小説

□エゴイズム≪蝣稀様より≫
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どうしたものか。



最近、愁弥と目が合わない。
というより、避けられている。気のせいではない。
それは余りに自然でこの俺ですらやっと気づいたくらいだ。



当然何かあったとしか思えない。




なぁ、俺が見ている事にも気づいてるんだろ?
気づいてる筈なのに―
俺が何かしたのか?

嫉妬?
いや、まさか―
愁弥に限ってそんな事有り得ない。
じゃあ何だ。


思い当たる節が俺に全くないとすれば、愁弥が俺に対して何か後ろめたい事があるのだという結論に行き着く。


ざわめく教室の中、俺だけが静寂に包まれているようで胸がすごくムカムカした。


―何だこれ。



後ろめたい事と言ったら浮気だとかそういう事しか考えられないわけで。
愁弥がそんな事をする筈ないと高をくくっていた。


だって愁弥は俺の事が好きなんだから。



まるで子供みたいな独占欲。
この傲慢さがいけないのか。


いや、自信があって何が悪い。
いつも俺が愁弥に対して抱かせていたであろう思いをまさに今、自分がしているというのに何故か沸々と沸いてくる怒りが俺を蝕んで、



「、おい―」



何事もないように平然としている愁弥の席へ行き強引に目を合わせた。



「っ、―」


こんな至近距離であからさまな目の逸らし方

やっぱり何か隠してるんじゃねぇかよ



人間、頭に血が昇って怒りに我を忘れている時は何故こうも落ち着けるのだろう。


ぐい、と愁弥を立ち上がらせ言葉も出ずにただ歩き出した。




「、おい!何処に行くんだ!」


愁弥にしては珍しく声が焦っていた。
俺の手を振りほどこうとする行為がすごく切ない。


―何でだよ




「―…、ここと俺の家、どっちがいい?」

掴んだ腕は放さぬまま、後ろは振り向かぬまま。
じっとりと俺の手のひらが汗ばんだ。



「は?何の事―」





うるさいよ、お前。


強引にキスしてやった。
最初は抵抗しても、俺のこのキスが好きだと言ってくれたから。

唇を舐め上げ、舌を吸い上げ


なぁ、俺が好きなんだろ?





「んー!」


途端、口の中に鉄の味が広がる。
噛まれたのだ、と咄嗟に判断した。





「、って…」



何だよ、何なんだよ

泣きたいのは俺の方だ
お前は俺だけを見ていなきゃいけないのに
俺にはこんな感情似合わないのに



涙ぐむ愁弥に優しくしてやれない。





「、何、するんだ―」


口を拭って目には涙を溜めて

―ああもう壊してやりたい




「…なぁ、二人きりになろうぜ」


今でも充分に二人きりの世界は創れているのに愁弥を何処かに閉じ込めてしまいたいと思った。

お前は俺だけのモンだろ

理解しようとする愁弥を尻目に俺はまた歩き出した。
一分でも早くお前の顔を歪ませたい
それだけが俺の頭の中を反芻していた。








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