novel2(BL book)

□いつもの朝
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いつもの朝


真っ暗な、湿った冷たい場所を一人で黙々と歩いている。
歩く度に泥がぬちゃぬちゃと音を立て足に絡みつき、空気は重く息苦しい。
ぜえぜえと息が上がるが立ち止まる事は許されない。
オレは歩き続けなければならないんだ。
誰かにそう決められた。

「(誰に・・・?)」

ぴちゃん、と何処かで水滴が落ちて響く音がした。

「(水が飲みたい・・・)」

そう思い、音のする方へ歩を進めるが水音はどこまでも響いているだけで水の在り処には辿り着けない。

「(ジャシン様、ジャシン様・・・)」

オレは神の御名を心の中で唱える。
身体が少し軽くなった様な感覚が走り、オレは何度も神の御名を呼んだ。
神の御名という灯火を胸にオレは暫く歩いていたが、何か冷たくて硬い物にぶつかりその場に倒れた。
手探りでその硬い物の正体を探る。
それはどうやら螺旋階段のようで、何でこんな所に、と思ったがこの階段の上には救いがあるような気がしてオレはその螺旋階段を上り始めた。





ぐるぐるぐるぐる回りながら上っていく。
くるくるくるくる周りの闇も上っていく。




どんなに上っても何も変わらない。
自分は一体どこへ向かっているのか。
上へ行けばオレは本当に救われるのか。

「(ジャシン様・・・!)」

それでもオレは階段を踏む。
いつしか自分が上へ行っているのか、下へ行っているのか、それすら分からなくなって喉の渇きだけがオレを形取る。

「ジャ・・シン・・・さま・・」

オレはとうとう声に出し神の御名を呼んだ。
疲れと乾きで掠れた声。
出ない唾液を必死で飲み込み神の御名を呼んだんだ。

「ジャシン様・・・」




『どうした、飛段。』




「ジャシン様!!」

神から名を呼び返されてオレは思わず階段を踏み外し転がり落ちる。
元の場所まで落ちて堪るか、と手を伸ばし必死で階段にしがみついて転がる身体を止めた。

「ジャシン様!」

身体中の痛みに耐えてもう一度神の御名を叫ぶ。




『水が欲しいのか、飛段?』




神に問われオレは何度も頷く。

「はい、水が欲しいです。」

助けてジャシン様。
この苦しい暗闇からオレを救って。




『そうか。』




神がそう言うと少しの沈黙の後、突然オレの顔に勢いよく大量の水が降って来た。











「・・・・・。」

「起きたか、飛段?」

神と同じ声が聞こえる。
目を開き声の元を見れば、バケツを持った角都がオレを見下ろしていた。

「・・・角都、もう少しマシな起こし方はねーのかよ?」

濡れた布団の上に起き上がりそのまま憮然として座る。

「水が欲しいと言っていた。」

「だからってよォ!・・・それに、それ寝言だろ。」

濡れた髪を布団の上に座ったままタオルで拭き、そのタオルを角都に投げつけた。

「オメーのせいで!コートがびしょ濡れじゃねーかよ!どうしてくれんだよ、着替え無ェぞ?!」

「馬鹿が。コートを着たまま寝るお前が悪い。外を歩いていればそのうち乾くだろう。早く起きろ、行くぞ。」

「もう行くのかよ?オレ、今起きたばっかだぜェ?!行かれねっつーの!」

「そのまま立ち上がって歩けばいいだろうが。馬鹿か。」

「・・・ッ!」

馬鹿、馬鹿と寝起きから二度も言われスゲェ腹が立ったが、これ以上怒ると腹が減るので黙る事にする。







夢の中で苦しんでいたオレを、水が欲しいと言ったオレを救ってくれたのはジャシン様では無かった。
方法はどうあれ、辛いオレを助けてくれたのは角都だったんだ。
ありがとな、角都。






なーんて、言うわけねーだろ!クソジジィ!!
オレは一睨みして朝メシぐれーは食わせろ、と角都に言った。

そしていつもと変わらない、今日の始まり。
















THANKS TARA!

 

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