novel(夢book)
□移動遊園地−それは雨天決行−
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移動遊園地
―それは雨天決行―
オレはいつもの場所でいつもの景色に溶け込んでみる。
眼下に広がる町並みの喧騒はここまで届かない。
高みの見物、と言えば気楽そうに聞こえるが実際はそんな傍観などしてられない。
オレは里の任務をこなす為に里から一番離れてゆく。
それでも里は唯一のアイツとオレとの繋がりだ。
冷たい風が街から吹きあがり、踏み痕のついたボロ紙が舞ってきた。
オレはその紙を掴み目を通す。
汚れと破れで全ての文字は読めないが、一番大きく書かれている所だけはどうにか読めた。
来タル
移動遊園地
明日
「懐かしいな・・・」
不意に背後から声がしてチラリと目の端で見やる。
「私の気配に気付かぬ程何を考えていた?」
「・・・・・お前が懐かしい、と言ったものだ」
オレの後に立つ小南から視線を外さずに言えば、強気な瞳は空を見上げ柔らかくなる。
「そうか」
呟いた小南の顔はあの頃に戻っていた。
その日オレ達三人は任務帰りでとても疲れていた。
腹も減っていたし、ざあざあと降り止まぬ雨に体温を奪われ身体も冷え切っていた。
今襲撃にあったらきっとオレ達は完璧にやられるな。
そんな事を思いながら黙って弥彦と小南の後を付いて歩く。
前の二人も疲れているのか、口を開こうとしない。
暫く三人で雨の中を歩いていると小南が雨に濡れた一枚の紙切れを拾った。
・・・いくら折り紙を使い果たしたからといってそんな濡れて汚れた紙で何を折るつもりだ、と心の中で呟いて歩きながら小南を見る。
小南は紙を持つ手と反対の人差し指を折り曲げて、カリカリと齧りながら紙を見ている。
「(そんなに腹減ってんのか・・・?)」
まさかあの紙を食う気か?!
慌ててポケットの中を探る。
兵糧丸の一粒でもあれば・・・
「弥彦!長門!」
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