novel2(BL book)

□flower
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しとしとと降り続ける雨が当たらない様に、コンビニの軒下で電話を掛ける。
ぴちゃん、と何度も音を立てて足元に出来た水溜りにまた、水滴が落ちていく。





flower





「もしもし、角都?オレオレ!・・・今日、何時くらいに仕事終わんの?」

「オレオレって・・飛段、お前はどっかの詐欺師か」

「なーに言ってんだよ・・つか、今日金曜日だけど・・・」

「ああ、分かってる。大丈夫だ。いつもの店で待ってろ」

「分かった!じゃあな!」

電話が切れ、口角が上がる。
今日は金曜日。
毎週金曜日は、外でメシを食う日。
角都と二人で決めたんだ。

一ヶ月程前、オレはこの角都に買われた。
買われた、と言ってもセックスした訳でもそれ以外の奉仕を強要された訳でも無い。
ただ二人で笑ってメシを食っただけだ。
だけどそれは途轍もなく簡単に、単純に、オレの心を角都に縛りつけた。
オレはウリの仕事で角都に会ったけど、仕事としてじゃなく会いたいと言ったら角都はあっさりと名刺をくれた。
それから何度か二人で会って、一緒に暮らし始めるのにそう時間は掛からなかった。
気持ちを表す言葉を交わした事は一度も無かったが、そんなもの無くてもきっと同じ気持ちだろうと思ってる。
だって、一緒に暮らしてるんだからな!

「電話、上手く掛けられたか?」

角都を思ってニヤついていると、突然背後から声を掛けられ慌てて振り向く。
そこにはコンビ二の制服を着て、手にゴミ袋を持つ友人の姿。

「小南!いつも悪ィな。小南のお陰でちゃんと掛けられた」

「そうか、それは良かった。礼にラーメン奢れ」

「高ェ電話代!・・けど、マジありがと。美味いラーメン屋探しといて」

「ああ」

二人で顔を見合わせ笑ってから、小南は店の前にあるゴミ捨て場の袋の交換を始める。

「そういやペインは?」

「ああ、また仕事が入って・・今度帰って来るのは半月後の予定だ」

ゴミ捨ての手を休めずに小南が言う。

小南とこんな風に話す様になったのは一年程前から。
事務所で借りてもらったマンションに住み始め、その一階にあるコンビニで毎日買い物をしていたんだ。
そんなある日、小南がそのコンビニにパートとして入って来た。
初めは只の愛想の悪いネーチャンだと思った。
けど毎日顔を合わすうちに段々と話す様になり、今ではすっかり友達だ。
オレの・・秘密を知っていて助けてくれるヤツ。
ウリやってる事も言ったけど、身体を大事にしろ、と言われただけでそれ以上は何も言わなかった。
それが、小南の優しさ。
小南には旦那がいる。
所謂、主婦というヤツだ。
旦那の名前はペイン。
・・・初めてその名前を聞いた時、外国人?と小南に訊ねたが小南はただ笑っているだけで答えなかった。
実はオレ、ペインにまだ一度も会った事が無い。
それと言うのもペインは長距離トラックの運転手であまり家に帰って来られないらしいんだ。
だから未だにオレはペインが外国人なのかどうか分からないままだった。
でも、いつかペインのトラックに乗せてもらう約束はしてんだ。
小南からペインのトラックは凄ェデコトラで、大きく世界征服って書いてあるって聞いたからさァ!
そんなん乗ってみて−じゃん。
だから小南にお願いしてペインに頼んで貰ったら、今度会えたら乗せてくれるって言ってくれたんだ。
だからオレも小南と一緒にペインが帰ってくるのを待ってんだけど、なかなか会えないんだよなァ。
勿論、ペインがいねー間に小南と浮気・・なんてしてる訳じゃねェよ。
小南とペインの間には他人には入れない絆?みたいなものを感じる。
オレはそれが羨ましい。
夫婦とかってのは、もしかしたら皆そうなのかもしんねーけどオレは今まで他人とはあまり関わらねェようにしてきたから。
詮索されないように、希薄に関係を保つ事ばかり考えてたから。
だから小南とこんなに仲良くなれて、秘密まで話して旦那のトラックに乗せてもらう約束までして・・冗談みてーだ。
けど少しだけ絆を分けてもらったみたいで超嬉しい。
それに角都・・・。
その名を思うだけで胸が高鳴る。
近くに行きてェ。
傍にいて欲しい。
もっと。ずっと。
他人に近づけば傷つけられて奪われるだけ。
だから他人に近づき過ぎないように、とそんな風に生きてきた。
なのに傷ついても構わないと思ってしまうこの気持ちが痛い。

「飛段、お前どこかへ行くんじゃないのか?」

「え?あ、そうだ、角都と待ち合わせてんだ」

呼びかけられた小南の声にハッとして顔を上げる。

「もうその男の所に住んでるんだろう?態々ここまで電車で来たのか?」

「駅二つだし近ェじゃん。・・・それにオレ、自分で電話掛けられねーし」

笑って小南に言う。
だけど小南は笑わない。

「・・・それ、角都ってヤツには言わないのか?」

「言えねーよ」

「そう」

「だから・・又、ここに来てもいいか・・?」

「当たり前だ、馬鹿。デコトラに乗るんだろう?」

「さんきゅ」

「さ、もう行け」

小南に促され、オレは角都との待ち合わせの店に向った。




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