novel2(BL book)
□アンインストール
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「ジャシン様・・・か?」
振り返るとそこには高そうなスーツにシワの無い、これまた高級そうなコートを軽く羽織り、ジュラルミンケースを持ったエリートそうなジジイが立っていた。
「・・・は?」
「ち、違ったらすまん・・・」
少し顔を赤くして立ち去るジジイの背中をぼんやり眺めてたが、もしかして、と思い急いで追いかけた。
体力の無くなったオレには少し走っただけでも相当キツかったが、ハァハァと白い息を何度も吐きながら何とかジジイの腕を掴まえる。
「待って・・アンタ、もしかして・・・マネーエンジェル?」
「・・・ああ」
「マジでェ?!・・ちっとダマされたわ」
「すまん」
あまりに素直に謝るジジイが可笑しくてオレはさっきまでの嫌な気持ちを忘れて笑い出す。
ジジイもそれにつられる様に笑う。
どんぐらい振りだ、こんなに笑ったの・・?
一年・・いや、もっとだ。
オレはこんなジジイに会う為に一年振りに外へ出たんだ。
笑いが止まんねェ。
「オレ、飛段。アンタの本当の名前は?」
「・・・角都だ」
「角都・・・」
オレはジジイの名前を呟いて顔を見る。
こんなエリートそうなジジイが引き篭もりのオレと今、同じ場所に、同じ位置に立っている。
・・こいつにも色々あんだろーな。
「メシは・・食ったか?」
不意に角都が尋ねてきた。
「あ・・食ってねェ」
「だったらこの先にフレンチのいい店があるんだ。そこでメシを食いながら話さないか?」
目の前の、通りの先を指差しながら言う角都にオレは笑顔で答える。
「勿論。あ、でもあんま高い店は駄目だぜェ?ほら、前も言ったけどオレ、ヒッキーなの。金とかあんま持って無ェの」
「心配するな。オレのおごりだ」
その言葉にちょっと安心してオレは角都について歩き出した。
角都の背中を見ながら角都が女じゃなくて良かった、と思う。
だってきっと女ならあんな風に笑ったり出来なかった。
角都だから、笑えて・・笑っただけなのに少しだけ気持ちが前を向いた・・気がする。
もっと話したい。
角都をもっと知りたい。
苦手そうなゲームを始めた理由、オレと会ってくれた訳・・マネーエンジェルの由来、そして死にたいって言ったオレを・・殺すと言った言葉の意味。
それから、それから・・・。
でも、とりあえず今はメシを食って少しだけ笑って・・どうでもいい話でもしようか。
一年振りに出た外は真っ白な雪がぐちゃぐちゃに踏まれた汚い世界だったけど、冷えた空気はちょっとだけ気持ちがいい。
外に出て良かった。
後で角都に有難う、と言おう。
そして、きっとまだゲームは止められないけど、毎日外へ出る事は出来ないと思うけど。
少しずつ、変っていけたら。
リアルはゲームより奇なり。
昨日までのオレを、アンインストール。
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