角都は声を発さなくなったので、角都の周りに出来た血溜りにオレは小さな声で、

「・・・・角都」

と呼んだ。










ざわざわと風に木が揺らめく。
灰色の地面には風によって留めきれなくなった紅い南天の実がぽたり、ぽたりと木に見捨てられて落ちて来る。
左手に握ったままの角都のモノをもう一度ぎゅっと握り締めた。
あの時角都が女を買ったと言えば、オレは今までと変わらずにヘラヘラと笑っていられただろう。
何も望まずに、今まで通りに、並んで歩く事が出来たんだ。
だけどオレはそれをブチ壊した。
下らない感情で、その場の思い付きで角都を壊した。
・・・いや、角都はオレ如きに壊されたりなんかしないな。
壊さなければいけないのはオレの方だ。
オレは風に揺れる服を下ろし、自身にクナイを突き立てそのまま横に引いた。
ぽたり、ぽたりと灰色の地面に紅が落ちる。
風が吹く度に落ちる紅い南天の実と、傷を拡げる度に落ちるオレの紅い血と、一体どれだけの差があるというのか。
こんなものの為に心がざわつくのなら。
こんなものの為に角都を傷つけたくなるのなら。



「(こんなもの・・・)」


オレはクナイを持った手を高く上げてそのまま一気に振り下ろした。










「いらない」










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