novel2(BL book)

□かたみ
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かたみ


夢を、見た。
月の綺麗な春の夜に野宿をした日。
土の上に寝そべって空を眺めれば、月は満開の桜に消されてどこにあるのか分からなかった。
花弁ははらはらと舞い散り、まるで風花の様で。
視界を埋め尽くすその光景に息が止まりそうになった。

「なァ、いつオレを殺してくれんの?」

「・・・・・」

「どうやって殺してくれんの?」

「・・・・・」

「どうせなら今がいいなァ、オレ。」

「・・・・・」

「よォ、角都ゥ。」

「・・・煩い、黙れ飛段!」

変わらない同じ声と台詞が返ってくる。
オレは殺してくれない角都よりも、いつもと同じ事を言う角都に見えない月を見つけた様な安心感を少しだけ感じて目を瞑った。
角都と桜。
とても似合わなそうで、とても似合うと思ったんだ。

その薄桃色の花弁に何度、血飛沫を浴びせた事か。

壊れたオレの血と。
殺した奴の血と。
優しい色を紅に染める度に角都はオレをなおした。
どんなにばらばらになっても、小さな身体の欠片を拾ってオレをなおしたんだ。

直して、治して。

オレの五体を繋げると角都は馬鹿にした言葉を並べながら、でも満足そうに目を細める。
いつしかオレは自分の身体がなおらない時がくるなんて事を忘れちまった。
角都は必ずオレの傍にいたから。
分からなくなった。
壊れた身体と角都のいない場所。
神に問うても答は無。
闇に放り込まれたばらばらのオレ。

そこで目は覚めた。

けれどそれは夢では無かった。
オレは真っ暗な土の中で何度も瞬きをして、何も変わらない夢と現実を行き来する。
無い筈の指先が痒い。
もうイラッとする事も無ェ。
面倒くせェ。
オレはまた目を瞑る。

あの時、角都に見られた最後の身体が綺麗で良かった。
服は破れていたし風呂も入ってなかったんだけど、でも、全部がちゃんとくっついていた。
角都がいつもなおしてくれた通りの、人間のかたち。
綺麗なかたち。
角都と同じかたち。
角都。かくず。角都。
人のかたちは角都のかたみ。

今はもう、失くしてしまったけれど。






 

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