小説

□妄想≪嵐×竜≫
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夏休みが終わり、新学期が始まった。



時間が経っても好きな人に言われた『嫌い』という言葉が未だに頭から離れない。




「なあ、竜」



「なに?」




「お前、嫌いな奴に嫌いって言える?」




同じクラスの竜と、来週提出する課題用の資料探しに図書室に来た。



俺は机に座りながら資料を読み、竜は背伸びして資料を取っている。




「なに、誰かに嫌いって言われたの?」



竜が振り返って俺を見る。



「いや、別にそういうわけじゃ…」




洸弍先輩を抱きながら俺は何度も何度も『好きだ』と繰り返したのに、先輩からは『嫌いだ』としか言われなかった。




「最近、嵐が元気ないのって…それと関係してるの?」



鋭いな、竜。



洸弍先輩は俺じゃなくて神威を好きだし、俺のこと嫌いだってのは分かってたことなんだ。



洸弍先輩はセックス出来れば誰でもいいみたいだったし。



遊びだったんだよ結局。



それなのに、本気になった俺がバカなんだ。




「…もう過去の事だからいいんだ」



生徒会室で一緒になっても仕事の話しかしないし、お互いに避け合ってるし。



あの頃に戻りたくても戻れない。



俺が好きなんて言ったから、だからウザったいと思ったのか?



ああ、



こんなことなら洸弍先輩を犯さなきゃ良かった。


好きだなんて言わなきゃ良かった。



「嵐?」



「俺だって嫌いな奴はいるよ。でも、そいつに嫌いだなんて言えない」




嫌いな人間に『嫌いだ』って言うことは、心の底から嫌いってことじゃないのか?



その言葉を俺に言った洸弍先輩は、俺の事が相当嫌いってことになる。




あぁ、なんだ。




どう考えてもやっぱり嫌われてんじゃん俺。



考えれば考える程、自分が惨めになっていく。



「また哀しい顔してるよ嵐」



資料を読む俺の背後から、竜が俺を抱きしめた。



「最近の嵐ずっと哀しい顔してる。そんな顔しないで」



「竜…」




竜に心配されるなんて、俺そんなに弱ってたのか?



竜は実の兄貴が病気で、もうすぐ亡くなるかもしれないのに。



ダメだな、俺。



辛いのは竜の方なのに―…





ふと、竜のつけてる香水の匂いが懐かしい感じがした。



凄く懐かしくて、愛しい人がつけていた香水。



林間学校以来のこの香り。




「洸弍先輩…」




洸弍先輩に後ろから抱きしめられてるような錯覚に陥って、竜の腕をギュウッと掴んだ。



「先輩…」




俺が呟いた言葉に竜が反応した。



「洸弍先輩って…生徒会の寺伝さんのこと?」



「いや…あ、悪い」



竜の一言でハッと我に返った。



バカだ俺。



香水ひとつで親友と先輩を間違えるなんて…



「もしかして嵐、寺伝さんとそういう関係だったの?」



竜が痛い部分を探り出す。



竜に本当のことを言ったところで何にもならない。



だって俺と先輩はもう―…




「もう終わったことだから。遊ばれて、嫌われて…終わったんだ」



思い出したくない過去。



洸弍先輩とキスして、洸弍先輩と抱き合って、それだけで幸せでいられた過去。



それが今では、会話すらない。



もういい、
もういいんだ




―…忘れよう









沈黙の中、昼休み終了の予鈴が鳴った。



「次の授業って何だっ…」



席を立って図書室を出ようとした瞬間、竜が俺の唇を奪った。





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