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□Like you=Love you≪胡蝶様より≫
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メトロの改札を抜け、地上へと続く階段を登る。

出口で微風が脇を通過し、俺は足を止めた。

久々に見た太陽が思いの外眩しく、シャツに引っ掛けていたサングラスを着ける。

赤煉瓦に囲まれた町は、いつも見ている風景とは違っていた。



ある日、先輩に言われた。

「コウジ、観光とかしたのか?」
「あ、いや……」

そういえばフランスに来てから、ほとんど何処にも行けてない気がする。

ずっと師匠の付き人みたいな役割ばかりしてたから。

「たまには息抜きしないと、続かないって」
「ありがとうございます……」

いろんな場所を見てくればいいと背中を押され、外に出てみようと思い立ったのは今日の朝。

自分の部屋に居ても、考えてしまうのは仕事と……嵐のことばかり。

寂しい気持ちを紛らわすのには、うってつけだった。



広場のほうへ歩いていくと、様々な広葉樹が揺れていた。

漂ってくる甘い匂いは、ストリートに面した菓子屋のものだろうか。

優しくて、どこか懐かしい雰囲気だ。


「あ……」

鐘の音が、辺り一面に鳴り響く。

はっとして振り返った先には、真っ白い壁の教会があった。

不意に記憶が呼び起こされ、俺の意識は嵐と過ごしたクリスマスへとワープした。



あの時訪れたのは、こんなに大きな教会ではなくて、もっとありふれたものだった。

でも、二人で過ごした事実だけで、特別な場所へと変わったんだ。


その後に貰った腕時計は、今も大切に持ってる。

嵐にはネックレスをあげたんだよな。

無くしてないかな、あいつ。

……そんなわけ、ないか。


『洸弍』

脳裏にある嵐の声、表情、仕草なんかは、イヤでも覚えていて。

やっぱり好きなんだな、と再認識した。



「あれ……?」

……何やってんだろ。

感傷に浸るつもりで来たんじゃないのに。

気付いたときには、嵐のことしか考えてない自分がいた。


ふと、空を見上げてみる。

澄みきった蒼が目の前に広がった。

首もとを掠める風の心地よさに、ほっと息をついて体の力を抜くと、身も心も軽くなったように感じて。


「そうか……」

やっと分かった。

この、俺を包んでいる空が、嵐に似ているんだ……と。

重なって見えてしまうのは、仕方がないことなのかもしれない。



次に会うとき、俺の想いを素直に伝えられたら。

お前は、きっと喜んでくれるはずだから。

それまで、少しの間待っていて――。


ふわりと舞い上がった願いが、風の中に溶けて消えた。




【END】





----COMMENT----

無理いって嵐と洸弍の小説をお願いしてしまった。
サングラスかけてる寺伝さんが目にうかびます。
フランス編の小説が書きたくなった。漫画描けるといいな。
ありがとうございました!

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