novel2(BL book)

□flower
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ぐうぐうと鳴る腹を押さえて部屋中を転がりながら唸っていると、電話の音が響いたのでがばり!と起き上がる。

「はい、クラブ暁です・・・」

ゼツが電話の受け答えをしながらオレの方を見て頷いた。
電話を切ってから笑って、

「飛段オ待チカネノ角都ダ」

とふざけて言われたので、

「お待ちかねじゃねーっての!」

言い返したが、やっぱり顔は大分ニヤケてたと思う。
デイダラがいたら煩く突っ込まれただろう。
アイツが今日休みで良かった。
心底そう思った自分にオレにとってのアイツって何だ、と一瞬疑問が湧くが面倒なので考えない事にする。

鬼鮫の車に乗ってからも、

「何だか楽しそうですねェ」

等と言われる始末。
オレ、相当嬉しそうなんだなァ。
何でだろ?
1回しか会ってねーのに・・・。
しかも客のジジイだぜェ?

この間会った時と同じ、老舗のホテルの前に着きオレは車から降りて植えられた大きな雪柳を横目に足早にホテルへ入りエレベーターで階を上がっていく。
初めてこの部屋に来た時とはまた別の、そわそわするような気持ちでチャイムを押す。
ゆっくりと開いたドアの向こうに立ってるのは紛れも無い、角都。

「へへ・・コンバンハ、角都」

ちょっと照れくさくて笑いながら目を逸らし挨拶をした。
角都はふ、と笑って部屋にオレを通す。
テーブルにはまたホテルの食事が並んでる。

「また、メシ食うだけ?それとも・・・」

それとも今日はセックスする?
言いかけて、止めた。

「メシ食うだけじゃ不満か?」

「全然!」

不満どころか少し安心した。
角都は客なのに。
身体だけの繋がりじゃ無い、とはしゃぐ心。
でも・・・。

そして、また二人で角都の用意したワインを飲みながらメシを食う。
少し酔いが回ったところでオレは角都に聞いた。

「毎日・・・電話くれてたって、マジ?メシ食うだけなのに・・・。オレ、でいいの?」

少しだけ嬉しい言葉を期待して。

「ああ、お前しか知らないからな」

・・・・・何だ。
角都の返事に少し落ち込む。

「オレが良くて、会いたくて電話くれたんじゃねーの・・・他に知ってるヤツが居ないから電話くれたのォ・・・」

思った事がそのまま口を吐いて出る。
ヤベェかな、と角都を見ると驚いたような顔をしていて、徐に財布の中からオレの名刺を出して見せた。
名前を書く所には字が書いてある。

「お前が気に入ったんなら忘れない様、名前を書けと言ったんだろう?オレはお前以外、一緒にメシを食いたいと思う程気に入れるヤツを知らん。大体、どうでもいいヤツに会う為あんな店に毎日電話なんか掛けん。金が勿体無い」

「はァ?何だよ、それェ!なんつーか、えっと、最初の話だけだと全然分かんねー」

顔が熱い。
何これ?
今なら顔から火ィ吹ける・・かも。
嬉しい。
恥ずかしい。
心臓、ばくばく。
片言だ。
オレはゼツか。

「普通こういうものは名前を書いてから渡すんじゃないのか。こんな不躾な名刺を渡されたのは初めてだ。1回、きっちり説教してやろうと思ってな」

・・・前言撤回。
ちっとも嬉しくねー。

「と、思ってたんだがお前の顔を見たら説教する気が失せた」

撤回の撤回。
良かったァ。
やっぱ会えて嬉し・・・

「あまりの馬鹿面に」

「はァー?!」

オレの百面相に角都が笑い出す。


「角都・・・そんな風にも笑うんだな」

「どういう風か分からんが、笑うくらい誰だってするだろう」

笑われた事よりも角都の笑った顔が見れた事が何だか嬉しくて、オレも笑った。

「オレ、角都にもう1度会いたいって思ってて、電話、ずっとくれてたって聞いた時凄く驚いて・・・今日も、まさか会えるなんて思ってなかったからさ、超嬉しい・・・」

「そうか・・・」

「1回しか会った事ないのに変だよなァ」

角都は黙ってオレの話す事を聞いている。
オレは角都が黙ってるのをいい事に酒の勢いで思わず聞いてしまった。

「角都・・・また会える?今度は店とか抜きで」

「・・・お前がそれでいいのなら」

「あの・・オレ、角都の近くに居てみてェ・・・」

「いつでも連絡して来い」

角都が自分の名刺を出す。
オレはぎくり、と肩が震えた。

「あ・・・えっと、さ、角都・・連絡くれよ・・・」

「・・・お前の携帯の番号は?」

角都がオレを見る。
オレはその視線から逃れたくて鼓動が早くなる。
掌の汗を握った。
どうしよう。
やっぱり変な事言わなきゃ良かった。

「ケ、ケータイは家に置いてきた・・でも、買ったばっかで番号が・・分かんねーんだ・・・」

声が震える。
だけど、角都は然程気にならなかった様子で少しだけ笑いながらオレを見て会話を続けた。

「だったら、お前から電話してくるしか連絡の取り様がないだろう」

「そ、うだよな!そうだよ、オレから電話する・・・オレ、電話していいの?角都迷惑じゃねェ?大丈夫・・・?」

「ああ・・迷惑、じゃないな。寧ろ楽しみだと感じている」

震えが止まって笑みが漏れる。
いいや。
後の事は後で考えよう。
オレと角都は笑って、またメシを食った。
つまんねー話も角都となら凄ェ楽しい。
気付けば2時間経っていて、帰り際に角都の頬にキスしようとしたら、それは止めろ、と言われて悲しくなった。
でも肩をそっと抱かれ耳元で「連絡を待ってる」と囁かれて、また顔が火を噴くほど熱くなる。
扉が静かに閉まってもくすぐったい様なうずうずする気持ちは消えなくて。
そんな気持ちを抱えたままエレベーターで降り、ロビーを抜けて出口の自動ドアの前に立つ。
ドアが両側に開けば外から暖かくて大きな春の風と共に、雪柳の白い花弁が嵐のように舞い飛んでくる。






暗い夜に渦を巻く花嵐。

甘いのか。

苦いのか。






オレは花雪の中を歩き鬼鮫の車に乗ってホテルを後にする。
バックミラーに映る雪柳は風に揺られながらオレを見つめていた。








ACT1:雪柳
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