小説

□咲愛U≪浅希Side≫
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何か大切なことを忘れている気がする。



思い出してはいけない、



でも思い出さなきゃいけない、



脳内で矛盾が駆け巡り続ける。




僕は何を忘れてしまったんだろう―…?















「…希、浅希」




だるい体を起こして目を開けると、目の前に宮本さんがいた。



辺りを見回すと、見慣れた風景で、ここがカウンセリングルームだとすぐに気付いた。



「大丈夫か?」


「なんか…凄くだるいです。えと、雪春さんは…」



頭が痛い。


体も重たい。



あぁ、思い出した。



雪春さんはアメリカの大学に行ったんだ。



「雪春さんはアメリカでしたね」


「…あぁ。神城さんからの手紙だ。これを持って足利さんの家に行くといい」



そういって、住所が書かれたメモと地図を渡してくれた。



足利槞唯さん。



雪春さんの友達で、施設の支援者の関係者。



雪春さんが信頼している人。




「失礼の無いようにしないといけませんね。じゃあ、また来ますね宮本さん」


「週に1回はカウンセリングに来るんだぞ」


「はい」



僕はモデルの仕事もあるし、雪春さんはいつ帰ってくるか分からないから僕を日本に残した。



しばらくは足利さんの家でお世話になるけど、雪春さんのためならいつまでも待っていられる。



雪春さんが僕の全てだから。
















「僕は神城浅希と言います。よろしくお願いします」


「神城に言われてってどういうことだ…?」


「手紙を読んでいただければ分かります」




初めて足利さんを見た時、綺麗な人だと思った。



でも人を近付けさせないようなオーラを持っている。



まるで一人に慣れているかのような、そんな気がした。




「…アメリカ?」


「はい。雪春さんはアメリカの大学で心理学の研究があるとかで。しばらくの間ですがお世話になります」



雪春さん、足利さんに何も言ってなかったのかな?



急遽決まったことだから、言えないうちにアメリカに行ったのかもしれない。



「僕、家事は得意なのでやらせてください」




足利さんは僕を見つめたまま黙り込む。



確かに、迷惑かもしれないけど。



雪春さんが決めたことだからちゃんと言うこときかないと。




「宜しくお願いします、足利さん」




僕がそう言うと、足利さんは微笑んで返してくれた。



「ルイでいいよ浅希」


「はい、ルイさん」





これがルイさんと僕の出会いだった。






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