novel2(BL book)
□嘗て、愛した人へ
2ページ/5ページ
「そうか、それは良かった」
「はァ?」
「着いたぞ」
顔を上げると小さな山小屋が見えた。忍が少しだけ足を速めたのでそれに続く。
「ここに一人で住んでんの?」
伸びた雑草をがさがさと掻き分けて小屋の前へ出た。
「そうだよ。雨に濡れて大分身体が冷えてしまったね。さぁ、中へお入り」
促され小屋の中へ入る。
小屋の中は殺風景で、人が住んでいると言われなければ棄てられた只の空小屋にしか見えなかった。
それでもぽつん、と小屋の真ん中にある時代錯誤な囲炉裏に火を入れると暖かく、何だか安心できた。
パチパチと燃える音を聞きながら、忍が出してくれた葛湯を飲む。
すげェ温かくて思わず笑みが零れる。
身体が温まるとずっと思ってた事が口を吐いて出た。
「なァ・・あいつら殺すのとか、やり過ぎじゃねェ?」
そんなオレに忍は目を丸くして言う。
「何だ、お前はああいう事をされて嫌じゃ無いのか?」
「嫌だけど!けど・・・いつもの事だからオレ、慣れてるし・・どうでもいいっつーか・・・」
「いつもされてるんなら、それが殺される理由になるだろう。こんなご時世だ、誰も咎めたりしないさ」
「でも・・・」
「お前はいい子だな」
忍はオレの頭を優しく撫でた。
そんな事されたのは初めてで、どうしていいか分からず戸惑った。
「それにお前、初めて会った名前も知らないオレに着いて来た挙句、出されたものを何の疑いも無く口つけて。普通はもう少し警戒するだろ・・・あんな目にも合ってるクセに人を信じてるのか?」
「・・・別に人なんか信じちゃいねーよ。でもオレさァ、目ェ見りゃそいつが何考えてるか大体分かんだぜ。オレの身体を切り刻んでみてーのか、犯してみてーのか、関わりたくねーのか・・・。他人にどうされようが死ぬ事はねェからな。警戒する必要もねェし。つか、アンタこそいい人だね。オレに関わりたくねーってヤツ以外で何もしないヤツに初めて会った。こんなに優しくされたのも初めてだ」
忍はふ、と目を細めて、
「お前は本当にいい子だなァ」
と言って、またオレの頭を撫でてからゆっくりと話を続ける。
「お前・・ここに住んだらどうだ?オレもお前と話してると楽しいし、お前がこの先一人で歩いて行けるように・・・そうだな、忍術を色々教えてやるよ」
思ってもみない話だった。
忍術は兎も角、行く所がある訳でもねーし、外ほっつき歩いてんのも寒みーし・・・それに、ここに居れば殴られたり犯されたりという事は無い。
何よりもオレにはこの忍と居る事が居心地良く感じられていた。
「オレ・・・飛段。アンタの名前は?」
「ああ、オレは―・・・」
オレは結局、その忍の所に居ついちまった。
忍との生活は思いの他楽しくて随分と笑ったな。
人と一緒に居る事はこんなにも幸せなんだと思った。
オレが何か言えば答えが返ってくる。
何か言われたら答える。
普通に。
そう、普通に。
そこにある言葉は蔑むものでは無く、そこにある笑いは嘲るものでは無く、そこにある手は傷付ける為のものでは無く。
全ては温める為にあるのだと知った。
二人で暮らして何度めかの夜、初めて人の腕の中で眠る心地良さを知って涙が流れた。
その行為はとても優しくて、オレが今までしてきたそれとは全く違っていた。
オレは人間なんだと思えた。
・