novel2(BL book)

□アンインストール
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死ね。死ねよ。死んじまえ。
全てぶっ壊れちまえばいい。
世界なんて、どうせ誰かがリセットするんだから。






アンインストール






昨夜から降っていた雪も止み、オレは一年ぶりに靴を履いて醜い世界へと続く扉を開けた。
泥の混じる汚れた白に覆われた外の世界に一歩、また一歩と足跡をつけて歩いていく。
ふと足を止め見上げれば空はまだ雪を降らし足りない様な顔をしていて、それはきっと今のオレと同じ顔だろうと思い笑いが込み上げる。
口角を上げたまま、そんなつまらない顔した空から顔をそむける様に目線を外し久しぶりに体感した外の空気に冷やされた耳が痛くて強く押えた。
少しだけ、世界の音が遠くなる。

「(やっぱ帰ろうか・・・)」

弱気な言葉が頭を過ぎるも足はサクサクと汚れた雪を踏み前へ進む。
まだ家が見える程度の所までしか歩いてないのに、ハァハァと上がってくる白い息に体力が無くなっている事を実感した。
冷たい耳から手を離して知り合いには誰にも会いたくねー、と思い俯く。
そのまま黙々と歩を進め一つ目の関門、駅に着いた。
切符を買って電車に乗る、という単純な事に酷く緊張する。
それでも何とか電車に乗り込み隅の座席に座ると無意識にハァ、と安心したような溜息が出た。
ごとん、ごとん、と少し懐かしい様な電車の音を聞きながら揺られていると座席の暖かさに気持ちが緩み、重くなってきた瞼を閉じた。


オレはこの一年間一歩も外へ出ていない。
家の中、自分の部屋の中だけで「とりあえず」という言葉ばかり使いダラダラと過ごす日々。
所謂、引き篭りというヤツだ。
引き篭りになったキッカケなんてありゃあしねぇ。
・・あったとしても誰にも言うつもりは無ぇし。
外に出たくねーから出ねェ。
それだけだ。
でもそれがいいと思っていた訳でもない。
だからといってナンタラ支援とかのムカつくヤツらと話をする気もおきない訳で。
そんな自分を持て余して、ただ毎日ネトゲをして過ごしていた時にゲームの中で変なヤツと知り合ったんだ。
そいつはゲーム初心者で話しているだけでもネトゲ、いやゲーム自体全てについてあまり知らないんだという事が分るくらいだった。
けど、ふとした事から始まった雑談の中でオレはつい自分の身の上を話しちまって、

「死にてー」

って言ったらそいつは、

「お前はオレが殺してやる」

冗談なのか本気なのか、分らないような返しをしてきて。
ハァ?こいつヤバくね?
とも思ったんだけどさァ、その時何故かその言葉にホッとしてしまった自分がいたんだ。
生きる事が苦しくて、かといって自殺も考えられない。
いいのか悪いのか、そんなオレをもしかしたらコイツが救ってくれんのかも、なんてな。
自分の生死を他人任せにしてちゃいけねーんだろうけど、これも神のお導きってヤツかもなァ!
・・・って、下らねーけど割と本気で思ったんだ。マジ本気。


それから毎日のようにゲームでそいつと会って話した。
そいつはゲーム以外の事なら色んな事を知っていて、ちょっとしたオレの下らない質問にもいつも真面目に答えてくれて。
オレが分かんねーと馬鹿だ、馬鹿だ、と言いながら、それでも一生懸命説明してくれた。
それにあいつに馬鹿、と言われても不思議と否定されたり本当に馬鹿にされてるような気がしなかったんだ。
一月程経った頃、オレはずっと考えてた事をあいつに言った。

「なァゲームとかじゃなくて・・・アンタと会いたい」

結構勇気がいったんだけど思いのほかあっさりといいよ、という答が返ってきて凄ェ嬉しかった。

そして、今日。
オレはそいつに会う為に一年ぶりに外へ出た。
ソイツの事は・・・まあ、会ってみなきゃ分かんねーけど・・多分、女。
だぁってさァ、使ってるキャラは背中に羽生えた可愛い天使の女の子で、HNが『マネーエンジェル』ときたら、やっぱ・・・女だと思うよなァ?
自分の事をオレ、なんて言うあたり口の悪い女だとは思ったがそんな女は沢山いるし、リアルもそうだとは限らねーしなァ。
容姿は一体どんな女か・・可愛いけりゃ何でもアリ、だな。
・・実は結構真面目なOLとか・・・?
秘書とかのエロいお姉様系とか!
それとも年下の委員長系の眼鏡っ子女子高生・・・。
いやいや!奇跡の出会いでモデルとか・・芸能人?!
オレの妄想は膨らんでいく。
それに、もし。

「お前はオレが殺してやる」

・・・どうせならゴツい男より綺麗なお姉ちゃんに殺された方が成仏出来そうだし。
まあ、そんな事件紛いな事に巻き込まれたくは無ェけどさ。
もしも、な。も・し・も!

夢現、そんな事を考えているうちに電車は目的地の駅に到着。
オレは慌てて駆け下りて、そのまま待ち合わせ場所へ直行した。
約束の時間より十分早い。
深呼吸して周りを見渡す。
ざわざわと混ざり合う人の声。
行き交う車の音。
ちかちか光る電飾。
どれもオレをイラッとさせるものばかりで手が震えてくる。

「(死ね。死ねよ。全てぶっ壊れちまえばいい・・・)」

震える手を抑えて周りを見ないように俯く。
目に入ったのは自分の汚れたスニーカー。

「(人に会うんだからもっとキレイな靴を履いてくれば良かった・・・)」

今度は自分が途轍もなく情けなくなり嫌になる。
気持ちがどんどん落ち込み、悲しくなって涙が出そうで堪えたが、目の前がぼやけていくのは止まらない。
やっぱり人に会うなんて無理だ、もう帰ろうと一歩踏み出した瞬間、肩を叩かれた。



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