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□勝てない人【足利槞唯】
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何がしたいのか。



ふと考えてみて、自分でも理解できない時がある。



「今月はこの決算書で大丈夫ですか?」


「そうですね…ここを削って、こっちに少し回してもいいと思いますが、これは次回で大丈夫でしょう」


「分かりました」



私のクラスの生徒である嵐は素直で可愛い。


勉強はもちろんのこと、学園の経理を担当している代表でもあり、誰からも好かれている。



私はそんな嵐の担任になれたことを誇りに思う。



私の可愛い生徒。



―――なのに…


「嵐、最近生徒会はどうですか?」


「え?まぁ、普通ですけど…」



苦笑いしながら私の質問に答えている嵐を見ているのが切ない。



嵐と洸弍くんの関係を、私は知っている。



お互いに想い合っていて、そして私に引き裂かれた関係。



嵐が何も言ってこないということは、この二人は想いを告げていないのだとすぐに理解できた。


「洸弍くんは、最近ミスをしていませんか?」


「……俺、自分の仕事でいっぱいいっぱいなんで、洸弍先輩のミスまで見てる余裕ないっす」



辛そうな顔して冷静を装って。


二人の仲を引き裂いておいて、更に嵐を苦しめようとしている自分が理解できない。



この二人が愁弥さんと神威さんとかぶってみえるからといって、いくらなんでもそれは酷すぎないか?



善意に満ちた自分と、
過去に囚われて自分の生徒を苦しめる自分。



なんて醜いのだろうか。



「それに俺、先輩には嫌われてますから」



仲を引き裂いた張本人に、思わず本音を出す嵐を見ているのが切ない。



「無視されるし。だから俺も、先輩を見ないようにしてるんで」




嵐は嫌われてなどいない。



事実が言えずに、嵐の顔を見ているしか出来なくて――…




善意に満ちた自分と、過去に囚われて自分の生徒を苦しめる自分が入り混じって。



こんなにも醜いものなのか、と自分自身に後ろめたさを感じて。



消えてしまいたいくらい、自分に嫌気がさす。




何がしたいのか。


ふと考えてみて、自分でも理解できない時がある。



この醜い欲望を、包み込むことが出来る日は来るのだろうか――…?







そんな私にも勝てない人がいる。




「ルーイちゃん」



この山田雅鷹という人。



高校と大学の先輩で、今ではお互いに同じ学園の教師をしている。



「何ですか?」



彼を敵に回したことはない。



―…と、いうよりも




敵に回そうとしたことが無いのだ。



なぜなら敵に回した時点で私の負けは目に見えているからだ。



「生徒会の経理の担当、今度から俺がやるから」



「…今更ですか?」



本当は雅鷹さんがこの学園の経理を担当するはずだった。



しかし彼は面倒だからと言って断り、それで私が担当になったというのに。



なぜ今更―…?



「あはは。なんで今更?って顔してるね」



雅鷹さんは私に顔を近付け、不敵な笑みを浮かべて語り出す。



「ルイちゃん、『追放返し』って知ってる?知らないわけないよね。経理の担当なら」



追放返し…



不正な手口で生徒を追放させた経理の担当者も、追放された生徒と同じような目に合うこと。



しかし『追放返し』は生徒会規約には記載されていない。



「『追放返し』は規約から無くなったはずですよね?」


「うん。規約には無くなったけど、やろうと思えば出来ちゃうよ」



規約に記載されていないことは、実際にやることが出来ないはずだ。



脅しか?



「記載されてなくても『追放返し』は山田財閥の人間だけが出来るんだよ。この学園を仕切ってるのはうちだから」



言われてみれば、MY学園を経営しているのは山田財閥だ。



山田財閥の人間にしてみれば規約なんて関係無い。



自分の判断で学園のルールを作成することが可能なのだから。



「もし嵐くんを追放させたら、追放返しが待ってるよ♪」



この人には勝てない。



敵に回した時点で私の負け。



上手くいってた計画も簡単に捩伏せられてしまう。



「まぁ嵐くんは追放させないし、ルイちゃんに追放返しする気も無いから安心してよ」



生徒会など興味の無い人だったはずなのに。



面倒なことが嫌いで、自由気ままに生きている彼に目をつけられたらおしまいだ。



「だから俺が今度から経理の担当をやるから」



「…分かりました」



勝てない。
勝てる要素が無い。



――…私の負けだ



「想い合ってる子達を引き裂いちゃダメだよ」



不敵な笑みを浮かべて笑って。



この人には一生勝てる気がしない。



計画が崩れ落ちる音が響く。



――…彼を敵に回した私の負け







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