小説

□掴めない雲≪蝣稀様より≫
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彼らは有名だった。


四天王と言えば同じ学校でなくともその存在は知れわたっていて。

噂は様々で良い噂もあれば悪い噂もある。


そして

四天王に憧れを抱く者もいれば嫌悪を抱く者もいる。


その中に想い人のいる私は前者で―。

良くも悪くも噂に振り回されていた。



何て大人気ない。

冷静な性格だと自負してはいるが自分の実の心はこんなにも熱いものか、と最近になって気付いた。






「ルイ」


その声に呼ばれるだけで私は


「愁弥さん」





こんなにも好きでどうしようか

口元が綻んでいくのが分かる


「今日の生徒会の会議はなくなったそうだ」


話し掛けられるだけでこんなにも心臓は跳ね上がるのに

―この人は私など見てはいない。


わかっている

しかしわかっていると言うのは理解しているだけ。


どうしようもなく自分が惨めな気がして



「そう、ですか…」



ただでさえこうしてあなたと話せることなど多くはないのに。
でもあからさまにがっかりして見せることなど私に出来るわけもなく



「ああ、」





こうして現状維持のまま。

それでもいいと思っている

何よりあなたを失いたくないから






「おい、愁弥!」




なのに


「綾。」



この人が嫌いだ


私の知らない愁弥さんを知っていて

愁弥さんにとってもかけがえのない人。


負の感情を表現するのはあまりしない私でも、いくらか顔に出てしまう



「何だ、まーたこの真面目くんと話してたのか」



私の目の前で

愁弥さんに触れないで





「、じゃあ私は、これで―」












こんな感情はくだらない、と

そう笑い飛ばせてしまえたらいいのに。






くるりと背中を向けて足早に立ち去る。

すぐに視線を感じなくなったことに、泣きたくなった。






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