小説

□偏愛W
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俺には何も無い。



愛していた母も兄もいない。



唯一、俺を大切にしてくれた人にも嫌われた。




ワガママな俺を温かく包んでくれた人を、俺は傷つけた。




あなたのいない、あなたの香りが染み着いた部屋。




ただ一人待っている。





ハルカさん、逢いたいよ―…












ハルカさんがいなくなってから1週間が経った。



携帯は繋がらないし、連絡もない。



俺は仕事が無いからスタジオでも会わないし、会ったら何て言ったらいいんだろう。





「ごめんなさい」って、



それだけで許してくれる―…?




そんな甘い考えを持つ自分に苛立つ。





俺には、ひー兄しかいなかった。



ひー兄が死んで、なにもなかった俺を救ってくれたのはハルカさん。



嬉しかったよ、俺を好きって言ってくれて。



俺はまだ子供だから、ハルカさんの気持ちに応えられなかった。



でも今は、応えられる気がする。



いなくなってから気付いた。



ハルカさんがいなきゃ、嫌だ。





「竜、どうした?」



教室でぼーっと考え事をしていると、嵐に声をかけられた。



「ん…何でもないよ」



俺は笑ってみせた。



「何かあるだろ?お前に会うの久しぶりだし、相談乗るけど」



嵐には何でも気付かれる。


俺も嵐の異変には気付くけど。



最近、嵐は恋が実ったみたいで明るい。



「もし、自分の好きな人に『嫌い』って言われたらどうする?」


だからこんな質問ムダかもしれないけど…





「…言われたよ、昔」



嵐は苦笑いしてた。



嵐は1つ年上の先輩が好きで、嵐と先輩は体だけの関係だった。



嵐が「好き」って言っても先輩には何度も「嫌い」って言われてたみたい。



「嫌いって言われて、傷つかなかったの?」


「まぁ傷ついた…けど、好きって気持ちのが大きかったからなぁ俺は」




もしかしたら俺の気持ちを分かってくれるような気がして、俺の状況を嵐に全て話した。





昔から、望むものはなるべく我慢してきた。



ひー兄さえいれば、それでよかったから。



俺がワガママを我慢すれば、父親はひー兄を傷つけなくなるかなとか勝手に思ったりして。




結局、離婚して離ればなれになったけど。




「竜さ…我慢してんの?自分の気持ち」


「え?」


「先輩も素直じゃないからさ、なんとなく分かる。俺だったら素直な気持ち言ってもらえたら嬉しい。ハルカさんもそうなんじゃん?」



我慢をしなくていいってことは、俺にとってはすごく勇気のいること。



自分が我慢すれば、周りの人には迷惑がかからないから。



いつも自分を制御してきたのに。





「素直になって…いいのかな」


「想いは言葉にするもんだと思うけど」




嵐に相談して、俺の心が軽くなった気がした。



「ありがとう嵐!」





ハルカさんに会ったら素直になろう。




そう、決めた。








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