SS
□さよなら【哀沢 迥 】
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このSSは嫉妬≪偏愛V≫をご覧になってから拝読すると、より楽しめます。
「…ハルカ、ふざけてるの?」
リハーサル後にそう言い出したのは、ボーカルの宝だった。
「何がだよ」
「ベースがズレてる。歌いにくい」
宝は音感が鋭い。
竜と同じく100万人に1人の声質を持つ女だ。
「…悪いな」
「何かあったのか?大丈夫か?」
他のメンバーにも気を使われる俺。
竜と色々あったから、なんて言えない。
俺は別に怒ってるんじゃないんだ。
あいつが緋禄しか見てないのは知ってた。
俺の過去をちょこちょこ調べてたのも知ってた。
それが重なって、怒鳴った俺は大人気なかったと思う。
だから竜に「嫌い」って言われたのも受け入れてる。
あいつを傷つけた。
緋禄の死を受け入れて、元気になってた竜を傷つけたんだ俺は。
死んだやつは還ってこない、って
竜の不安を更に増加させた。
不安定なのに、更に棘を刺した。
最低だ、俺は。
泣き顔を見たいんじゃないのに、俺の存在が竜を傷つけた。
「明日ロスなんだから、調子取り戻せよ」
「悪ぃ。ちょっと頭冷やしてくるわ」
俺らのバンドは海外でツアーをやる。
明日から2週間は、一足先にLAに行ってツアーの下見がある。
竜のことでいっぱいいっぱいになってどうする。
俺はプロだろ。
やるしかねぇんだ。
それでもやっぱり、あいつの泣き顔は頭から離れない。
ぎゅってして、
頭をなでて、
傷つけてごめんな、って
今直ぐにでも言いたい。
だけど俺が居るとお前は不安になっちまうから
だからしばらくは帰らない。
連絡もしない。
LAから帰るときは、お前が喜ぶような土産でも買って帰るよ。
だからしばらくは、さよなら―…
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