小説

□偏愛
1ページ/5ページ





存在を知り、出会ったのは俺が20歳の時。





欲しかったのは声。







俺より5つ下の帝真 竜が発する声が、俺を癒していることに気付いた。





歌えない俺を、諭すかのような歌声。





もともと竜は、インディーズ時代のライバルバンドのヴォーカリストだった。




ただ、それだけの存在。





――…の、はずだった。




意識するまでは。





「ハルカさん、飲んでますか?」





ざわついた中、綺麗な声に呼ばれる。




振り返ると予想してた人物が俺を見ていた。




「あ、飲んでるよ。お前は飲まねぇの?」



「飲まない飲まない。明日学校だし」




そう言って笑いながら竜が俺に酒を注ぐ。




今日は打ち上げで、仲の良いバンドを俺のマンションに呼んで酒パーティー。




一部、未成年。



「ははっ。学校じゃなかったら飲んでんのかよ未成年」



「うん。嫌なこと忘れたいし。今日は飲まないですけど」




『嫌なこと』ってなんだよ。




たくさんの知り合いがいる中、俺は正直言ってこの隣にいる天使にしか興味がなかった。




竜がここに来るって分かった時の俺のテンションの上がりようときたら…



多分、誰にも見せらんねぇ。



ぜってぇファン減る。








竜を意識し始めたのはいつだったか忘れた。




最初は声が欲しかった。



声帯に原因があり、歌えなくなっちまった俺を癒す声が羨ましかった。




年下だろうと関係なく、ずっと気にはなっていた。



顔立ち、性格の良さ、無邪気さ…




それが恋に変わったのは、すぐだったと思う。




男を好きになるなんて思ってもみなかった。



だから最初は葛藤してた部分がある。



でももう割り切った。
俺は竜が好きなんだと。




笑顔が可愛過ぎる。
つぅか、存在がもうヤバイ。




携帯番号教えてもらった時は手が汗で滲んだのを覚えてる。



メールだって竜だけ着信音を変えてるくらいだ。




「ハルカ、独りぼっちになってる」



「え…?あれ、竜は?」



気付くと隣にいたはずの竜がいなくて、うちのギターの叶がいた。



「帝真なら、携帯持って部屋を出ていった」


「ふぅん」



電話、か…




久々に竜に会えたってのに、あんまり会話が出来なかった自分が嫌だ。



よく考えれば、話した内容『飲んでるか飲んでないか』ってことだけじゃねぇか





緊張なんてガラじゃねぇけど、竜に対しては臆病な自分がいる。




まぁいいや。



そんなんいつものことだ。



会えただけで満足。


…どんだけだ、俺。




「飲も…」





打ち上げが始まって3時間が過ぎ、時間はもう夜の1時になっていた。






.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ