novel2(BL book)

□oden
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金曜日の深夜2:30。

店内の客も引き、一緒にシフトに入っているヤツが休憩に入る。
がらん、とした店内には有線の音楽だけが響く。





oden




オレがこのコンビニでバイトを初めて半年。
一通りの仕事はソツなくこなし、余裕も出て来る頃。
おでんの具を補充しながら自動ドアの外を見る。
外は夕方から降り出した雪が更に強くなり、普段オレの目に映るもの全てを隠していく。
入口に敷かれている『いらっしゃいませ』と書かれたマットすら見えなくなっていて、オレはおでんの補充を急いで終わらせスコップを持って外へ出た。
ザッ、と音を立てて店の入口に積もりだした雪を掻いていく。
街中の音を吸収して深々と降り続ける雪は別世界の物のようで、暫し雪掻きの手を止めてその白に見とれてしまった。
そんなオレの横をすっ、と黒髪の男が過ぎていく。

「・・ッ!いらっしゃいませェ!」

ずれたタイミングで、それでも大きな声を出してお決まりの台詞を言う。
黒髪の客はオレを横目で見てすぐに店内に入りいつものコーナーへ。

金曜日の2:30過ぎに必ず来る人。

オレは名前も知らないこの人に会いたくて毎週この時間にシフトを入れてんだ。

慌ててレジに戻り商品を持って歩いて来るあの人を見る。
かたん、と置かれたものはいつもと同じ缶ビール2本。
それから、

「タ・・・」

言われる前に決まっている銘柄のタバコを一つ取り、缶ビールと一緒にバーコードを読み取っていく。
白いビニール袋に入れ、金を受け取り釣りを渡す。
少しだけ触れた手はとても冷たい。

そうしてあの人は出口に向かって歩いていく。
白い世界に消えていき、今日は終わり。
また来週まで会えないんだ。

「(なんか、嫌だ)」

突然そんな思いが突き抜け、気が付けばオレはあの人を呼び止めていた。

「待って!」

自分の出した声の大きさに自分で驚く。
あの人が足を止めゆっくりと振り返った。




店内に居る筈なのに全ての音は雪に吸収され、外の白とあの人が重なって・・時間が止まる。




「何だ?」

あの人の声で我に返った。

「あ!・・えッ・・・あァ、これ!」

一瞬止まった頭で必死に言い訳を探し、おでんの容器を取った。
色んな種類の具を手早く入れあの人に差し出す。

「・・・頼んでないが」

「あ、のさァ、アンタの手、すげー冷たかったから・・・」

「・・・・・」

「外ォ、さみーし、サービスっつーか・・・」

「・・・・・」

ただこちらを見てるだけのあの人。

「(やっべェ、オレ何やってんだろ・・・)」

差し出したおでんは湯気がただ立ち昇っていくだけ。

「あー・・いらねーよな、わり・・・」

おでんの容器を捨てようと掛けた手を力強く掴まれた。

「要らないとは言っていない」

「・・・はァ?」

「・・・あ・・有難う・・」

あの人の顔を見ると紅くなっていた。
きっと、あまり礼とか言わない人なのかもしれない。
オレは嬉しくなって笑顔で蓋をしておでんを渡す。
おでんを受け取り立ち去ろうとしていたあの人が、くるりと向きを変え眉間に皺を寄せ戻ってきた。

「(あれ?オレ・・・何かしたっけ?)」

あの人はオレの前に立ち、眉間に皺を寄せたまま言う。

「お前・・おでんは好きか?」

「はァ?あー、まァ・・・」

「近くに美味いおでんを食わせる店がある。お前のような若いヤツが来る店ではないが・・・落ち着いた、雰囲気のいい店だ。今度、オレと行くか?」

「・・・マジで?」

「ああ、今日の礼にお前が行きたければ連れていってやる」

「行きてェ!マジ本気で行きてェ!」

「そうか・・・ならばいつでも連絡して来い」

あの人は少しだけ笑い、名刺をオレに渡して帰っていく。
自動ドアの前でもう一度振り返り、

「お前・・名前は?」

と聞かれたので

「飛段」

と答えた。

そして今度こそ本当に雪の中へ消えていった。

有線が流れる店内で名刺に書かれた名前をオレは呟く。

「角都・・・」

何だか叫びたいような気持ちが湧き上がってきて思わず口角が上がる。

オレは走って外へ出て、物凄い速さで雪掻きの続きをした。
明日角都に電話して何を初めに話そうか考えながら。







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